トラウマ再び
「あの時も姉貴は古い家を襲わせ、壊していた。オユキはあの巨人に全くかなわず逃げ出し、これにより姉貴はまた一段と村の中での信用を勝ち取ったよ、魔物を制御して魔物に勝ったっつー事でな。俺だってさ、あの石の巨人を見た時はマジでビビったよ、お前ら勝てるのか?」
「ゴーレムでありますか……」
ロキシーはずいぶんと巧みな事をして、村民たちの信頼を勝ち取ったらしい。って言うかある種のマッチポンプじゃねえか……。
にしても石の巨人、いわゆるゴーレムって奴か。確かに強そうかもしれねえ。ましてや石ともなるとどうやって壊したらいいかわかりゃしねえ。剣で斬る事なんかたぶんできねえだろうし。これまでで一番の難敵である事には間違いねえ。
「まあ、いざとなればこのパラディンの力を込めた剣を見せるしかないですね」
「へえあんたパラディンねえ、そんな人間だったなんて驚きだよ。確かにそういう剣なら何とかなるかもしれねえけどさ、まあとりあえずユーイチと言ったっけ、あんたの手をちょいと採寸させてくれねえかな」
「協力してくれるんですか」
「一応な」
陽気にはしゃぐ俺の手をゆっくりとつかみ、じっと眺める。
そして右手で俺の手を触りながら、左手で何かを書き付けてる。
手の絵に、数字。長さの単位まで同じかどうかはわからねえけどその手際の良さは、まさしく本職のそれだ。
「で、お代は」
「後で決める。まあ最高でタダだけどな」
「でもわざわざそんなの付けなくてもいいじゃない」
「俺が付けたいんだよ、って言うかミミさんに失礼だろ!赤井ならわかるだろ」
「はい、まあその点はわかるであります」
もしぼっチート異能が生きてるのならばまったく必要ないはずだが、それでも俺は付けたい。
(まだ俺は、痛みに勝てない人間だ。あるいはここで慣れなければならないのかもしれねえけど、それでもあの時の苦しさを思うとどうしても欲しい……)
まったく痛い思いをしない人生なんて存在しない。ぼっちと言う名の苦悩は味わって来たはずだったが、それでも俺はそれ以外であまりにも傷つく事がなかった。
レベル1の初期装備でいきなりラスボスに挑むようなのがバカ以外の何でもない事ぐらい、赤井でもなくてもわかる。
今の俺はその点に関してはレベル1だ、装備を鍛えなければならない。
「それでこの後どうする気だ?姉貴ん所に殴り込みかける気か?」
「いえ、とりあえずはセブンスの所へ戻ります」
「そうか、愛しの彼女の所へかい」
「えっ」
それでとりあえずはセブンスやオユキと作戦計画を練ろうと思っていた所に、いきなりとんでもない暴投が飛んで来た。
愛しの彼女?まったくあらゆる意味でずいぶんすごい肩書だ。
俺はセブンスを彼女だと思った事があるのだろうか?
確かに俺の恩人であり、俺の同行者でもある。でも俺は彼女に恋愛感情を持った事があるのだろうか。少なくとも向こうは持ちまくっているようだが、それでも俺はまだはっきりとは言い切れない。
「少なくとも、この二人よりはモテませんけど」
「ああそうかい、まあ頑張れよ。さーて、久しぶりに気合い入れるとしますか」
あごひげをなで回すミミさんに見送られながら、俺たちは鍛冶屋を出た。
っつーかたった数歩なのに赤井の目線が冷たい。
「話によればファーストキスを持って行かれたそうではありませんか、それを彼女と呼ばずして誰を彼女だと」
「でもさ、まったくの、その……」
「ったくもう、ちゃんと言わないとダメよ。もたついてるとこの世界の専門家かモテモテさんに取られちゃうから。とっとと言えばいいのに」
「モテモテさんって誰だ大川、まあセブンスは出会った時から上田ベッタリだったからな、完全に彼女だろう」
ついでに大川と市村もそれぞれなりに迫って来るし……ああ、本当恋愛って難しいよな。剣を振るってる方がまだ楽だ。
ある意味モテ慣れてる赤井と無自覚モテ男の市村にはそれこそ何でもない事なんだろうけどな。
まあとにかく歩きますかとばかりに再び鉱山に向けて歩き出そうとすると、またあいつらが現れた。
「狼であります!」
————狼だ。しかも白狼だ。
その事に気付いた途端、足が動かなくなった。