ゴーレムを倒す!
「ハハハハ、これでもう二度とちょこまかちょこまかと動き回る事は出来ないわね!もう二度と、誰も逆らえないように、この村のために……!」
ロキシーの声と共にゴーレムの目が輝き、腕は次々に俺の真横をえぐる。
だがあくまでも真横をえぐるだけで、俺には届かない。
何やってるの横殴りにしなさい、はたきなさいとかロキシーに言われてゴーレムがその通りにしても、俺の前や後ろを通るばかりで何の意味もない。
「おかしいじゃないの!何もかも何もかも!」
「なぜこうなるか俺さえもわかってない、正直今だって怖いよ」
「嘘を吐きなさいよぉ!」
「だから見てただろ、俺は逃げ回るしか能がないって事が!逃げるだけ逃げて肝心な所は人任せな奴だよ!」
無理矢理に魔力を注ぎ込んで俺をターゲットから外させようとするがしているようだが、できていない。
俺の体は依然として赤く光っている。まったく、夕暮れに負けず劣らずの赤さだ。
「もうこうなったら私自ら!」
「そんな危ないもんは捨てろよ……」
「自分が良くて私はダメって何事よ!」
真っ赤に光る俺ばかり狙い続けるゴーレムに嫌気が差したのかロキシーは懐からナイフを取り出して来たが、結局の所俺ばかり見てどうしようって言うんだろう。
あんな小さなナイフじゃ俺に刺さった所で致命傷にはならないだろうし、なったとしても赤井がすぐ回復してくれる。
これもヘイト・マジックの効用かもしれないが、だとしても実に哀れだ。
「姉貴……!」
「ミミ、放して!」
「放さねえよ、もうこれ以上は、無駄だ……!」
「あんなふざけた魔法、私が、私が潰してやるって言ってるのよ……!」
ミミさんはロキシーを必死になって羽交い締めにしている。右手でナイフを握りながら左手で魔力をかけ続け、どうしてもザレを操り、俺やオユキを殺したくて仕方がないと言う欲求の塊になっている。
俺はもう、この女性を止めることはできない。
できるのは、オユキたちだった。
「行っけー!!」
「やめて!」
オユキの氷が、ずっと俺ばかり狙って棒立ちになっていたゴーレムの体を覆う。
氷が両腕にまとわりつき、一気に動きが遅くなる。
セブンスの魔法の力のせいか俺以外を攻撃できないゴーレムはそれでも必死に腕を振り回すが、俺が疲れている以上に腕の動きが重たい。ほとんどスローモーションレベルだ。
「行きますよライドーさん!!」
「見ておけ、これが年寄りの力ぞ!」
凍りついた所に叩き付けられたライドーさんの斧と市村の剣が、ゴーレムの関節を叩き斬った。
その衝撃でゴーレムの腕が崩れ落ち、バランスを完全に失って後ろ向きに倒れ込む。
「ああ!」
地震のような地響きと共に倒れ込んだ頭と胴と足が、オユキの力によってさらに氷に包まれる。
「ザレ!ザレ!!」
「とどめは任せてくれ!」
そして市村の聖なる力を込められた剣によって、ゴーレムの残った体は光に包まれた。
「ザレが……ザレがぁぁ!!」
ロキシーは俺に向かってナイフに雪玉、石を投げつけながら抵抗していたが当然の如く当たらず、光がなくなると共にゴーレムはただのたくさんの岩になっちまった。
一個一個何の意思もなく、ただそこにいるだけの岩。道をふさぐ事さえできないただの岩たちは、恨めしげな顔をする事もなくじっとそこにいる。
そしてロキシーもまた同じようにくずおれ、ゴーレムのなれの果ての石の中の一個にすがりついて泣きだした。
「姉貴……」
「ミミ、この村はもう……」
「もういい加減休め、って言うか姉貴はもう何もできねえよ、オーバーフローしたんだろ、なああんた」
オユキは寂しげにうなずいた。
「なんで、こんなバカな魔法の使い方をしたの?最大限を超えちゃえばダメになるのは当たり前だよ……もう二度と魔法が使えないのにどうする気?」
「うる、さい……あんたらが、あんたらが、頑迷でおバカで卑屈だから……!」
魔力の最大値を超えた力をかけたゴーレムが、俺らのせいでただの石になっちまった。
泣きじゃくりながらオユキにわめくロキシーは、もはやこの村の村長でも二十七ってと言う年相応の女性でも召喚魔導士でもなく、ただの子どもだった。
しかし実際怖いもんだね。召喚魔法に限らず魔力の最大値を超えた力をかけると魔力の最大値その物が削れ。下手すると最大値その物がゼロ、つまりすっからかんになっちまう事もあるらしい。
と言うか、なっちまったんだな……。
オユキが本当に気の毒そうな顔で、自分を殺そうとしたゴーレムのなれの果てとそのゴーレムの呼び手をじっと見てる。俺も多分同じ顔をしてた。
「魔力、切れちまったのか?」
「うん、もう彼女はこんな魔法を使う事はできない。覚えておいてねアカイもセブンスも、あまり魔法を使い過ぎるとこうなっちゃうよ、まあ私もだけどー」
「みんなバカ、本当バカ、わたしはここまで必死に村のために……」
「もう一人で抱え込むのをやめろって言ってるんだよ、なああんたら、どうかこの俺に免じて姉貴を許してくれねえか?」
子どものように泣きわめくロキシーの背中をさすりながら、ミミさんは深々と頭を下げている。事が済んだと見て駆け寄って来た村人たちも言葉を失う中、ロキシーの涙が残った雪に落ちる音だけが響く。
もう俺の体は輝いてない。
「もう大丈夫だよ、もうオユキは怒ってないから」
「…………」
「最後に一つだけ、あなたの望みを叶えてあげるからー」
「望み……?」
その望みを聞かされたロキシーも、ミミさんも、そして俺たちも、思わずもらい泣きしちまった。