この作品の略称?「ぼちぼち」です、まあぼちぼち行きましょう
「ああもう、ついうっかりしちゃってね~、何せ爺さん以外の人間に会うのってマジでひと月ぶりですし~!」
「そう……ましてやこれだけの人数で武器を持って押しかければああも警戒して当たり前だよね……」
あの後オユキは俺と一応武器こそ持ってるけど冒険者じゃないセブンスだけを洞窟に招き入れ、あとの三人は外に締め出した。
もっとも、俺とセブンスの武器も洞窟内に立てかけてある。
「まあね、私もね、最近調子が最悪って言うか~それであの小娘オバサン人の事を自分たちを取って食う魔物みたいに言い出してて~」
「小娘オバサンって何だよ……」
「当たり前でしょ~まだ二十七歳、私の四分の一のくせにさ、あんなにデブデブ太っちゃってさ~」
「ああそう……」
ファンタジー世界じゃ年齢3ケタは珍しくないって赤井は言ってたけど、こうして目の前で見てもとても信じられねえ。セブンスとほぼ同い年にしか見えねえ。
「こんな場所で良ければ一杯どうじゃ?」
「いや、お酒は結構です、と言うかそんな熱そうなの」
「大丈夫大丈夫、私熱いのは平気だから。って言うかお酒はダメなの~?」
「ダメです、絶対にダメです!」
そんでライドーさんが予想外に愛想のよさそうな所を見せ、片や予想通りお酒を飲みながら歩み寄って来た。
ずいぶんとリラックスしてるなおい……。
真っ赤な絨毯の上に置かれた木製のテーブルの北にオユキ、東にライドーさん、西に俺、南にセブンスが座っている。東側の隅っこにはかまどはあり、それから西側にはタンスもある。北側には水がめもある。
なんだよ、結構まともな住居じゃねえか。
しかしやっぱり一〇八歳って言う年齢のせいかね、やっぱり酒は大丈夫なんだ。っつーか熱燗ですら大丈夫だって、この雪女のポテンシャルまじ高けえ……。
「何、お酒に弱いの~?」
「ああそうなんです、とくにこのセブンスは」
「もう、男なんでしょ~?」
「いやその、俺は飲むとすぐ寝ちゃうんで、ここで寝るとマジやばいんで……」
「もう、酒を避けるだなんて情けないよ~ハッハッハ!」
………………さっきの吹雪攻撃より効いた気がするのはたぶん気のせいじゃないだろう。ライドーさんも含め場が一瞬静寂に包まれ、ライドーさんがお酒に喉を鳴らす音だけが響き立った。
「ああそれで~、私に何の用~?」
「俺たちはここに来たばかりでいまいち事情が分かってないんだけど、オユキさんはこのクチカケ村の事をどうしたいの?」
「まあねえ、鉱山についても伐採についても、やめろだなんて一言も言わないよ~でも程度ってのがあるから~」
「ライドーさんはその仕事の程度を守ってたんですね」
「ああ。だがあの村長、まったく自然の成り行きをわかっとらん。これ以上やったら山がやせ細り、自分たちにかえって不利益をもたらすと言う事を全然わかっとらん!」
お酒のせいか顔を赤くしてテーブルにコップを叩き付けるライドーさんの声は、しゃがれた上にかなり上ずっていた。
「もちろん清水は一番だけど、多少なら鉱山の鉱石が混ざっても構わないんだよね、多少なら。
でもこの一〇年ほど鉱山から落ちてくる水がすごくまずくなっちゃってね、体にもかなり悪い水でさ、その上量も少なくなってるし」
「やはり乱伐と乱獲が原因か」
「そうなの、それであの小娘オバサンにライドーさんが抗議したんだけどね、みんなを集めてね」
「みんな?」
「そうじゃ、わしたち地元の連中で必要以上の分は絶対にやらん、勝手に伐った奴はわしらの手で少し懲らしめてやったのじゃ」
ライドーさんの太い腕が唸る。俺だってこのひと月で相当に太くなった自信があったが、それでも目の前のそれと比べると小枝だ。その腕っぷしでたくさんの悪い奴を打ちのめせそうなもんだけどなあ。
「ダメだったんですか?」
「金目当てにここに来たような連中にとっては、そんなのは無粋な老害にしか見えなかったんじゃろう……それでもまあ最初は良かったんじゃが」
「私もライドーさんに協力してね、たくさんの人間を追い払ったんだよ、でもね……」
でもねと言いながらオユキはうつむき、そして両手を大きく広げた。
「あの小娘オバサン、とんでもない巨人を呼び出したの!」
「巨人!?」
「ああ、私の五倍ぐらいの大きさの!それで私の力をもってしてもどうにもならなくてね、そうしてここに逃げ込んで来た訳!」
「どんな召喚魔法だよ!」
巨人を召喚する魔法だってのかよ……あの人のよさそうなロキシーって人がそんな魔法を使うだなんて……!
「召喚魔法知ってるの?」
「それぐらいならな。しかし召喚魔法となると」
「実はわしも、魔法を研究した事もある」
「ええ?」
「何、つまらん木こりで終わりたくないと思ったから、若いころにはな……でも結局覚えた魔法はたったひとつ、しかもそれは正直使い道のない魔法で、何にもまともな魔法は身に付かず、この年にして冒険者登録とやらをもらったはいいが扱いとしては斧戦士……回復魔法のひとつでもあれば、ああいかんいかん、それこそ乱伐の種じゃな……」
まあ、およそ魔法から縁遠そうな爺さんが言うぐらいには、この世界じゃ魔法は珍しくないんだろうな。とは言え、魔法を使ってとんでもない巨人を呼び出して自然を荒らそうとするってのはいろいろ間違ってる気がする。
「で、それってどんな魔法なんです」
「聞きたいか、まあ聞かせてやろう……」
まったくしょうもない魔法だがなと言いながら、爺さんは魔法の役目と呪文を話してくれた爺さん、楽しそうにその時の昔話をしてくれる。
実はオユキも初耳だったらしく、非常に丁寧に耳を傾けている。
赤井も市村も日下も、魔法の仕組みについては教えてくれなかった。と言うか教えられないらしい。
いつの間にか使えるようになってた、と言うもんで、何か修業を積んだわけじゃないらしい。まったく、これもまたチート異能の弊害か……。
「……まあ、このようによほどの者がおらなんだ使えない魔法じゃが……っておいお前さんどうした?」
「その魔法、私に使えますか!」
とかいろいろ考えながら全てを聞き終わった俺たちに対し益体もない話をしてしまったと言いたげにまた酒をあおろうとした爺さんに対し、セブンスが身を乗り出した。
「しかしお嬢さん」
「確かに、もし彼女がこれを覚えればかなり有効に使えます」
「そうか……だがこの魔法は別の意味で危険じゃぞ」
「魔力そのものはさほど要らないんですよね!でしたら私だって使えますよね!」
「……まあ、魔導書ならあるからな、ゆっくり読んでいくが良かろう。しかしそんなクズ魔法でも日の目を見る日が来るとは……まったく長生きはする物かもしれんの!」
確かに、本来ならクズ魔法だけど今の俺達には必要な魔法だ。
ましてやこれまでずっと戦えない事に苦悩していたセブンスが使えるとなればそれこそとんでもない戦力アップになるし、何よりセブンス自身も救われる。
「でもそれ本当に使えるの?」
「使えますから!」
「そうなんだ、じゃあそれであの巨人も倒せるかもね!」
「倒せるかどうかはわからないよ、あくまでも俺の力と合ってるだけだから」
「大丈夫、いざとなったら私もそいつ倒しに行くから!」
そんでオユキまで付いて来てくれるんだから、これこそ百人力って奴だ。さっき味わったあの力が味方になるんなら本当に頼もしい事この上ない!
「でもやっぱり、ライドーのおじいさんと別れちゃうのは辛いどーって言うか~」
……これさえなきゃな。




