俺の心霊写真を撮ってくれ! 1
田車 真は情報系の専門学校に通うために1人暮らしを始めた。
初めての1人暮らし、期待と不安を胸に始まった新生活は、まぁまぁ順風満帆である。
そう、さっきまでは。
草木も眠る丑三つ時、田車は金縛りに襲われていた。
しかし、幽霊など微塵も信じていない彼は「おっ、明晰夢を見るチャンスじゃね?」などと呑気に考えている。
だが、その余裕も一瞬で消えた。半透明の男が田車の顔を覗き込んでいたのだ。
田車は恐怖からか意識が遠のき、そのまま気を失った。
朝になり、窓から日差しが差し込んで田車は飛び起きる。体は自由に動くようだが、汗をびっしょりとかいて気持ちが悪い。
昨日見たあの男は何だったのだろうか、夢か幻か、それとも……。
いや、幽霊など居るわけがない。
この高度情報化社会で幽霊に怯えるなど科学的ではないと自分に言い聞かせ田車はふと居間の方を見た、いた。
「あー、わりぃ。金縛ばっちゃったみたいで」
30代半ばぐらいの半透明の男はバツが悪そうに頭をかきながらそう言う。
田車はまだ夢でも見ているのだろうと頑なにその存在を認めず、頬を引っ叩いてみたがしっかりと痛い。
「ちょっとさ、悪いんだけど頼みがあってな。ちょっーと協力して欲しいんだけども」
男は田車に頼み事をしてきた。
頭の整理が追いつかないが、田車は台所へと向かい、料理用の塩を手のひらいっぱいに握りしめて。
「悪霊退散!!!」
男へとばらまいたが、塩は男を浄化するでもダメージを与えるでもなく、ただ床に散らばっただけだった。
「あー、そのだな、俺って塩効かないのよ」
「なむあみだぶつ!!なむあみだぶつ!!」
「悪いけど念仏の類も効かねえんだ」
田車はパソコンデスクの前まで無言で歩いて椅子に座ってふぅーっと溜息を付く。
終わった、新生活終わったと。
幻覚ならば自分が終わっているし、仮に、認めたくないが、仮に幽霊ならばここは事故物件だ。
「いやマジ、金縛ちゃって怖がらせたのはマジ悪いと思ってるよ、マジでマジ、ほんとーゴメン!」
そう言って男は両手を合わせて頭を下げてきた。田車は半分やけくそに男との意思疎通をはかってみる。
「あのー、あなた誰ですか?」
初めて田車から話しかけられたことで男はパァーッと明るい顔をした。
「いやー、俺は『加藤』ってんだ、下の名前は忘れた! お前さんは田車ってんだろ? 俺ってありふれた名字だから珍しい名字とか妙に憧れたりすんだよねー」
ペラペラと男は話し始め、田車はげっそりとした顔でそれを聞いている。
「おっといけねぇ、人と話すのが久しぶりでついベラベラ喋っちまった」
あー、はいはいと田車は適当に流して本題に入ることにした。
「えーっと、それで加藤さん? は何が目的なんですか?」
よくぞ聞いてくれましたと加藤はドヤ顔をする。元気な幽霊だなと田車は思った。
「俺の目的はただ1つ! 成仏がしたいんだ」
とりあえず悪霊の類では無さそうだと思うと、不思議ともう恐怖心も無かった。話していると加藤はただのおっちゃんだ。
「成仏したいならお寺とか神社とかを訪ねてみれば良いんじゃないですか?」
「それがなー、それじゃ俺は駄目みたいなんだよ。長い話になるけどいい?」
長い話と聞いてうーんと田車は考える。
「とりあえず汗でベトベトなんでシャワー浴びて着替えても良いっすか?」
「あぁ、そうね。ほんと金縛っちゃって悪いね!」
田車は風呂へと向かうと服を脱いで熱めのシャワーを浴びた、そして思う。
(金縛っちゃってって何だよ!!!)