死神と死人 壱
蟹江 芳樹
ヒトクイの元なった猟奇殺人犯……
冥王によれば……その男は死刑が執行され死んだことは事実だが
当時死刑執行の際の魂を刈り取り冥界までの案内を担当していた死神が……
蟹江の魂を冥界へ送らず現世でとある人物にその魂を提供したとされ
その死神は冥王直々に手を下し虚無送りになったそうだ。
とある人物というのが『狼月』だとしたら全て繋がる………
冥王は今回の事態については『狼月の件は単独で判断するように』と『たそがれ町へ派遣する死神を一時的に増やします』
言い換えれば『たそがれ町内の厄介事は他の死神に任せるからあなたは狼月の件に全力をつくせ』と言っているようなものだ………
逆にありがたい限りだぜ
ヒトクイの元祖『蟹江』とそれを造り出した外道『狼月』をこの手で始末出来るなんてまたとないチャンス……
これで俺の復讐も………果たされる。
そして………8月15日………終戦記念日………
俺達は狼月が待つ全ての始まりの地『かわたれ山』へと向かった。
だが……その道中………狼月が差し向けた怪異達が道を阻む……
複製されたヒトクイは勿論
茂みや木の上から奇襲を仕掛けるガマガエルのような見た目をした怪異までいやがる……
そいつは全身皮膚がグズグズに腐ったようなカエルの見た目をし……二足歩行の顔が能面でそこから『ケタケタケタ』と独特な鳴き声を発しながら襲いかってくる……
前衛を俺と月影
後方を零二と狐月が担当しているが……
なにも人間である零二までついて来なくてもよかったのだが……
本人からの強すぎる要望で俺達と動向するとのこと
零二も零二でこの地には因縁があるようでこちらも容認せざる終えなかった………
そんな零二はどこから入手したかわからない警察が使う小型のリボルバー『ニューナンブM60』を装備しているが……
使っている弾丸が特殊なスパイラル弾となっており
ヒトクイも蝦蟇のような怪異に絶大な効果があり………全て脳天に命中し
頭部を吹き飛ばし怪異達を絶命させていった………
しかも………無駄弾なんて一切なく程の怪異の不規則な動きを見切り正確に当てていっているのだ……
「おい零二お前どこでそんな技術身に付けたんだ?………」
「どこでも良いだろ………僕だっていつまでもあの頃の自分ではない……変わっていかなければ、守りたいものも守れない。」
「そうかよ、しゃがみな!!」
「!?」
零二が俺の指示でしゃがむと飛びかかりそうになった蝦蟇野郎を回避し
俺の鎌で魂を刈り取り……零二がしゃがんだ状態で発泡し頭部を吹き飛ばした。
5発撃ちきった零二は弾を腰のポーチに忍ばせ……そこから3発だけ取り出し銃にセットし
俺の背後にいたヒトクイ2体に向けて発泡し頭部を吹き飛ばした。
「サンキュー零二」
「………先を急ごう。」
かわたれ山の中腹まで来た時………1人の人物が立ちふさがった………
そいつをみた瞬間………俺の背筋に電流がはしる……
「お揃いでようこそ~狼月様は頂上でお待ちですよ。」
黒い求道者が着るフードがついた衣装を着た人物がそう呟くと
「おい……お前がヒトクイの元祖『蟹江』なのか?」
俺が鎌の刃を向けながら奴に問う……
奴は潔く
「いかにも、私が蟹江 芳樹……皆様にはヒトクイの方がしっくりくるかもしれませんね。」
そして俺は静かに月影達に
「こいつは俺が殺る……お前達は先に行け。」
狐月が俺に
「良いのか?死神……奴は今までのヒトクイとは次元そのものが違う……」
「安心しろ。俺は死神、死なねえ。こんな時くらいかっこつけさせてくれや」
死神は不敵に笑いながらそう言った。
「頼んだぞ……死ぬなよ」
狐月はそう言って死神に背中を向けた。
そして狐月達は先に進む……
意外にも蟹江は素直に狐月達を通した
「さーて今から、斬って斬って斬りまくるぅ!」
俺ははそう言いながら大鎌を頭上で回転させた。
「某モビルスーツの真似事かい?君にお似合いだね。」
まさか………ヒトクイからツッコミがかえってくるなんて夢にも思わなかった……
本来こんなボケをかましたとしても言語能力皆無のヒトクイに対しては「渾身のボケなんだからツッコんでくれよ。俺が馬鹿みたいじゃないか」なんてこと言っていたが………
「ところで、君は世界三大珍味はご存じかな?」
「は?」
「フォアグラ、トリュフ、キャビア……私の中ではもう1つ極上な珍味があるんだけど……なんだか解るかい?」
「んなもん知るかサイコ野郎!」
そんな問いに答える道理なんてありはしない………
速攻で始末するべく鎌を振り上げ先制を仕掛けるが……
パシッ……
「な!?」
「まだ話しの途中だよ?話は最後まできかないとね。」
そいつは俺の電光石火の一撃を親指と人差し指でつまむように受け止め
俺の耳元まで近づき呟く
「それはね、『死神の魂』なんだよ。」
「!?」
「一度死んだ人間が死神として蘇った魂はまさに熟成され禁断の果実!踊り食いをするのもよし切り刻んで刺身にするのも絶品だけど加熱調理には手前がかかるんだよね。」
冥王の言葉が脳裏に浮かぶ……
“多くの死神がたそがれ町の旧都で消息を絶ち冥界へ戻ってない”と……
奴が死神の魂を禁断の果実と命名しているなら………こいつ………
死神を殺し……食っていることになる……
「お前が……死神達を………」
「うん、そうだよ全部食った。美味しい所だけね……あ、食べカス……タワーに放置したままだったなーどうしよう………死神の他にも私のように作られた怪異も食べたが………あれは食えたもんじゃないね」
「黙れ!!!!」
とっさに鎌を持つ手を離し、奴の腹部目掛けて強烈な拳を繰り出し吹き飛ばしたが
奴は余裕な表情をこちらに向けると
「これ返すね。」
ブンッ!
シュルシュルシュル!!
鎌を放り投げ回転しながら俺の方に返っていき上手い具合に鎌が手元にもどる
「さっきの拳なかなかのものだったよ。そんな君を称え特別フルコースの1品に加えてあげることを約束しよう!」
「ほざけ!!!」
その場から飛び上がり急降下の鎌の一撃を奴にたたきこむ
そんな光景を奴は鼻で笑い……ただただ俺を見つめ
ギンッ!!!
鎌の刃は奴の顔面には届かず、奴の影をとおして現れた2つの黒い柱によって俺の一撃は防がれてしまった
「クッソ!なんだこれ!?」
「ついでだから良い物を見せてあげよう。」
2つの黒い柱が徐々に何らか形に変形し始め……
奴が変形する2つ黒い柱に手を伸ばし……それを両手で握りしめた瞬間……黒い柱の正体が現となった……
俺はその黒い柱の正体が何なのか知った瞬間……目を疑った……
「そ、それは……何故お前が……」
「主様が私の為に作ってくださった代物だ……よく手に馴染むよ。」
黒い柱の正体は……死神の鎌だった……
不気味なまでに深い暗黒の長い柄に……
鎌の刃は人の純血のように深紅で彩られていた
だが……その鎌の刃といい、あれから感じる邪悪な気迫は俺が持つ鎌とはまるで違う……
ガン!!!!
奴の持つ鎌に俺の肉体と鎌が吹き飛ばされ
約50メートルのところで揉みクシャになりながら転がり自分で言うのもあれだがなんとも無様に吹き飛ばされたものだ
「ブッ!!頭にくるぜ………」
血が混じった唾を吐き捨て俺が愛用する鎌の刃に目を向ける………
ボロ………
本来死神の鎌は冥王の加護の塊のような物で折れたり刃零れ等の破損は絶対にないが………
さっきの俺の鎌の一撃を防ぎ……更に弾いた時の衝撃で刃が僅かに零れていた。
「さて、調理の開始だ。」
奴がそう宣告すると2本の鎌を広げこちらへ迫ってくる………
「魚みたいに二枚におろしたらぁ………」
覚悟を決め、鎌を握り直し刃を後ろに力を溜めるような体制で構える。
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
シュンッ! シュンッ! シュンッ!
残像を残しながら高速で移動し……奴の邪悪な気配が一瞬強くなった瞬間を逃さなかった
ギンッ!!!!!
真正面から2本の鎌を重ねて横に振りかぶり馬鹿デカイ斬撃を起こすがそれを俺のもつ鎌の柄で受け止めた瞬間
奴の左手で持つ鎌をそのままに右手で持つ鎌を逆さ持ちに切り替え、体を回転させ左から鎌の刃が迫り
……左右から挟み……ギロチンのように真っ二つにする気だろうがそうはいかない!
挟み込む瞬間地面に伏せ俺が発する蒼白い送り火を周囲に展開させ燃やしつくし奴は一時後ろへ下がった
このほんの数秒ラグを見逃さず蒼白い炎を全身に纏わせカウンターを仕掛ける
「うぉオオオオーー!!!!」
正面から飛びかかり鎌による高周波の斬撃を繰り出した
ギンッ!
当然防がれるが……手数で押しきる
左右斜めに連続で斬り込み
鎌を上に回転させ蒼白い炎の渦を生成し奴にぶち当てるが………
ビュンッ!!!!
蒼白い炎が突然黒い炎へと変化し渦が消滅し
続けざまに奴はあのリーチの長い鎌からは想像もつかないほど高速で2つの鎌を回転させ
黒い炎の竜巻が複数……こちらへ向かってくる………
「ん~~ちょうど良い火力だ。」
「何がちょうど良い火力だ……全部ぶった切りってやる!!!」
俺は更に強力な蒼白い炎を纏い黒い炎の竜巻を正面から突っ切り
「オラァ!!!!」
ズバッ!!!!
「もう一丁!!!!」
ズバッ!!!!ズバッ!!!!
「届けぇええええ!!!!」
ズバッ!!!!
蒼白い炎を最大限に鎌へ纏わせ刃が巨大化し奴に斬り込んだ
「君、今での死神とは一味も二味も違うようだけど私には到底及ばないよ」
そう呟く奴の体には傷1つもなく奴のもつ双鎌で攻撃を防がれ……その結果
パキンッ!!!!
俺の死神の鎌の刃が完全に折れてしまった
「クソガァアアア!!!!」
振り向き様に蒼白い炎を纏わせた拳で迎え撃つが……
グサッ!
「!!?」
俺の腹に奴の鎌の1つが刺さり
この刺さった鎌から俺の霊的エネルギーを吸い上げているが肌でわかる………
「これで“下ごしらえ”は完了だ、じゃーねー~」
奴はもう一方の鎌を振り上げ………
さすがに………もう駄目か………と死期を悟った瞬間………
バンッ!! バンッ!!
バンッ! バンッ!!
バンッ!!
何処からか5発の発泡音がこだますると
奴の頭に2発…振り上げた鎌を持つ手に2発………俺の腹に突き刺さった鎌を持つ手に1発………正確に命中していた
「グッ………!アアァ………」
俺はこの隙に抜け出し………気配を頼りに俺を助けた奴の元に行き………礼を呟いた
「借りができたな零二………」
「加勢する………」
どうやら零二は途中で狐月達と別れ俺の加勢に来たらしい
かっこよく「ここは任せて先に行け」なんて言わなきゃ良かったと後悔しても………もう遅いな………
「奴の倒し方は既に知っている…その刃が折れた死神の鎌で大丈夫か?」
「棒の方は頑丈だからな!どうにかなる!」
零二には他にも聞きたいことが山ほどあるが……
一瞬見えた零二の寿命が……
今日の日付を示していたことは黙っておこう……
既に俺は冥界のルールを破っている……零二の死の運命を変えることなんざいくらでもやってやらぁー!!
零二が加わり第二ラウンドが始まろうとしていた……




