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ロキシーの野望

 やっぱり、雪玉が飛んで来た。




「あの男はあの雪女の味方よ!やってしまいなさい!」




 その声と共に、俺に向かって村人たちが襲い掛かる。


「この野郎!」

「村長に何をした!」



 覚悟はしていた。ライドーさんのような満足を知ればそれ以上貪ろうとしないような立派な人が疎外されるぐらいには、この村の人たちは欲に目がくらんでいた。

 それが悪い事とは思わない。無欲の勝利とか言うけど、ロキシーはそれこそあの鉱山とこの森を宝の山として欲望をあおりまくって人を呼んだ。そこに来る人が期待に応えてくれたロキシーを尊敬するのは当たり前だ。



「なぜだ、なぜ村長を!」

「村長は魔物を呼び出して旅人を襲ってたんだよ!」

「それはお前らがあの雪女に与したからだろ!」




 とりあえず叫んでみるが、言うまでもなくまともな反応はない。雪玉のみならず、石が来る、棒が来る、拳が来る。



 しかし全て当たらない。相討ちに次ぐ相討ちが発生し、村人たちはどんどんと倒れていた。



「何なんだこいつ!」

「ただの冒険者かと思ったけどおかしいぞ!」

「集団で取り囲めば何とかなります!」

「そうだそうだ!」

「あんた一体何のつもりだよ……」


 村人を召喚魔法で使える魔物かのように扱うロキシーに呆れながら俺は、村人たちの手をすり抜け続ける。


 時々走るロキシーの巻き上げた雪が体や口に当たって体勢を崩しそうになるが、いずれにせよ村人たちの手は俺を潜り抜け続ける。まるで鬼ごっこだ。


 昔から俺は足が速くて鬼になるとすぐ誰かを捕まえ、そして追われても逃げ切れる。逃げ切れなかったのは女では河野ぐらいで、男でもめったにいなかった。




「どこまで行く気だあんた!」

「もちろんあの洞窟よ、あの雪女を踏み潰してやるから!」

「オユキを踏み潰せば何か変わるのかよ!」

「変わるわよ、これ以上村の発展を邪魔されなくて済むから、まだまだ居住者を増や

して、ペルエ市にも負けない場所にしなくちゃ!」


 めちゃくちゃな話だ。


 ペルエ市は西門から東門まで徒歩一時間はかかると言うのに、このクチカケ村は十五分ですべてが回り終わる規模しかない。はっきり言ってミルミル村以下の規模だ。


「そんな無理矢理な事をすれば反動が来ることぐらいわかるだろが!後ろを見ろ!」

「そんな事ができる訳ないじゃない!」

「後で赤井に治療させるから、村ってのは村人ありきだろが!」


 俺のぼっチート異能を知らないにしても、こうも捨て駒のように村人を使いまくっているとそれこそ村から人がいなくなるじゃないか。無謀を通り越してただのアホだ。


「俺はあくまでも強引な採掘をやめろって言ってるだけだよ!オユキだってライドーさんだってするなとは一言も言ってねえよ!」

「強引だなんてよそ者に言われる筋合いはないわよ!」

「よそ者の意見を聞かねえ奴はダメだ、俺が言うのもなんだがそれじゃきっと自滅する!」



 俺自身、もっと他人の意見を聞きたい。そして何が良くて何が悪いか教えてもらいたい。今のところそれができているのは柴原コーチただ一人、赤井や市村・大川はこの世界に来てからの存在。



 その三人と、「戻った後」についての話を交わした事はない。戻ったとしていつ何時に戻るのか。ただでさえ一ヶ月も経っているのだから同じように一ヶ月経ってるんじゃないんだろうか、と言うかだいたいこの世界から元の世界に戻れるのか、それから遠藤はどうなるのかとか、いろいろと後ろ向きな事ばかりが出て来るからだ。

 三人の中でもっとも地に足のついてそうな大川でさえこの話題を避けているのだから、後の二人は推して知るべしだった。



「ミミもミミよ、ここ最近私に冷たくって、あの雪女や老害ジジイに寄り添っちゃって!」

「老害ってまさかライドーさんの事じゃねえよな!」

「木を減らさなければこの村は森に飲まれるわよ!そうなってから後悔しても遅いんだけどの一言に尽きるわよ!」

「魔物を呼び出してまでもする事かよ!」


 陸上部の俺に雪道を走り慣れた技で対抗しているのか、ずいぶんと軽やかに動いている。でもしょせん前しか見えてねえ、俺がふと立ち止まって振り返ると俺について来たやつはもうほとんどいない。

 さっきの同士討ちで体力を浪費し、そのあげくめちゃくちゃな全速力で飛ばした訳だ。ライドーさんがXランク冒険者としてもてはやされてる中じゃしょうがないのかもしれないけど、ぶっちゃけ哀れだった。



 その間にロキシーは俺との差を開こうとするが、それでも行き先が見えている以上追いかけるのは容易い。




 もう今日だけで何度も行ったあの洞窟。それこそRPGだったらそれだけで駄作と言われそうなほどの往復お使いイベントの場所、そこにロキシーのお目当てはいる。


 俺は一度小休止して深呼吸し、冷たい空気を腹の中に入れて背を伸ばす。その間に迫って来た村人から再び逃げ、また走り出した。




「ロキシー!」



 そしてロキシーは、夕日に照らされながら青い雪を見つめていた。



 そう、さっき白狼や雪男と戦った場所だ。



「よくもコケにしてくれたわね、私の魔物たちを……」

「これでわかっただろ、あんたじゃ勝てない!」

「すべては村のため、魔物たちの仇のため……さあ、おいで!」




 ロキシーが地面に右手を向けながら、左手で小指と薬指を俺に向かって立てている。


 夕方だと言うのに急に昼間のように明るくなり、目が開けにくくなった。それでも必死に近づいてロキシーに斬りかかろうとした所で、地響きが鳴り響いた。




「これか!?」

「さあ、行きなさい、ザレ!」


 ロキシーからザレと呼ばれた巨大な魔物。




 それは間違いなく巨人、と言うかゴーレムだった。

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