善side3
村人達からの話しによると……
ーー村の外に出ようと入り口であるカミサケの森に足を踏み入れると……なんの前触れもなく森から霧が発生し奥へ進む程、霧は更に濃くなり気付けば村の入り口に戻されてしまう……
ーー『かわたれ山』へ山菜を採りに行こと入山した所……中腹まで登ったところ霧が立ち込め、とりあえず山頂まで登ろうとしたが……段々と霧は濃くなる一方だった為やむ無く下山を決意し後ろを向いたらなんと……既に『かわたれ山』の入り口に立っていた……
ーー狩猟の為に設置したトラバサミを回収するために『かわたれ山』へ入った所……一匹の子狐と遭遇しその跡を追った所……辺り一面が見えなくなるぐらいの霧が発生し……幸いにもトラバサミを設置した場所までたどり着いたが罠は全て何者かの手によって破壊された後で……それを嘲笑うかのように先程の子狐が現れ、それを捕まえようと後を追ったが結局霧が濃くなるばかりで……これ以上の追跡は命取りと考え下山を決意した後ろを向いた所……最初にトラバサミを設置した所に戻されていた……
『カミサケの森』と『かわたれ山』には既に式神を配置し危機を感知したら術をもって私に伝わる筈だが、それが無いと考えると式神の感知をすり抜け……住み着いた可能性が高い……
幸い……東西南北に配置した式神の反応は健在であることと人間に危害を加えていないことから、住み着いた怪異は日常を脅かすほどの脅威にはならないと感じた……
マタギ(狩猟を家業とする人物の名称)の話しから『子狐』の目撃情報からその子狐が妖狐である可能性は高いが………
『カミサケの森』と『かわたれ山』で発生している異常な濃霧………それらを体験した者は共通して目的地にはたどり着けず村へ強制的に戻されてしまうとのこと
それほど強力な幻術を使うなら何かしらの訳があるに違いない………
もしかしたら………数日前の平安京の方角で起きた『業火の怪』に関係するのであれば会う必要がある……
とりあえず村人達からは『妖狐退治』の依頼を受託し
万一のことが起きないように村人達には私が戻るまで何があっても村から出ないようにと話し、交代制で見張りを配置し私の使役する式神に村を守護するよう命令を出し……
万全の準備のもと『かわたれ山』へ足を踏み入れた
中腹辺りまでくると昼間だというのに不気味な雰囲気が漂い……村人達が言っていた霧が立ち込め視界を徐々に奪っていく
私はその場で立ち止まって目を瞑り……霧に紛れている微かな妖力を探し神経を研ぎ澄まし……
やがて一匹の子狐が茂みから私の様子を伺うようにこちらを見ていた……
するともう1人の私の人格が
『この程度の幻術であれば力を貸すが……』
もう1人の人格も妖狐を退治せず対話を試みる方で賛成してはいたが……
『あの妖狐……我が探し求めていた存在であるに違いない………』
理由は私とは全くの真逆のものだったが……
「君がおかしな真似をするようであればどうなるかわかっているよね?」
『………………』
人格を封じ込める手段として『陽』の仙霊力を込めた短刀で自身を突き刺すことで一週間程封じ込めることに成功しているため………もう1人の人格が暴走することはなくなった………
もう1人の人格に釘を刺した後、目をゆっくり開けると
茂みから子狐が姿を表した瞬間、質素な着物を纏った人の子供へと姿を変え霧の方へと歩いていく
おそらくついて来いという意味なのだろうと感じ後を着いていくことに……
子狐が歩く所から徐々に霧が晴れていき……
やがて『かわたれ山』の山頂に到着すると……
まるで私が来るのを待っていたかのように1人の妖狐がそこにいた……
手にはボロボロの鞘に納められた刀を携え
妖狐は狐の耳と尻尾がある美しい女性の姿で金の眼に美しい金色の毛並みを持ち、髪も耳や尻尾と同じ金色だった……
しかし容姿はボロボロで彼女から感じる妖力は僅かなもので瀕死寸前であった……
ただ、そんな弱りきった状態であってもその圧倒的とも言える存在感は健在であり最初に口を開いたのは彼女の方からだった
「あなたが私を退治しに来た……この村の霊能者ですね。」
「いかにも……ですが退治しに来たわけではありません……貴女と話がしたく来た次第です。」
妖狐は少し驚いた表情でこちらを見つめ
その妖狐に聞きたかったことを私が切り出した……
「数日前……平安京の方角から郊外の全ての森が焼失する『業火の怪』という怪異的事象が発生したのですが……あれをやったのは貴女なのではないかと感じてはいるのですが……」
妖狐は誤魔化す訳でもなく一言
「いかにも、私がやりました。」
続けて妖狐は
「これで私が凶悪な怪異で退治しなければならない存在であるとわかったでしょ?早く退治しないと次はあなたの村を………」
彼女の心からはそんな凶悪なものは微塵も感じられず………ただ悲しみの感情だけが埋め着くし……
彼女は自分が死ぬことで自身を縛るものから解放されようとしていた
「『業火の怪』の正体が貴女であるなら………どうして「陽」の仙霊力の炎を使えたのでしょうか?」
「そして、平安京では『疱瘡』と呼ばれる伝染病が流行り多くの民が死んだと耳にしてます……それと何か関係があるのではないでしょうか?」
妖狐はうつむき……彼女の側に着いていた子狐を後ろに退避させると
鞘から刀を抜き……その矛先を私に向けるが………その刀の刃は如何なるものも斬れないぐらい完全に刃が零れていた
そして妖狐は死に急ぐ怒りの眼差しを私に向け
「これ以上の話は無駄です………今からあなたを殺し村を燃やします………」
そう告げると彼女が残された妖力を振り絞り「陽」の仙能力の火で山頂一帯を囲み完全に逃げ道を塞いだ
私は逃げも隠れもせず彼女の方を真っ直ぐと見つめ………
一歩………一歩………また一歩と歩みよっていく
「私は本気だぞ!お前を殺した後お前の大事なもの全てを殺すんだぞ!」
彼女の刀を持つ手がガタガタと震え
彼女が放った無造作の一撃も私には当たらず真横を通り消えていった
やがて私と彼女の距離が後三歩ぐらいの距離まで縮まると
私は右手を伸ばし人差し指と中指を軽く合わせた状態で彼女のおでこに指を添え
『陽』の仙霊力の1つである「写し鏡」で彼女のこれまでの軌跡を覗いた……
ーー妖狐である彼女は人間と偽り平安京で怪異から人を守っていた
ーー鏡写しの怪異と呼ばれる人に化け人を殺し食らう怪異事件を経て天皇に功績を認められ、友と呼べる存在も出来た
ーーやがて彼女自身の陰陽道を設立し自分の刀術を多くの門下生に教え充実した日々を過ごしていた
ーーしかし……平安京に伝染病である『疱瘡』が蔓延してからは全てが一変してしまう
ーー怪異が『疱瘡』に感染すると『腐食の怪異』と呼ばれる2つ頭の怪異によって『疱瘡』の感染に拍車をかけ日夜その退治に追われていた……
ーー平安京では『疱瘡』によって総人口の半数以上が死に郊外の山々は死体で埋め着くされ……不幸にも彼女の陰陽道の門下生である1人が感染してしまい門を閉めることに……
ーーやがてその門下生は『腐食の怪異』となる前に自ら命を絶ち……ついには子供を身籠った友まで感染し絶望していた
ーーそして全ての元凶である『侵食の怪異』を滅殺するべく羅生門へ……
ーー死闘の末……羅生門は焼け堕ち………『侵食の怪異』は焼滅………
ーー彼女は己に残された力を奮い『陽』の炎をもって死体が放置されている山々を死体ごと燃やし………平安京を去った
「貴女の苦しみ、痛み、悲しみ、喪失………全て理解しました………だから貴女は生きなくてはなりません。」
妖狐の刀を握る手がほどけ………刀が手から離れると刀は地面に落下し………刃が砕け散ると
彼女はボロボロと涙を流し私の胸の中で泣いていた
「貴女は人々を守る為に己が身を削り尽力し全てを失ってからは自分の死に場所を探しこの地にたどり着いた」
「ですが………ここはあなたの死に場所ではありません……あなたの新たな始まりの地なのです。」
「私は神埼 狼月……私と共に人々を守る為に歩んでいきませんか……」
彼女は泣きながらも笑顔で答え……
「こんな………人にも………怪異にもなれなかった私でよければ………私は『月影』あなたと刀となる存在の名です。」
後に村人達からは怪異的事象の元凶である妖狐を退治した旨の話をし解決
このことから村では怪異を退治した祝いとして宴が行われその日は私の式神達を含め新たに私の家族の一員となった『月影』『遊月』を加え宴は大いに盛り上がった。




