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モブキャラ転生者だけど、年下の幼馴染の薄幸系ヒロインが可愛すぎたのでメイドとして引き取ってしまった

作者: W.N.

似たような小説があったら、すみません。


僕には決して他人には言えないような秘密が2つあった。


1つ目は、転生者だと言う事。

何を言っているんだと思うだろう。

僕もそう思いたい。

でも、前世の事は昨日のように覚えていたし、2度目の人生という自覚もある。


何よりも、この世界は前世の僕がプレイしていたゲームの世界であるのが、最大の理由だった。

ゲームの名は『男女率1:99の学園でエロラブハーレムを築くお話』

タイトル通りのエロゲーである。

主人公の少年が訳あって、幼馴染と同じ学校を受けてしまい、合格。

しかし、進学先の学校は極端に男女率が偏った学校だった。

そこで繰り広げられるラブコメストーリー。


そんなエロゲーの世界に転生したのだ。

確信は大いにある。

まず地名がほとんど同じと言う事。

ゲームの舞台になる学校についても調べたが、もちろん実在した。

ほぼ間違いなく、ここはあのゲームの世界だ。

ゲーム世界に転生した。

これが1つ目の秘密。


そしてもう1つは、と言うと……。

これを説明するには、まず軽くゲームの説明をしなければならない。


ヒロイン達の可愛らしいイラストや声優さん達の迫真の演技でSNSでもかなりの高評価であった。

そしてこのゲームには1人だけ変わったヒロインがいた。

そんなヒロインの名前は雨宮夕香。


主人公の先輩キャラで、他のヒロインとは一歩下がった状態で接しているミステリアスなキャラクター。

いつも図書館で本を読んでいて、内向的な性格とメカクレ属性。

黒髪ロングにヤンデレと、いかにもオタクが好みそうなキャラ設定。

もちろん、前世の僕の推しキャラでもあった。

そしてこのキャラクターが僕の2つ目の秘密に直結する事になる。

それは──。



***



「だいちゃん。 朝ですよ。 起きてください?」


目が覚めると、そこには美少女がいた。

僕の4つ年下の少女で、肌は雪のように色白で美しく、艶々とした黒い髪は流れるように腰まである。

そして大きくて鮮やかな蒼色の瞳に、ふわっとした愛嬌のある体型。

まさに美少女である。


そんな少女の名前は雨宮夕香。

雨宮夕香である。

この名前を聞いて「あれ?」と思った人も多いだろう。

そう。 この美少女こそが僕の推しであり、あのゲームの先輩ヒロインである雨宮夕香、ご本人であった。


当初、初めて会った時は驚いたものだ。

ゲームの世界だと疑惑を感じた真っ先に彼女と出会ったから。

しかも幼馴染として。


「……朝?」


「そうですよ?」


「そっか……」


制服姿の夕香に起こされるのも日常になったある朝のこと。

僕は布団の中に立て籠っていた。

まだ寒い、このまま暖かい布団の中にいたい。

寒さに打たれ弱い男とはまさに僕のこと。

まず、ここから動く事は無い。

すると──。


「だいちゃん。 起きてくだい。 あーさですよ?」


耳元で囁かれる甘い声。

暖かい空気が耳を包み、くすぐったい。

でもかわいいから許す。


「……分かったよ」


仕方ないなと、渋々布団から出る。

だけど、部屋は寒いし、まだ暖かい布団の余韻を味わいたいので、のそのそとナマケモみたいにだいぶ時間を掛けて出ようとする。

でも、幼馴染の夕香はそれを許さなかった。


「だいちゃん……いつまで、そこにいるんですか?」


だいちゃんとは僕の愛称である。

本名は北村 大輝。

だから“だいちゃん”。

命名は夕香(4歳)。

ちなみに僕もわりと気に入っている。

布団の中でのんびりとしていると「ダメですよ!?」と夕香に強引に剥ぎ取られた。

ああ、僕の布団が……。


毛を剥ぎ取られた羊のような気分。

部屋の寒気が僕の身体に襲いかかる。


「寒い……」


「それならリビングに行きましょう? エアコンが効いてますし、暖かいですよ?」


──それとご飯も出来てますからね?

夕香は小さく微笑み、部屋を退出してしまった。


「はぁ……」


行くか……。

椅子の背もたれに掛けてあった黒のジャージを羽織って、1階へと降りる。

リビングの中央にあるシラカバの木で作られたテーブルには、豪華な朝食がずらりと並んであった。

全て彼女が作ったのだろう。

流石としか言いようが無い。


「それでは、食べましょう?」


「そうだね」


「いただきます」と手を合わせる。

つい数年前までは1人が当たり前だったのに、今では夕香と2人で食べるのが当たり前。

日常は変化するものだ。

しみじみしとしながら、彼女の手料理に手をつけた。


「味は、どうですか?」


「最高」


やっぱり、食事は美味いのが一番だ。

五臓六腑に染み渡る。

そう言う点では、夕香の手料理は最高であった。


「ごちそうさまでした」


「お粗末さまでした」


朝食を食べ終え、夕香と一緒に食器を片付けるようとする。

でも、幼馴染にストップの手が入った。


「大丈夫ですよ。 私がやりますから」


「でも……」


「わ・た・しがやります!」


「すみません」


トボトボとリビングのソファーに座る僕。

年下の女の子に言い負かされる大人って。

情けない奴もいるんだな……あっ、僕か。


「……」


食卓から少し離れた場所に置いてあるソファに座った僕は、遠慮のない大きなあくびをしながら、幼馴染兼メイド兼同居人の後ろ姿を見つめる。

……綺麗だな。

あと、制服姿なのにホワイトブリムだけは着ているのも、かなりアリだと思う。


「……」


いやいや、何を考えているんだ僕は?

コホンと誤魔化すように咳をし、時計を見る。

時刻は7時38分を差していた。


「そろそろじゃない?」


そろそろとは学校のこと。

17歳の彼女は、当然学校に通っている。


「あっ、そうですね……しばらくだいちゃんと会えなくなりますね」


「8時間だけどね」


「長いですよ」


ザーッと流れていた水を止め、皿洗いを中断する夕香。

僕がソファーの近くにあった鞄を幼馴染に渡せば、彼女は嬉しそうな表情になった。


「ありがとうございます」


「気にすることは無いよ。 じゃあ、いってらっしゃい」


「はい。 行ってきますね」


玄関がガチャリと閉まり、僕1人になった。

リビングに戻った僕は腰掛けチェアーに座る。


「仕事は午後からか……」


愛用の椅子に腰掛けると、ガラスの机に置いていたスマホがブーッとバイブした。

メールだ。

僕はスマホのロック画面を解除して、アプリを開く。

メールの送り主は夕香からだった。


『お昼は冷蔵庫に入れて置きました。 チンして食べてくださいね』


「いつも助かるな……」


本当にありがたい。

ありがたいけど、頑張り過ぎな気がする。

このままじゃ彼女無しだと生きていけない体になってしまいそうだ。

……言い方が少し卑猥だな。


「まっ、それもいっか……」


椅子をゆらりゆらりと前後に揺らす。

ふと、窓を見てみれば、そこには空が見える。

色は青く、雲一つない快晴だ。

夕香と同居する事になったもの、丁度同じような空模様だったな。


「懐かしいな……」


同居し始めた時は子供だった夕香も今では立派な高校生。

そんな事を思っていると、またメールが届く。


『洗濯物は取り込まないでくださいよ? それはメイドさんの仕事ですからね?』


「……」


メイド。

夕香の肩書きである。

今は家族のように過ごしているが。本来は僕と彼女は主人とメイドの関係性だった。

彼女の未成年後見人であり、今は海外にいる僕の母にはこの事は告げていない。

夕香が僕の家のメイドになったのは、彼女が同居した時からである。

彼女の父親は幼い頃に不倫で離婚。

母親が事故で亡くなり、独り身になっていた所を声を掛けたのだ。


本当は声を掛けるつもりは無かった。

何故なら、ここはゲームの世界。

そして僕はイレギュラーな存在である。

だから、下手に声を掛ければ、彼女の運命──それすなわち原作の世界を壊す事になる。

原作の夕香は意地悪な親戚の家に預けられるものの、そこで虐待に似た扱いを受ける。

だが、その親戚もすぐに亡くなり、社会の裏に手を染めることになる。

それから中学生では考えられないような壮絶な運命を辿り、原作のクールでミステリアスな雰囲気を漂わせるキャラになる。


それが彼女の運命なんだ。

心の痛みを無視して、運命を受け入れる──なんて事は出来なかった。


元々、僕と夕香は家がお隣さん同士だった為、家族同士の付き合いであった。

謂わば幼馴染の関係だ。

彼女もずっと僕を慕ってくれた。

だから、彼女の救いを求めるような瞳を見た時、無意識のうちに声を掛けてしまったのだ。

「僕の家に来るかい?」って。


ここまでなら、主人とメイドなんて関係にならないだろう。

何故、こんな関係になったのか。

それは彼女の性格からだった。


「ありがとうございます。お話はすごく嬉しいですけど、お断りします」


「それは……どうして?」


「……迷惑になってしまいますから」


「迷惑?」


「はい」


「……」


夕香曰く、いつもお世話になっていた僕にこれ以上世話になる訳にはいかない。

幸い、預かってくれる親戚がいるから大丈夫です。

これが彼女の言い分だ。

しかし、僕は知っている。

その親戚は彼女の遺産目当てである事。

この先に待ち受けているのは、壮絶な未来である事。

それに一度は見捨ててしまおうとしてしまった罪悪感もある。

だから、僕は続けるように言ったのだ。

「じゃあ、取引しようよ」と。


こうした経緯もあって、主人とメイドの関係になった僕たち。

家事全般が苦手で、毎日がコンビニ弁当、カップ麺と自堕落な生活を送っていた僕とは違い、彼女は家事スキルがとても高かった。

それも大人顔負けレベル。

洗濯、料理、掃除。

全てバッチこいである。

衣食住の内、僕が家とお金を、彼女が家事を提供する。

僕たちの関係はあっという間に定着していった。


「……」


時間がチクタクと流れていく。

仕事は休みなので、家には僕しかいない。

とは言っても、僕の仕事はWebデザイナー。

仕事があっても、住宅勤務だ。

一応、副業でいろいろとやっているので、財政は黒ではある。


「暇だ……」


話し相手が誰もいない。

……そうだ。 久しぶりにゲームでもするか。

思い立ったら吉日。 リビングの隣にある和室の引き戸を開けると、まるで待ってましたと言わんばかりに詰まっていた物がドドドと崩れていった。

雪崩だ。

引き戸にしまっていた古い服や、来客用の布団が地面に広がる。

幸いにも僕自身への直接的な被害はない。

ただ──。


「……」


やべぇ……どうしよう。

片付ける? だけど、どうやって置かれていたっけ?

家事の全てを夕香に任せていた恩恵が仇となって返ってきた。

でも、無理に戻そうとしたら、更に崩れるかもしれない。


「……帰ってくるまで待つか」


怒られるだろうなぁ。

でも、しょうがない。

ふと漏れる大きなため息。


「……」


よくよく考えてみると、かなりまずい気がする。

自分の家なのに、自分の自由に出来ないって。

しかも全て夕香任せ。

……まずいな。

どうやら僕は彼女無しじゃ生きられなくなってしまったみたいだ。


ハハっと、家中に乾いた笑い声が響いたのは、その直後だった。



***



だいちゃん。

私の大切な人。

お父さんがいなく、お母さんに先立たれてしまった私を救ってくれた。

私の一生の恩人。

もしだいちゃんがいなかったら……。

もしあの時、差し伸べられた手を取らなかったら……。


こんな楽しくて幸福な生活は送れていなかったでしょう。

だいちゃんには本当に感謝しています。

 

だいちゃんは私の4つ上だけど、立派な社会人として自立しています。

正直、私の4年後にああなれるかと問われば、それは難しいと答えるでしょう。

そんな憧れの人でもあるだいちゃんですが、最近だとおっちょこちょいな場面もありました。

例えば、私が帰ってきたらソファーの上で健やかな眠り顔を晒していましたし、この前は調味料を間違えていましたね。

どんなに凄い人でも欠点はあるとは言いますが、彼のそんな場面を見ると、なんだか、とてもかわいく感じてしまいます。


だけど、だいちゃん?

引き戸を開けたら、物が雪崩れてしまうのは、流石にないと思います。

申し訳なそうな表情をしたから、すぐに許してしまいましたけど。

案外、私ってチョロいかもしれません。

でも、それはだいちゃんの前だけですから。

セーフですね。

はい。


ある日の夕方。

学校が終わり、私はスーパーで食材を買ったあと、まっすぐと家に帰ります。

家に帰れば「おかえり」とだいちゃんが迎えてくれるからです。

私が大好きな日常の1つ。

お母さんが亡くなった時には想像すら出来なかった光景。

だいちゃんにはどう恩返しすれば良いのでしょう。

私には分かりません。

年頃だと思い、時々誘っているのですが、全く興味を示してくれません。

小さいのがいけないのでしょうか?

でも、他に方法は見つかりません。

何としても恩返しの方法を見つけなくては。


そんな事を考えていますと、愛家が見えてきました。

残念ですが、この事はまた後で考えましょう。

キーホルダー付きの鍵を取り出して、鍵口に差し込みます。

やっとだいちゃんに会える。

早く会いたくて堪りません。


出来るなら、抱きつきたい。

出来るなら、その服の香りを楽しみたい。

出来るなら、その……1つになりたい。


……でも、我慢です。

だいちゃんも今頃は仕事中でしょう。

私のわがままで困らせる訳にはいきません。

気を落ち着かせる為に、大きく息を吐いて、ゆっくりとドアを開けます。


「ただいま帰りました」


でも、1つだけ私のわがままを聞いて下さるなら──。

今夜も一緒に過ごしましょう?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 生活破綻者の大ちゃんに必要なのは女性版ユリアン。
[良い点] 面白かったです。もう少しイチャイチャみたいですね。
[一言] えっと続きは?^ ^
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