三人目の女子
第三章の最終話です。
「姉貴が迷惑をかけたな。お礼としてきちんと手甲は作ってやるよ。今晩中にな」
「そんな、明日でいいですよ!」
「俺がやる気になってるんだからさ、大丈夫だよ案外明るいんだから!
もうそっとしておいてやってくれよ、姉貴は」
「その通りですね」
蛍雪の功とか言うが、雪やランプでやるにしても暗い物は暗いはずだ。
だってのにすっかりやる気になっているのを邪魔をする理由もない。
「まったく、あそこまで活躍しておいてまだ欲しいのか」
「念には念ですよ、ライドーさんだって何本も伐るにあたって相当気を付けて来たんでしょう。ああそれから斧については」
「まあな。ミミ、なるべく早いうちに新しいのを頼むぞ。
それにしてもな、まったくお前さんたちの頭は実に不思議だ」
ずっと頭まで覆うコートを着ていたせいか気にしていなかったが、やっぱり黒髪ってのは特異なんだろう。
全てが終わったんで村人からもいろいろ聞いてみたが。残念ながら村人の中にも黒髪の男女に出会った人はいないらしい。
「田口君がいればいいと思ったのでありますが……」
「タグチ?そんな奴は知らないな」
「ああ、あいつだけは難しいかもないろいろ……もしこの頭のせいで事が解決したとしたら」
「言うなよ、きっとお前のように何らかの力を持ってるはずだ」
クラスのタグチことムーシ・田口は金髪碧眼だ。なんでも母方の爺さんがヨーロッパ人だとかでいわゆる隔世遺伝って奴でそうなったらしいけど、この世界にはそういう奴が山といる。
もし俺らと違って何の特殊な能力もなかったとしたら、それこそ一発で殺されているかもしれない。もちろん助けたいけど、その目立っていたはずの容姿がここではあまりにも普通過ぎる。全く厄介なお話だ。
「しかしさ、この後どうなるんだ」
「わしが一応長老格として村を治め、お前さんたちの言う所の貪り過ぎない生活を追求する事となる。無論乱伐乱獲は規制してな」
「住民たちは減るかもしれませんね」
「ああ、減るだろう。現にここに採掘目当てに来ていた人間たちはペルエやエスタに行ってしまう、去る者は追う気はない」
「ナナナカジノも今は修繕作業中ですからそこも人がいるでしょう。あとかつてのミーサンカジノも」
俺はトランプカードをミミさんとライドーさんに見せた。二人して目を輝かせながら、ケースに入ったカードをじっと見ている。
「やっぱり貴重品なんですか」
「ああ、貴重品だな」
「しかしさ、実際カジノってのは金が派手に動くんだろ。姉貴は金をずっと追って来た。それこそこの村に金を落とすために動いて来た。だとしたらあの方がいいのかもな」
「その件については皆さんずいぶんと寛容で何よりです」
「村人は俺たちを恨んでるでしょうね」
「別に俺は恨んでないよ。恨んでるのはそれこそろくでもない連中だ、この山で金を稼いで全部食い潰すようなな」
ロキシーは南のペルエ市、と言うかナナナカジノへの追放と言う事で決まった。仮にも村長として数を数えるぐらいの才覚はあるから、あるいはそこで出世してまた身を立てる事があるかもしれない。
と言うか、ずいぶんと腑抜けちまったよな……本当、クチカケ村ではもうダメだが次はペルエ市で一山当ててやるかとなった連中によって両肩をつかまれて行く姿、本当に見るに堪えなかったぜ。
焦り過ぎた、とか言うにはいちいち気の毒だった。これからロキシーが行くのはそれこそ私財をすべて投げ出しても笑えない場所だ。あるいはそんなもんが存在しなければ、なんてのは全部言い訳だよな、本当に……。
あそこまで温和に見えて強い意志を持ってた人が本当分かりやすいぐらいポッキリ行っちまったからな……遠藤と言いロキシーと言い、本当に気の毒だな……。
「これからはウエダもさ、私たちを含めみんなに頼った方がいいよ」
「しかしさ、お前も案外えぐいな」
「えーそー?まあ私ももうちょい早くこう回答を出せばよかったかなって後悔もあるんだよね、まあこう快感を味わうと離れられないよねー」
「すまんが笑えないぞ」
オユキは俺たちについて行くことになった。
ロキシーが全てを失うことになってようやくその願い通りに村を離れるとはなかなかひどい話にも思えるが、まあこの村の自然が守られる保証がどうしても欲しかったんだろう。
「私はここももちろん気に入ってるけどね、もっと面白い事も知りたいの!それからあなたの仲間にも!と言うか黒髪ってカッコイイよね、まあ一番カッコよかったのはウエダだけど」
「なんでだよ!」
「だってさ、味方のために囮を買って出て、その上あんな魔法を使われるぐらい信用されてるんだよ、正直カッコよくなきゃできないよねー。ねえセブンスちゃん、あなたも好きなんでしょ、ウエダの事~」
「はいそうです!」
「二人とも、ほら落ち着いて、ねえ」
おいおい三角、いや四角関係かよ……セブンスは私にも武器ができましたしとドヤ顔でオユキをにらみ返すし、オユキは年の功だよとか言わんばかりに笑ってるし、大川は二人を冷静になだめながらもゆっくりと寄って来るし……。
「おい赤井」
「結局のところ、求める物を公平に提供するしかないであります……」
同じ四角関係でも神林は声優、藤井は絵、米野崎はストーリー。同じアニメの話題をするにも赤井はその三つを見事に使い分けていた。そう考えるとアニメってのは実に便利だ。
だが俺は正直困った。セブンスと大川についてはある程度分かった気がするが、オユキについてはまるでわからない。
いっつも元気そうに笑っていて、そして実にノリがいい。こういうタイプはクラスにいない。強いて言えば木村ぐらいだが、言うまでもなくぼっちの俺は全く付き合いがない。
「ここから先、このコートはどこまで必要になるだろうな」
「エスタの町に行くまで標高は下がり、雪は減り、そして雨も減る。門に付くぐらいまでにはいらなくなるだろう」
「そうですか、ありがとうございます」
「何、私の心配してるの?でも大丈夫、私、硬い物には弱いけど暑いのは平気だから。だからそういう剣とかの兵器は平気じゃないけどね」
「アッハッハ……」
まあ、とりあえずこのギャグに笑っておく事にしよう。
とにかくこうしてオユキと言う新たなる仲間を加えた俺たちは床に付き、次なる目的地である荒くれ者の町、エスタの事を思いながら目を閉じた。
さてここで二日間お休みをいただき、18・19日に関係のない短編、20~22日に外伝を投稿し、23日から第四章の予定です。
どうかお付き合いくださいませ!!




