怪異の世界 肆
真っ暗な空間…
音も光も何もない…
これが…『死』というものか…
私が死んだことで、神埼一族は滅んでしまったが…最後の希望である月影は守れた…
これで先に逝ってしまった零二に会える…
けど…
これで本当に終わって良いのだろうか…
『狐月……狐月……』
誰かの声が聞こえる…
あっちからだ…
行く宛もなく声の聞こえる方向へ歩き始めると、その声は段々と鮮明に聞こえてくる…
『狐月……あなたが神埼一族に残された最後の希望…』
『ここで、あきらめてはいけません…』
『狐月…あなたの身体には私の月の一族の血が少し流れている』
『先祖代々受け継がれてきた血を…絶やすことは…神埼一族の守人として…絶対に…』
これは…月影?
どこにいるかわからない月影の声を頼りに彷徨っていると…
北極星に似た、か細くも強い光が目に映る…
『あなたは、かなえさまの1件で妖力を失ったけど…』
『もしかしたら……1%にも満たないかもしれないけど……可能性が残されているなら……』
『私の血が起爆剤になって……再び……力を…』
その光の先に…妖狐姿の月影が神刀虚月を携えて立っていた
月影に近くと、神刀虚月の鞘を横に持って私へそれを渡すように前に出す……
その妖刀は妖狐である月影以外には扱えない代物……
それを私に……
「今のあなたなら……きっと……」
「月影……だよな?……その刀は月影以外には扱えない筈じゃ」
「確かにそうです……ですが、私の血を分けた神埼一族であれば……きっと……」
「………………」
私はそっと月影の神刀虚月の柄に手を掛けると……
脳裏を駆け巡る数々の記憶……
ーー狼月と共に数多の怪異からたそがれ村を守り、狼月亡き後も当主になった狼月の娘を支えていた
ーーどれだけ歴史が過ぎ去ろうとも月影は歴代の当主のとなりに立ち、神埼一族を守る剣となり支え…
ーーその度に…当主達の最後を見届けた……
ーー同時に当主達と共に戦い、散って逝った友の数々に月影は涙した……
ーー平安~現在に至るまで神刀虚月は衰えることなく、月影の剣として数多の怪異を斬り続けた……
ーーある時代では、たそがれに迫る百鬼夜行をたった1人で滅ぼし……
ーーまたある時代では、国を滅ぼしかねない巨大な怪異を断ち切り……
ーー道を踏み外し、外道に成り下がった陰陽師までもその刀で斬った……
ーーそして現在……
ーー歴代の中で手放すことのなかった刀を……
私に託した…………
ゆっくりと目蓋を開けると手には月影の神刀虚月が握られ……
月影は私に覆い被さるように、私の致命傷となっていた傷へ自らの血を注ぎ……
安らかな表情で……目を閉じていた……
私は月影を優しく退かし……月影の刀を手に血塗れの身体で起き上がり……
そして……目の前の視界が“真っ赤”に染まっていた……




