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ヘイト・マジック

バレンタインデーに真っ赤な贈り物を。

「みんな踏み潰しなさい、私の言う事を聞かず、このクチカケ村の発展を阻害する奴を……!!」



 ロキシーの声と共にいったん向き直ったゴーレムはまずはお前らだとばかりに改めて市村たちに迫り、とんでもない速度で両腕を振り回す。


 子どもがやっているようなパンチだが、それでも風圧だけで全てを吹き飛ばせそうにさえ思えて来る。



 赤井は必死に防御魔法を使い、市村はパラディン様の務めとばかりにオユキを必死に逃がそうとしている。

 セブンスはオユキと共に逃げ回り俺の姿を探そうとしているが、その都度ゴーレムが視界を意地悪く塞いでくる。

 大川はロキシーに近づこうとしているが、ゴーレムのスピードの前に全くその暇がない


「てめえこの野郎見えてねえのか!モタモタしてると召喚主を叩き斬るぞ!」

「やっても同じよ。さっさと逃げ出してくれればもう追う気はないから」

「あんただってもう追えないんだろ?」

「これは交渉よ、開発をやめろとか世迷言をほざいてこの村を傷つけなきゃ別にいいの!」

「ミミさんだってやめろって言ってるぞ!」

「いいわよね、ずっと工房に引きこもり生活できる人間は!そんな視野の狭い奴だとは思わなかったわよ!」

「ざけんじゃねえよ!」


 俺は思わず頭に血が上って走り出し、気が付くと右手でロキシーをぶん殴っていた。


 ミミさんに抱えられながら立ち上がったロキシーの口から血が流れ、魔物のそれと違う赤い血が雪と俺の拳を染めて行く。


「何のつもりよ!」

「あんたは双子の弟まで手にかける気か!」

「邪魔をするからいけないんじゃないの!あの時、どうしてまっすぐ行ってオユキを斬らなかったの!なんでこんな弟に話なんか聞いたの!」

「いろいろと情報を集めてから動くのは冒険者の基本だ!相手がどんな奴かもわからずに突っ込むだなんてそれこそただのアホじゃないか!」


 冒険者の基本とか抜かせるほどこの世界に慣れちゃいないが、だとしても何もかも人の言う事を鵜呑みにするような段階はとっくの昔に越えている。

 メディアリテラシーって訳でもないが、実際ひとつの情報だけを真に受けた遠藤の事を思うとどうしても情報集めに積極的にならなければいけない。

 確かにこの町の住民はギルドの係員を含めこのロキシーをもてはやしてたけど、それだけを真に受けてはいそうですかと動く事はどうしてもできなかった。


「この世でたった一人の姉弟だろ、それを何だと思ってるんだよ!」

「私はこの村のが大事よ!一人の弟と百人以上の村、どっちを取るわけ!」

「あんたの正義はあんただけの正義だ!一番よくわかっている奴の思いを踏みにじってまで何がしたいんだよ!」



 ぼっちの上に一人っ子の俺には、兄弟姉妹がいる奴の気持ちはわからねえ。従兄弟でさえも年に二、三度しか会わねえような生活だったけど、そんでももし姉や兄、妹や弟がいたらどうなってたかとか考えた事もある。

 それはどう考えてもぼっちにはなりえない生活、実に騒がしくて刺激のある生活だろう。そこでは得られない物も多かっただろうけど、得られる物も多かったはずだ。で河野は俺より一日早く生まれたからってお姉ちゃんぶってたけど、ああいうのとは違うよないろいろ……ったく、十六年の中の一日なんて約六千分の一じゃねえか、0.01%だよ。


「落ち着けよ、あのオユキたちが危ないぞ!姉貴は俺が抑え込むから!」

「ええい!」



 ロキシーをミミさんに任せてオユキたちに迫るゴーレムを、もう一回後ろから蹴飛ばしてやった。だがバランスを崩すどころか気にする素振りさえなく、オユキたちを追い詰めている。


「上田!このゴーレムを倒すにはまだかなり時間がいる!」

「この攻撃では一撃必殺もあり得るであります!」

「それって……!」


 ロキシーはニタニタ笑いながらオユキたちを見てやがる。

 大川はともかく文化部の赤井と市村にはその攻撃から逃げられるだけの基礎体力はなく、チート異能で無理矢理にかさ増ししたようなスピードで逃げ回らなければならない。


「とっとと頭を下げなさいよ僕が悪かったですって、そうしたら今すぐ引っ込めてあげるから」

「俺が止めても弟さんが怒るだろが!」

「ミミ、そう言えばナナナカジノが壊れたそうよね。その修繕にハンドレさんって人が修繕のための職人を欲しがってるらしいけど」

「姉貴……!」

「今すぐ謝れば許してあげるから!私はこの村を、この村を!!」


 わかっちゃいたけど、もうどんな言葉も耳に入りそうにない。



 やっぱり俺がミーサンと同じように殺すしかねえと思っていると、ガーンと言う音が鳴り響いた。



「まったく、岩は切れんか……」



 ライドーさんが、斧でゴーレムに挑みかかっていた。


 ゴーレムはほんのちょっとひるんだが、大事に大事に使って来たはずの斧の、大事な刃が欠けまくっている。


「何やってるのよ、ムダだってわからないの?」

「わしはこの村のためにやっておるのだ、このゴーレムとやらのせいで、一体どれだけの自然が蝕まれておる!」

「だから、とっとと頭を下げればいいのに!」

「この村の衆は、鉱山と林と言う自然に生かされておる!それをこれ以上踏みにじるような真似をして許されると思うのか!」

「何よこの老害ジジイ!あんたの言う事を聞いていたらこの村は永遠に田舎町よ、今はまだペルエとエスタの通り道だからまだ成り立ってるけど、また別に道ができたらこんな所誰も住めなくなるわ!」

「お主のやり方でも住めなくなるわ、木が失われさらに鉱毒によって水が枯れれば、それこそこの村は雪解け水によって洪水になるわ!しかもとても飲めたものではない汚い水でな!」


 刃が欠けちまった斧を構えながら、必死に怒鳴っている。そのあまりにも悲惨で悲痛な可能性、まあ俺らも危惧していた可能性に村人たちも背筋を伸ばしていたが、ロキシーはまったく意に介していない。




「しかしもはやこれまでかもしれんな……お嬢ちゃん!」

「はい!」

「セブンス!」




 この状況で、最後の一人が出て来た。セブンスだ。




「あなたはもう少しまともだと思ったのに……!」

「わかりました、これでダメならあきらめます!ユーイチさん!!ライドーさんが教えてくれた究極の魔法です、受け止めて下さい、お願いします!」




 セブンスが右手を高く掲げながら俺を呼んだ。


 右手から真っ赤な魔法の弾が出ている。何の魔法なんだ?力が増すのか?まあ何でもいい、これに賭けるしかない!


「お前の魔法ならば大丈夫だ!さあ来い!」

「行きます!ヘイト・マジック!!」




 ヘイト・マジックなる魔法の真っ赤な弾はライドーさんたちの道をふさぐべく足を開いていたゴーレムの股間をすり抜け、飛び込んだ俺に直撃した。

上田裕一「チョコレートなんぞ河野とお袋以外の異性から受け取った事ねえや」

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