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俺たちは雪女を選ぼうとする

「それで秘伝の魔法を?」

「ああ、オユキとライドーさんは俺らの味方だ」


 俺はセブンスを洞窟の中へと残し、外の三人と抱き合った。単純に寒いからだ。


「我々はその、中へと……ハックション!」

「赤井ぐらいなら良さそうだと思ったけどな、やっぱりダメだって」

「しかしね、そんな物騒な物を持ってる以上しょうがないでしょ。まあ私の場合徒手空拳でも敵を倒す事ができるからそのせいだと思うけどね」



 市村はもちろん、大川も赤井もオユキは立ち入りを許可してくれなかった。僧侶でも人を傷つける事はできるしな、って言うかその杖で一体何人殴り倒して来た?

 僧侶は戒律の影響で刃物が持てないとか言う話はRPGじゃよくある事でこの世界でもそうらしいとは言え、むしろ逆に怖いんだけど。


「とにかくだ、その二人の言い分からするとあのロキシーって村長はとんでもない魔法使いだな」

「まあ確かにこの世界、魔法は一向に珍しくないでありますが」

「召喚魔法だなんて、それこそファンタジー世界その物よ。で、一体どんなのを呼び出すって訳?」

「とんでもない巨人、七から八メートル、いやもっとあるかもしれない奴だそうだ」


 単純に五倍とか言うが、俺の身長の五分の一となるとだいたい三十六センチぐらい、だいたい膝小僧のちょっと下ぐらいになる。俺らなど踏み潰すのは簡単だろう。


「にしてもね、もういい加減認めなきゃならないんだろうけど、それにしても召喚魔法だなんてね……」

「召喚魔法かぁ、まあ俺は既に見た事あるけどな」

「コークとは訳が違うのでありますな、コークとは……」

「コークってのは召喚魔法で呼び出されたオークの事だ。呼び出し主により善良にも凶悪にもなる。その巨人だっておそらくはそうだろう。俺は召喚魔法について詳しくないが、結局何もかも使いようだろう」




 何もかも使いよう、全くその通りだ。


 三田川は事ある度に俺たち、取り分け赤井や平林をいじめて来たが、その口ぶりはずいぶんと滑らかだった。

(あそこまでの悪口良く思いつくよな、そんなんができるんならもうちょい勉強すりゃいいのに、まあしてるんだろうけど……)

 私は努力するエリート様だと言わんばかりに英語部に所属して英検準一級も取り、志望大学は東大京大一橋、滑り止めで早慶上智。もし俺がスポーツ推薦の資格を得ても早稲田だけには入らねえと思ってる事など知った事かと言わんばかりに我が物顔する女。


 いつも赤井に向かってあんたが弁護士になれる訳ないじゃない、なっても絶対に弁護なんか頼まないからと放言しているけど、赤井と違って三田川はモテない。

 俺が言うのもなんだが、そういう方向の努力をしたってバチは当たらねえはずだ。




「しかし、ロキシーがその巨人を呼び出し、オユキがそれを相手にしていたのは間違いないとするとそれを村人が知らないのはおかしくないか?そんな目立つのを」

「それはここまで聞いて来なかった俺の落ち度だ。それにしても巨人の痕跡がないのもおかしいが」

「新しい建物の多さ、それすなわちとは考えられないでありますか」


 赤井の言う通りだ、こういうのが頭がいいって言うんだろうな。俺たちが来る前に巨人により町が荒らされ、その上で新しいのを建てたとなればかなりごまかせる。そうやって荒らした住民は何らかの形で取り込み、不満を訴えさせないようにしたのかもしれない。


「もちろん、赤井君の言葉が全面的に正しいとか言い切れないけどね」

「しかしそう考えるとつじつまが合うのであります」

「ライドーさんって、かなりの年長者なんでしょ。そういう存在に反抗されてるって事は、ロキシーはそういう存在を切り捨てたと考えるべきじゃない?」

「チッ……!」


 鉱山と林業、それからそれらの製錬と鍛冶、そして木材の加工。圧倒的な肉体労働のオンパレードであり、過酷な労働条件だろう。おそらく農作物の実りは乏しく、常にどこからか買わねばならない。その食糧の供給源がなくなればそれこそおしまい。そんな状況から抜け出したいとなるのは確かに自然な事かもしれない。


(ゴーレムにより絶対主義、独裁政権の恐怖政治じゃねえか……)


 とは言え、実に悪質極まるやり方だ。圧倒的な暴威をもって人を従わせた所で、それがなくなればあっという間に支配は崩れ去る。結果的に良かったとしても、あまりにも乱暴で人心が付いて来ない。

 と言うかこの世界で資源問題とか鉱毒とか禿山とかの問題がどれほど根付いているのかはわからないが、それをやって失敗した例が俺たちの世界である以上、同じ過ちを見たくはない。



「俺は、あのロキシーを認めたくない」

「私もそう思うであります」


 市村も大川も深くうなずく。

 だがおそらく、村人はロキシーの味方をする。ましてやライドーさんの言葉ならともかく、オユキと言う魔物やよそ者の俺たちの言葉など聞くかどうかわからない。


「ミミさんなら、ミミさんならなんとかしてくれるんじゃねえか」

「それは賛成であります、あの方はおそらく彼女を心底から思いながらも、そのやり方には反発しているはずであります」

「でもさ、ミミさんも大変だな。それこそ板挟みじゃねえか」

「まあ、聞いてみる事に越したことはねえだろ」


 確信なんぞない。あるのは行動力だけ。セブンスをまるっきり置き去りにして特段親しくもないクラスメイト三人だけ。


 でもセブンスの意志を無視する趣味はないし、ましてやこんな寒い中で三人を突っ立たせている趣味はもっとない。赤井も体格の割に寒がりだな。


「万が一の時はやってやるしかねえ」

「できればその巨人とやらだけを倒したいでありますな」

「まあ、オユキもお行きって言ってるだろうし、早く行くぜ。ああいけねえ、オユキと話してたせいでうつっちまった……悪い悪い」



 ああいけねえ三人ともさっきよりずいぶんと寒そうに震えてる。悪いけど後で教えてやんなきゃダメだな、こればっかりは……


 おいおい、ってか三人ともそんな顔しないでくれよ……。

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