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たそがれ怪奇譚第2部 黄昏篇   作者: 狐鹿コーラ
最終章 中編 月物語
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狐の日記

狼月のもう1人の人格『朧月』の一件で疲弊した狼月を担ぎ、村へと戻った……



道中、彼の異変に気付いた彼の式神と合流し……事情を話すと『子守りの怪異』である『産女』が巨大な怪鳥のような姿になると



その背中に乗り……村へ急いだ



彼女は狼月が陰陽師になってから最初の式神として村を守る役目を与えられた怪異……



式になる前は各地で子供を拐っていたという



誰からの目から見ても罪深い行為ではあるが……



拐われた子供達は共通して不幸に見舞われた悲しき子供であった





あるものは両親を失い天涯孤独になってしまった子供


またあるものは親の愛情を受けずに日常的に暴力を振るわれる子供


そして、親の身勝手な理由で捨てられた子供等の様々な事情を抱えた子供達を拐っていたのだ




彼女は拐った子供達を我が子のように愛していたが……



心無い人々によって居場所を奪われそうになった所を狼月に救われたという



以降『産女』と子供達全員を村へ移り住まわせ



産女には子供に学を学ばせる場である、寺子屋の教師になることを条件に彼の式神となり



拐った子供達は村中で里親を募り各家庭に新たな家族として迎え入れた。




そして現在に至る……




村の上空を滑空しながら狼月の屋敷前に降り立つと



瞬時に産女は綺麗な芦毛の髪をした女性へと姿を変え狼月を私と二人で支え



玄関前の刷子に手を掛けた瞬間………




暖かい産声がこちらまで響きたのだ



「ありがとう………二人とも………ここからは私だけで大丈夫だ……」




狼月は私たちから離れると……もたれ掛かるように刷子を開け……



フラフラとした千鳥足で産声の方へと向かった



思わず私が手を貸しそうになるが、それを産女は止め



「手を貸してはいけません。産まれてきた我が子に強い父の姿を見せれなくなります……」



狼月は父となる……産まれてきた我が子と愛する妻をこれから守らなければないという強い意思が満身創痍の狼月を突き動かし……



産声が近くなる度に狼月の足取りは軽くなったようにも見え……



我が子が待つ部屋へ……狼月が入ると



そこには産まれたばかりの赤子を額に汗を流しながら安堵の笑みを浮かべる芙蓉の姿があった



「お、おかえりなさい!狼月。見て……元気な女の子よ」



狼月は二人の無事な姿を見て安堵の涙を流し……我が子を優しく抱き……



「ありがとう………ありがとう芙蓉………」



妻に感謝の言葉を呟き………



「泣き過ぎだよ狼月……」



夫をハニカミながらも慰め……



思わず私も貰い泣きをしてしまう始末に……



しばらくして二人は産まれてきた我が子の名を



狼己ろうこ』と名付けた











こんな幸せな光景がいつまでも続いて欲しいと思っていた矢先……



狼己に異変が起き始める……



それは生後1ヶ月も経ってない頃に起きた……



なんの前触れもなく狼己は眠ったように動かなくなってしまったのだ……



最初こそただ眠っているものだと思っていたが……それは違っていて……



呼吸をしてなく心臓も動いてはおらず……まるで死人のような状態に陥ってしまった……



村の医師に診てもらったが………



医師は険しい顔を浮かべゆっくりと首を横にふったのだ……



これには狼月も芙蓉もたまらず嘘であって欲しいと我が子を抱きながら涙を流し悲しみに暮れていた……



だが……狼己は死んでなく……そのことに気付いたのは遊月だった



遊月曰く……どんな人間でも死ぬと体が異様に冷たくなり魂が体から抜けている状態になるが……



狼己の場合、まだ体には体温があり魂も肉体から離れず心臓も呼吸も止まっていながらも体から流れる霊力が止まった心臓の役割をしているとのこと……




「恐らく……狼己様はもとも心臓に何らかの病を患っていらしたと……それを自らの霊力で補っていたと思うのです。」



「ですが、その霊力がいつまで持つが分からないので……私が。」



遊月がそう言うと医者を差し置いて狼己の胸の辺りに指を添えると


自身の霊力を狼己に流しはじめたのだ



「ゆっくり……慎重に……少しづつ……」



この遊月の処置が功を奏し……心臓が止まっていながらも狼己は呼吸を始め……目を開け笑顔を振り撒いた



その後……心臓に何らかの病があることがわかったが………現代の医術では施す術はなく……根本的な問題が解決出来ないまま1週間が経過した



流石に四六時中付きっきりで遊月と狼己を一緒に置いておくわけにもいかず狼月は一定の霊力を保管し相手に霊力を分け与える勾玉を作り



遊月の霊力を勾玉に閉じ込め、それを狼己の首に掛けいつでも霊力を送れるようにした



霊力が一杯まで入ると勾玉は青く光、霊力が無くなると赤く光る仕組みだ……



こうして様々な問題を抱えながらも一年と半年が経過……



狼己様が1人で立ってフラフラとおぼつかない足取りではあるがゆっくりと歩き始めた頃



私は屋敷の庭掃除をしている最中



一羽の白いカラスが神埼の屋敷の屋根に止まり……私の方に目を向けると「カァー」と鳴き声をあげ、そのまま低空飛行で私の前を横切り……彼方へと飛んでいってしまった



ーーなんだったんだろう?



と思いながらも掃除を再開しようと竹箒を手に持つと竹箒に見慣れない巻物が引っ掛かっていた……



その巻物の紐で結んでいる僅かな空白の所に小さな文字で



『友へ』



と書かれ………その字を見た瞬間………驚きのあまり竹箒を地面へ落とし無意識のうちに庭掃除をそっちのけに、巻物を開いていた。



この巻物の送り主は『晴月はるつき』からだった



晴月は私が平安京に居た頃の戦友でもあり親友であったが………



『侵食の怪異』がもたらした厄災により晴月は病に倒れてしまった……



私が去った後の平安京の状況など知るよしもなく……私の中では既に息絶えてしまったと思っていた……



しかしこうして私宛に巻物を送ってくるあたり友の無事を知らせる何よりの贈り物だ。



友からの巻物にはこう書かれていた






ーーこの便りが届いたということは私が送った式神が貴女を見つけ、置いていったのでしょう



ーー貴女が平安京の人々を守る為に羅生門に根付く『侵食の怪異』を祓い、森を焼き付くし風化を待つ亡骸達を成仏させた行為に感謝しても仕切れません。



ーー本当にありがとう。



ーー貴女が去った後、森で回収された陽の仙霊力を含んだ燃える血液によって「疱瘡」の漢方が作られ平安京に蔓延していた病が完治され……



ーー私も無事に完治し『母』となりました



ーー子は男の子で名を『晴明せいめい』晴れた日のように明るい世を作る意味を込めて…



ーー願わくば貴女にも息子の姿を見せてあげたいのが残念でなりません



ーー現在、安倍一族は一刻も早い平安京の復興の為に妖術を含ませた『カラクリ』の製作に日夜追われております



ーーその『カラクリ』の一部を同封させていただきます。



ーー本来であれば私が直接会って渡したいのですが……術を通してお渡しすることをお許しくださいませ。



ーー私が貴女へ贈る『カラクリ』は『祈願双玉』と言う双勾玉と呼ばれる代物です。


ーー使い方は願い事を二回暗唱しながら2つの勾玉を合わせることで術が展開し……どんな叶わぬ願い事を必ず叶えてくれます



ーーただしこの『カラクリ』は一度しか使えないため使うときは考えて使うように。



ーー貴女のことだか既に願い事は決まっていると思うけど



ーー最後に



ーー貴女が私の親友で本当に良かった



ーー心を込めて感謝を



ーー敬具



ーー安倍晴月より



「私も会いたかったよ晴月。」



晴月が子供共々生きてくれたことが何よりも嬉しく、更に私の血で疱瘡が治療できる漢方薬が作られ……



あの悲劇に終止符を討つことが出来たことに私が背負っていた重荷も少しは楽になった。



それと巻物と共に贈られた『祈願双玉』という双勾玉……



一見ただの勾玉であるが……この2つの勾玉には強力な霊力が込められていた……



巻物に書いてある通りの効果であれば……



私は迷わず勾玉を握りしめ



ーー狼己様の不治の病が完治できますように……



そんな願いを握りしめた勾玉に込めると



ポッと手の中の勾玉がそれぞれ赤い光と青い光を放つと……手のひらからその勾玉が泡のように消えた



その時だった……



「そこの庭師。」



振り返ると1人の狼月と同じぐらいの年の人物がそこにいた……



「庭師ではありませんが……客人でしょうか?」



「いや………………………通りすがりの医師だが………何かに呼ばれたような気がして………この村に立ち寄っただけだ。」



自らを医師と呼ぶこの男性は黄土色の髪に鋭い目付きをしていたが……そんなに悪い人物ではないように思える



「つき!つき!」



今度は縁側からテクテクと私の名を2つ言葉で喋りながらこちらに狼己様がやって来た



「つき!つき!だ!だ!」



可愛らしく抱っこをせがむ狼己様を私が抱き上げると



「………………その子供………心臓が止まっているな………………」



その言葉に私の背筋が氷つく………彼は狼己様を一目見ただけなのに………



「………なんで……わかるんですか………」



「………………こちらへ来た間に………呼吸はしているが……………心拍が無かった………………首に掛けているもの………霊力を貯めて流す類いの術物か?」



そこまで見抜くとは………この医師………いままでに見てきた医師とは根本的に違う………



どこか陰陽師に似た所を感じさせる



「亥一刻(午後21時)に改めて伺います………………」



そう言い残すと彼はそれ以上何も言わず屋敷から去り………



その後私は一連の出来事を狼月と芙蓉に話した……



狼月は深く考え………芙蓉様は



「もしかしたらその人……狼月と同じ力を持っていんじゃないかな?この先の未来……狼己に不自由なく生きてほしいから私はその医師を信じてみたい。」



すると狼月は



「月影の言う通りの人格の持ち主であれば、彼に娘の未来をかけても良いが………その医師はどうやって治療するのか話してはいない………亥一刻に再びここへ来るなら……その彼が行う治療について聞いてからだ。」



どうやら狼月は彼が行う治療について警戒しているようではあるが………概ね、その医師を信用し娘の心臓の病が治るのであればと……彼の来訪を承諾



そして、日はあっという間に暮れ……



亥一刻を向かえると



医師と名乗る人物が再び神埼邸へ来訪し……私と遊月が彼を茶の間へ誘導した。



茶の間へ彼を案内し到着すると私達二人は席を離れようとしたとき……



「貴女二人も同席する必要があります……」



てっきり彼は神埼の人達に話があると思っていたけど……私達も同席する必要があるならと彼と共に茶の間へ入った。



茶の間には既に狼月と芙蓉が待っており彼と対面すると、医師のほうから名乗りをあげた



「初めまして………………医師の『鬼目おにめ 崇文タカフミ』と申します…………本日は貴重な時間を作っていただきありがとうございます。」



深々と頭を下げる医師の………鬼目 崇文



見た目に反し作法の心得は十分にある……



狼月と芙蓉も互いに蒼に挨拶を交わし……



私と遊月も彼に挨拶した。



そして彼は本題に入った………



「単刀直入に言います。………御宅の娘様………あと5年ぐらいしか生きられないでしょ。」



突然の余命宣告に呆然とする芙蓉……



狼月は取り乱すことなく真剣な眼差しを蒼に向けると、続けて話をした



「恐らく膨大な霊力を持って生まれて来たためその霊力に臓器が耐えられなくなり……自らの霊力でそれを補っていますが……生命維持の為だけに霊力を大量に消耗していると診断します………」



「現在……………霊力の枯渇を抑える為『術物』を身につけておられますが……年月が経つにつれて、霊力の消耗量も増えるに違いありません………たとへ、遊月様の霊力が過度に多くてもいずれは供給が追い付かなくなる………」



「なので完治の法としては娘様の全ての臓器を霊力に耐えられるよう………再構築しなくてはなりません………」



「その為に必要なのが妖狐……月の一族出身である月影殿の血が大量に必要となります………」



この医師に私が月の一族であることを一言も話してないのに何故わかったのか疑問であるが……



私の血で狼己様の臓器が作れるなら……と決意を固めたのつかの間……医師から衝撃的なことを伝えられる……



「必要な血の量は………全体の5割………人は全体の3割の血を失うと死ぬ恐れがある………これは怪異でも例外なく………身体から5割………半分の血液を失えば確実に死ぬ………………」



それは遠回しに月影の命と引き換えに狼己様を救えると言うもの……



この方法に狼月も首を縦にはふらず



「他に方法はないのですか………月影は我々神埼家の家族の一員………犠牲にしてまで治療を受けて欲しいとは思わない。」



だが返ってきた言葉は



「現状この術しか方法はない………………医師として治療を行うかどうかは本人が決めること………私には決定権はない。」



その方法しかないのであれば



「わかりました、ではお願い致します。」



「「「!!?」」」



「月影、そこまでする必要はない!」


「娘の為に貴女が死ぬなんて……お願いだから考え直して月影!」



狼月と芙蓉は当然反対したが……



私は人にも怪異にもなれなかった半端な存在……



その私に手を差しのべてくれた神埼の人々に恩返しできるのであれば……



「提案してなんだが………………いかに月の一族であっても生還できる割合は2割くらいだ………………それでもやるか?」



「構いません。狼己様がこれからの未来を歩めるのであれば……この命惜しくはありません。」



「………………わかった………1刻(30分)後に治療を始める………………それまでに心の準備をすることを薦める………」



そう言い残しタカフミは部屋を出る直前、芙蓉に治療が行えるぐらい出来るだけ広い部屋を貸して欲しいと案内を頼んだ



「それと、遊月殿………君には私の助手として治療を手伝ってくれ………」



「構いませんが………力になれるかどうか……」



「君の繊細な霊力操作であれば問題はない………少しでも月影の生存率を上げる為に必要なことなんだ………君にしか出来ない。」



「………………わかりました。」



タカフミは遊月に治療の助手を頼み遊月は不安ながらも助手を承諾し部屋を出た



残された私と狼月は数分の沈黙を過ごした後に狼月が涙ぐまし表情を私にむけ



「本当に後悔はないんだな………月影?」



「私が決めたことです……後悔なんてあるわけないですよ。」



そう言うと狼月の前に一冊の小さな書物を渡した



「これは……」



「私が今まで経験したことを書き記した日記でございます………もしも私が還らぬ者となった場合………その日記に今度は貴方が書き記してくださいませ。」



「……………わかった………だが、帰ってきた時はこの日記を君に返し………今後とも我々神埼一族を守ってほしい」



「喜んで御引き受けしましょう。」



私は静かに頭を下げ……「今までありがとうございます」という感謝の念を込め深々と頭を下げた。



その後……私はタカフミから渡された治療のため専用の白装束に着替え『1刻』を待った



事前にどういった治療をするのか1から10まで伝えられたが………



正直………医療の知識なんて皆無だったのでさっぱり分からなかったが。



その中で唯一わかっていることと言えば



「狼己様は確実に助かる」ということだった。




そして………その時を向かえる………





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