ぼっちなりの戦い方
「とりあえず敵は消えましたが……」
「とりあえずはな」
「さすがですユーイチさん!」
とにかく魔物の大軍を無傷で全滅させた俺たちは再び洞窟に戻った。セブンスは本から目を放して俺に抱き寄り、洞窟の中で暖かくなっていた体を俺にこすりつける。
おい、大川が見てるんだぞ。オユキもなんか目を細くしてるし、いろいろまずいと違う?
「で、魔法を覚えたのか?」
「大丈夫じゃ、まったく本当に熱心じゃったのう。いやそれだけじゃなく、元々の素質があったんじゃろうか、実に魔力があふれておる」
「わかるよ、この魔法を百回は使えるよ!」
「うらやましい事でありますな、魔力の程度を見られて、私は無理であります……」
百回か……まったくセブンスの魔力が途方もない量なのか、それともこの魔法がそんなに魔力が要らないのか。前者だったらいいなと思いながら、俺は魔力を見られるオユキに素直に感心した。
「それはお前の力か」
「ううん、そんなに珍しくない。お爺ちゃんはXランク冒険者だけど、魔法の専門家ならばZランク冒険者でもできる人間はいるって」
「教えてくださいであります!」
「じっと対象を集中して見つめて魔力を集中させればいいんだけど、普通はそれをする前に集中が切れちゃうからね。まあこれが終わったら教えてあげるよ」
「どうしてもすぐではダメでありますか!」
「そう簡単じゃないよー」
「それでは未来永劫、遠慮しておくであります…………」
「でもさ、見た所アカイさんとセブンスちゃん以外この魔法の適性がありそうな子いないんだよねー、後で教えてあげようかセブンスちゃん」
「お願いします!」
赤井がなぜ「この戦いが終わったら」と言われて急に断ったかはわからないが、もし相手の能力を見る事ができたら実に便利だろう。また同じ原理で自分の能力もゲームのステータスのように見る事もでき、そうして彼我の実力差を計ることもできるそうだ。
で、さらに発展すれば相手の特殊能力も見られるらしい。それこそある意味で一番恐ろしいプライバシーの侵害であり、同時にとんでもない攻撃である。で、市村にも魔力はあったはずだが、適性がなかったらしい。まったく、どこまでもヒーローにふさわしい正々堂々とした立ち位置の似合う男だ。
「まあとりあえずセブンスはもう大丈夫としてだ、やはりこれはロキシーの仕掛けだと思うか?」
「証明がないのであります……」
「しかしあのような魔物、そうお前さんたちが雪男と呼んでおった」
「確かにオユキもライドーさんもそう言ってました、ですが物的証拠と言うのはひとつも手元にありません」
しかし本当に魔物ってのは恐ろしいね、あれだけ狩りながら残った遺体は狼だけ。もちろん大した金にならない。
いや金になるとかならないとかじゃなく、証拠も残せない。
雪男など今までいなかった?そんなのはあくまでもライドーさんやオユキの経験や記憶でしかなく、物的証拠なんてひとつもない。青い血では不足だ。何らかの染料だろとしらを切られれば手詰まりでしかない。
「しかし、もしここでロキシーならばどうするであります?」
「こっちだって手詰まりなように、向こうだってそのはずだ。どんなに多くの魔物を放ったところで意味がない事はわかったと考えるべきだろう。ましてや魔力にだって限りがあるんだろ?」
「まあそうだよね、あんなにたくさんの魔物を召喚するだなんて相当な魔力がないと無理だよ、ああもちろん魔法で狼を白狼にするのも」
「とは言えこのまま時が経ち一晩休めばまた同じことが可能になるでありましょう」
(ったく、RPGの常識は勘弁してもらいたいよな……)
確かにもうこれ以上魔物は召喚できないだろうと言いたいがどうやらこの世界、一晩ぐっすり寝れば体力も魔力も全回復するらしい。
ミーサンだって派手にネオンサインを灯しては寝てを繰り返してたらしいけど便利だと同時に面倒くさいシステムだな、たぶん魔力ゼロの俺が言うのもなんだが。
「とすればなおさらこっちから、それもすぐさま動くしかない。とは言えどの程度の規模で動くかだ」
「全員で行けばいいんじゃないの?それで今度こそあの小娘オバサンに目に物見せてやらなきゃ!」
「いいや、俺一人で行く」
オユキはえっと言う顔になったが、俺はこの自分の判断に自信があった。
そして大川の顔を見て、確信に変わった。
ひとりぼっちでの敵大将とのご対面。確かに危険かもしれない。
だが俺の力を鑑みる限り、俺はきっとその戦い方が合っている。
(結局、ぼっちにはぼっちの戦い方があるか……)
これまで俺は、自分が突っ込んで攻撃を引き付けて市村たちを支えて来たつもりだった。何せ、俺は俺に向けられた攻撃をほとんど避けられる。
だが、俺に当たらないからと言って誰にも当たらない訳じゃない。
(モモミちゃんが怒った訳がやっとわかったよ……)
あの時、本来なら俺に当たるはずの攻撃が馬車に当たった。俺を仲間外れにし、別の仲間を作るべく攻撃が飛び、犠牲を作る。
今の俺が誰かと一緒に戦うと、誰かを巻き込まないといけない。
「ロキシーは俺らをあくまでも討伐者としてここに寄越させた。それはミミさんを含め村中の人間が知っている
「でもロキシーさんは村の人に支持を得てて、それで」
「だからこそ、俺にしかできない。大川」
「そうね。あなたにしかできないわね。セブンス、気持ちはわかるけどまだ決戦になんかならないから、安心して!」
大川は俺の力を知っている。だからこそその欠点も知っていて、同時にその上で信頼してくれている。
同じように知っているはずのセブンスが不安げなのはもう性格の問題なんだろう。腰を浮かせ、自分もさっきのようについて行きますと言いたげにしている。
「赤井…………」
「私もそれがよろしいと思っているであります」
「俺もそう思う」
ライドーさんは何も言わずに深く頭を下げた。ったく、本当の大人の男の信頼の示し方だよな、まったく勝負になる気がしない、
「もし逃げ帰って来たかそれとも一時間ほど経って戻って来なかったのどっちかになったら、その時は頼むぞ」
「了解したぞ!」
情けない物言いだが、それでもみんな認めてくれている。
ぼっちのまま、俺はみんなの期待を背負って歩き出す。既に慣れちまったこの山道を。




