異形
部屋を出る前に上半身にグルグルと巻かれた包帯をはがし……
おもむろに自分が受けた傷を確認した……
右の胸部にかけて…5本の太く鋭い刃で貫かれた跡がくっきりと残っている
「…………」
「これでも着てろ…無いよりはましだ…」
ドクターがそう言うと僕に上着と茶色のコートを渡し……それに袖を通す…
その間にドクターは僕達が今現在居る場所について軽く話したが………
どうやらここは今はもう20年前ぐらいに潰れた『幽幻荘』というアパートで
たそがれ町都市化計画による強制的な地上げによって無理矢理土地を奪われ………
都市化計画そのものが白紙となってからは誰もこの土地の買い手が見つからず取り壊しも出来ないため
夜な夜なやってくる輩どもの心霊スポットとして利用されていると言う
ガチャン……
部屋を出ると外はもう真っ暗で不気味なほど静まり返っていた。
今は何時なのだろうか……可能であれば狐月に連絡をとりたいが……
あの騒動で携帯を紛失してしまった上に腕時計も持ち歩いていない……
そんなことを察してかドクターは
「既に日付が変わっている……今日はこのアパートの一室を使うと良い…連絡なら黒電話を使え……」
0:00か1:00ぐらいだろうけど……そんなに経っていとは……
狐月………心配してるだうな………
そんなことを考えているとこの建物の右端の一室の前に到着した……
「入る前……これをつけておけ」
と、どこにでもあるサングラスをドクターから手渡され……それをつけると
ドクターも同様にサングラスをつけ……部屋の中へ入ると……直ぐにドアを閉めた
直ぐに気が付いたが……
左の部屋の扉の隙間からサングラス越しでも眩しく見えるぐらいの強烈な光が漏れていたのだ……
「ここから先………絶対それ外すなよ……フリじゃないから」
「あぁ………」
そう言うとドクターはその部屋の扉を開け………まばゆい光の中へと入って行った
そこで見たものは目を疑う光景がそこにはあった………
「これは!?」
「君を殺した張本人だ………あと10000秒は目覚めない……だが目覚めた所で何も出来ないがな……」
よくドラマとかでみる手術台の上にこの世のものとは思えない異形とも呼べる存在がそこにはいた…
まず……両腕が異常なまでに肥大化し爪が異様に発達し1本1本が短剣程の大きさで………
身体は2メートル以上……
顔は細かい毛で覆われ………鼻が異常なぐらいに高く………『モグラ』のような外見をしていた……
「こいつに……僕は……」
「18世紀の江戸に出回った書物に……この怪異を『土竜の怪異』別名『わいら』と呼んでいたらしい……」
確か、巨大な牛のような体に前足には太く鋭い鍵爪が1本ずつ生え……
小動物などを捕食するものもいれば………より巨大な個体になれば人間をも捕食するとか………
だが……今目の前にいるこの個体は
明らかに人間がベース………
今までにこんな特異な個体の目撃情報はない………
となると考えられる答えは……
「………元人間………」
「そうだ……こいつは人間だ………」
「………かつてたそがれ町に『ヒトクイ』という怪異による猟奇事件があった………そいつも元は人間で生前カニバリズムをしてたらしく…その由縁か何らかの形で怪異として現れたことがある…」
しかし…妙だ………ヒトクイと遭遇した時は鋭い寒気がしたが………
こいつに限ってはそれが一切なかった……
明らかに『ヒトクイ』以上の脅威になるかもしれない存在であるには違いないが………何故こいつも一緒に連れて来られたのか不思議ではあった………
「ヒトクイの話しも興味深いが残念だが………この怪異に限っては後者だ……」
「………まさか…そんな筈…科学で証明出来る存在ではないことは決定的だ!もし……これが僕の中にある推測が本当であれば…ダーウィンの生物進化論が間違っていると言うことになるぞ!」
だが……次のドクターの一言で僕の中にある知識の一部がまた覆ることとなる……
「それはあくまでも表の話し……実際……既に君が想像するよりも科学や生物学の発展は500年以上も進んでいる。」
「そして……その進化の末路が………この怪異だ………」
人間が………生きた人間が………怪異に………
信じられなかった……今まで得た知識は何であったのかわからなくなる…
後にドクターはこの怪異化と呼ばれる現象を……『寄生型百鬼β』という生物兵器によるものだと伝えられた……
「体内から溶けかけの錠剤のカプセルが見つかった……投与から約60秒程で体に何かしらの変異が起き怪異化してしまったのだろう……」
「そんなものが何でたそがれ町に………」
「世界には混乱を避けるため報道してないが………既に世界各国でその事情が確認され揉み消されている。」
続けてドクターはとある地方で起きた怪異事件………
一時期、神埼一族も臨戦体制に入った
『神食いの怪異事件』について語るのだった