ドクター
ピッ……ピッ……ピッ……
ピッ……ピッ……ピッ……
「…………………………」
医療に使われる心電図の音が耳に響き……それが妙に鬱陶しく思い
重い目蓋を錆びたドアを開けるかのように自力で開けると……
病院とかで見る白い天井ではなく…
古い民宿の1室に白色電球が唯一灯っているだけのシンプルなものだった。
「7200秒と1秒…予想通りだ………」
1人の男性が突然そう呟く……
7200秒は時間に直せば2時間…と1秒…
僕は声のする方に顔を左に向けると
電球の光に照らされながらその声の主を知ることとなる…
大体約170cmの背丈に白衣の下に赤いTシャツで濃い緑の迷彩の半ズボンを履いた黄土色の髪をしていた。
「…………ここは病院……ではないな………とりあえず礼を言わせてもらうよ…ありがとう。」
白衣の男は鋭い眼光を向け…淡々と話し始めた。
「君を生かしたのは俺ではない……」
「………………」
「心臓を貫かれ……即死……生物学的には確かに死んでいたが……60秒後……心臓が自己修復を始めたことでオペを施した。」
心臓を……
やはり……あれは現実だったのか……
だが……生物学的には死んでいたのなら心臓が自己修復するのは話しが矛盾している……
「オペ中2300秒……君には感情の1つが欠損しているのを確認し…それを治療しようとしたが……拒絶反応が起き治療を断念した。」
感情……この白衣の男はそこまで治せるのか……
普通ならカウンセリングや定期的な薬品投与などの長期的な治療になるが……
どんな方法で治療しようとしたんだ?
「オペ後……君は麻酔が効いている中…譫言で『君からは「恐怖」を奪った。まあ死にはしないから』と……」
かなえさまの言葉だ……
麻酔が完全に効いている中喋る奴なんてまずいない……
麻酔が効いていても話せるのは部分麻酔のみ……
「……3年前だ……」
僕はその白衣の男に3年前に起きた神隠し事件と『かなえさま』との契約のことを話すと
白衣の男は
「なるほど……大体わかった……タイミングからして恐怖を抜かれる時だな……」
「何のタイミングですか?」
「平たく言えば神の加護……悪く言えば死の剥奪……つまり」
この白衣の男が何を言いたいのか既にわかってはいた…
いや……もうとっくの昔に答えは出ていたのかも知れない……
トラックに轢かれ……
銃で撃たれ……
自らの腕をばっさり切った……
いずれの行為は死に直結するものばかりだが……僕は死ぬことなく生き続けていることに疑問を抱いだかない訳がない
「不老不死…………何だろ?」
僕がそう言うと白衣の医者は
「……それに近い体質と言った方が良い……君の場合は不死ではなく死者蘇生……」
「君は確実に命を落とし……再び蘇っている……恐らくその神の仕業で間違いはない。」
僕は目の前で突きつけられた真実をただ受け入れるしかなかった……
後に白衣の男は自らを『ドクター』と名乗り……
僕も自分の名を名乗った……
『ドクター』は続け様に「ついて来い」と言うが……
先ほど目覚めたばかりの重体人がおいそれと立てるわけがなかったが……
「もう300秒前に完治はしてる……」
あまりにも消極的な態度にイラッとしながらも『どうにでもなれ』と無理矢理体をおこした反動で立ち上がった……
「ま、まじかよ……」
ドクターが言った通り……あれだけの致命傷の後で体に何の痛みもなく……
それどころか体が妙に軽く気分が凄く爽やかだ……
ドクターと名乗るこの男は何者なのか?
やがて僕はこれから体験するたそがれ町に潜む闇を目の当たりにすることになるなんて思っても見なかった……