ヘイト・マジックの力
「ヘイト・マジック!!」
ヘイト・マジックなる魔法の弾はゴーレムの股間をすり抜け、飛び込んだ俺に直撃した。
「何だこれは……」
ぶつかると同時に、俺の体が真っ赤に輝いた。
力が湧き出して来る気はしないが、それでもセブンスの魔法と言うだけでなんとなく心強くなった。不思議なもんだ。
「それに何の意味があるの!」
「とりあえず、セブンスの魔法だからな」
「何なのそれ、そんなんで特別な力が与えられるわけじゃ……はあ!?」
—————————オユキたちを殴ろうとしていたゴーレムが、急に向きを変えた。
今の今までオユキとその仲間たちを攻めていたのが、一気に俺に向かって突っ込んで来た。
「おいあのウエダとかいう奴をやっつけろ!」
「あいつには何の攻撃も通じねえぞ!」
「とにかく何でもいいからやれ!」
そして村人たちもまた、俺を狙い始めた。雪玉やら石やらを投げつけ、少しでも俺を殴ろうとしてくる。もちろん当たらない。
当たらないどころか、ゴーレムの足元に転がって逆に邪魔になっている。
「ちょっとやめなさい、ザレの邪魔になってるわよ!と言うかザレ、そんな人間はほっといてあの雪女を殴り飛ばしなさい!聞いてるの!」
ロキシーの喚き声にも構う事なく、ゴーレムは俺を追う。
俺はこれまでと同じように逃げ回り、ゴーレムとみんなの距離を引き離す。つまり村人たちへと突っ込んで行く。
まだここにいた村人たちは次々と逃げ出すか大きく後退し、あっという間にこの広場から他の人間がいなくなった。
「これ以上関係ない村人を巻き込むな!」
「あんたが巻き込んでるんでしょ!」
「だからくどいんだよ、俺は強引な開発をやめろって言ってるだけだ!」
ゴーレムは次々にパンチを飛ばしながら俺を追い続ける。地響きにも慣れてしまった俺だけを追って、むやみやたらに走り回っては拳を振りかざす。
俺に当たらないパンチがあちこちに当たり、これまでと同じように木や岩をも破壊する。
そうして折られた木の一本がロキシーとミミさんへ向けて倒れかかり、ミミさんはロキシーの胸ぐらをつかんでいたのを離して逃げ出した。
「すいませんミミさん!」
「気にしてねえよ、って言うか姉貴もういい加減にしろ!」
「うるさい!!何やってるのザレ、こいつより先に他の!」
ゴーレムは、オユキにも赤井にも市村にも大川にも構う事なく俺を必死に追いかけている。
俺の体が赤く輝く。赤信号のように輝き、止まれではなく進めと促している。その力に引きずられるかのように、ゴーレムは俺さえ倒せばすべて片が付くのだと言わんばかりに目を輝かせている。
「なぜ言う事を聞かないの!私が呼び出したのに!これまで何度も何度も、何度もこうして私のために戦ってくれたのに!」
「戦ってくれた?今でも戦ってますよ、俺しか狙ってないだけで」
ゴーレムが俺ばかり狙うその間にも、赤井たちは息を吐きながららもゆっくりと体勢を整えている。本当、時間稼ぎにも実に便利な魔法だ。
「こうもわしの魔法が見事に使われるとはな……まったく見事だ」
そしてライドーさんはえらく感慨深げだった。
ヘイト・マジック――――ライドーさんがたった一つだけ覚えた魔法。
強制的に敵意を向けさせ、攻撃のターゲットをかけた人間一人に絞らせる魔法。確かに味方がいなければ何の意味もないし、そして何よりかけられる相手に絶対的な信用がなければとても使えない魔法でもある。
すべての攻撃を受け止められるか、それともかわせるか。普通そんな奴はいない。いたとしてもこんな魔法を使うこと自体、囮になれと言ってるのと何の変わりもない。
でも俺は後者だったし、これまでもそうやって戦って来た。
「もういい加減にしてよ!いつまで逃げ回るの!と言うかいつまで追いかけてるの!」
「ロキシー……この者たちはこのゴーレムより強いぞ。お前やこの魔物たちにはかなわん」
「何よこのジジイ、余計な物を教えてくれちゃって!」
「しょせん何もかも有限……人間が貪り過ぎるとろくなことにならん……その事をこの青年たちは改めて教えてくれたぞ。勝敗はもう見えておる」
「うるさーーい!!ったく、なんで、なんで、そんなすぐ逃げる奴を追うのよ……ちょっとザレ、聞こえてるでしょ!!」
召喚だけじゃなく制御にも魔力を使っているのだろうが、今のゴーレムはロキシーの言う事を聞いていない。
セブンスの魔力に負けているのか、それともヘイト・マジックが強いのか。
とにかく赤井たちの方を見てもう十分に時を稼げたと判断した俺は、赤井たちと向き合う形でついに動きを止めた。
「ハァ、ハァ……」
「ハハハハ、これでもう二度とちょこまかちょこまかと動き回る事は出来ないわね!もう二度と、誰も逆らえないように、この村のために……!」
ロキシーの目は、もう限界を突破しちまった人間のそれになってた。




