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姉のロキシー村長の依頼

「ようこそこのクチカケ村にお越しくださいました。わたくし村長のロキシーと申します」


 短めだけど艶やかな金髪を流している。

 体型こそ雪国らしいふくよかなそれだが、それでもこんなに若い女性だとは思わなかった。

 もしミーサンと出会ってなければ、素直にきれいな女性だなと思えた。


「何か……」

「いえいえ何も、ああ俺がユーイチ、Wランク冒険者です」

「一応Vランク冒険者をやらせてもらっているマサキです」

「同じくVランク冒険者のハヤトであります」

「えっと、皆さんに付き従っているセブンスと言います……」

「ああ失礼、ヒロミと呼んでください」


 俺たちがそれぞれ適当にあいさつしながらソファーに腰を下ろすと、エプロンドレスを着たいかにもメイドらしき人がお茶を入れていた。


「ちょっともう、五人分早く持って来てよ」

「あのすみません、私たち勝手に来たんですからちょっと待ってあげてください、なんなら私手伝いますから……」

「セブンスさんとおっしゃいましたか、お優しい方ですね、ってあらまあ」



 セブンスはメイドさんを手伝うかのように、早熟茶五杯分をお盆に乗せて持って来た。湯気が立ち込め、中身に期待を抱かせる。

 そして熱い緑茶と暖炉の火がレンガ造りの家を温め、寒さに震えていた俺たちを溶かして行く。


「粗茶ですがお気に召していただけたようで何よりです」

「ありがとうございます。それで、依頼とは」

「簡単に言えば、魔物の討伐です」

「魔物?」



 魔物の討伐。実にありふれた依頼だ。


 もっとも俺が仕事として魔物を斬ったのはミルミル村のゴブリン狩りとペルエ市のコボルド狩り、そして今さっきのオワットとの戦いの時で、あの狼が野生種だとしたら人間を斬った数より少ないかもしれない。



「噂には聞きましたけど、ここに来るまでに白い狼の魔物を倒したとか」

「ああ、オワットと名乗る魔王の手先の狼です」

「それならば本当に安心できます」


 ロキシーさんは人好きのする笑顔をしながら、幾度もうなずく。その上にこのひと月で節くれだって来た手足を眺め、ついでに入り口に立てかけた得物も見ている。ずいぶんと見事なほどの品定めだ。


「見た所皆様はX~Vランクの冒険者様。かなりの手練れのようですね」

「すみません、私は……」

「セブンスちゃんだって、さっき狼一匹狩ったじゃない」

「あれは文字通りのたまたまです、弱り切ってたのを狩っただけで、皆さんが弱らせたのを」

「そうだったんですか、やけに進んでお給仕をするなと思ったら、自分だけそういう事ができないのが悔しいのだと」

「はい……」

「わかりました、とりあえず狼を仕留められるぐらいの剣術があるんならZランク冒険者ぐらいなら何とかなると思います、この依頼が終わり次第私が弟に取り計らいましょう」

「ありがとうございます!!」



 セブンスは両手の親指と人差し指でVサインを作ってロキシーさんに見せた。ずいぶんなはしゃぎっぷりだ。

 まだ新米である大川でさえXランクの中、自分にはそういうランクなんか何もない。せいぜいが荷物持ちか、食事や掃除などの担当。と言っても最近宿屋暮らしか野宿かのどちらかだから、その家事スキルを活かす時間はほとんど巡って来ない。

 だからこそ、冒険者と言う形で俺らに貢献できる可能性を見出せたのは嬉しいだろう。




「それで、どんな魔物なのでありますか?」

「ライドーと言う腕利きの木こりが、雪女に連れ去られたのです」

「ライドー?」


 雪女、こりゃまたずいぶんと和風な魔物、っつーか妖怪だ。西洋の雪女っつーのがどういうもんなのか、赤井に聞いてみ体もんだね。



「この村で一番の木こりであり、彼の切った木材は南にも東にも毎年大量に卸していたのです。この村の一番の産業であり、そんな彼が失われてしまってはこの村は衰亡します」

「しかし鉱業があるはずでは」

「ライドーはXランク冒険者でもあります、鉱山のもめ事を解決する顔役でもあり、またXランク冒険者と言う肩書相応に単純に強力な戦士でもありました。そのライドーが誘拐されてしまっては村の者はどうしようもないのです」


 木こりでXランク冒険者ってどういう事だよ、まあ斧を扱う戦士とか考えればつじつまは合うがだとしてもそれがかなわないとなるとなかなか手ごわそうな相手って事になる。


「どんな攻撃をするとか、どこにいるとか、そんな情報はないのでありますか?」

「それがその、あまりにも素早かったもので……まあ言うまでもなく冷気を使った攻撃をするのですが、まき散らしたり刃にしたり、いずれにしてもかなり強い事だけは間違いあありません……

 そしてその雪女は我々の二つ目の命と言うべき鉱山の脇道の洞窟に住んでおります」

「鉱山に下手に向かおうとすればその瞬間……!?」

「そういう訳です」


 大川博美が目も口も開きまくる中ロキシーさんは首を縦に振った。



 林業に鉱業を抑えられてるのかよ……!


 村長様は冒険者じゃない。冒険者じゃないから戦えないと言う訳じゃないけど、頭を抑えるその姿はとてもそういう類の力を持ってるようには見えない。



「なるほど、やってやりましょう、なあみんな!」


「了解だ!」

「了解であります!」

「わかりました」

「ちゃんと用意を整えてからね」


 勝手にリーダー面をした俺に皆きちんと付き従ってくれる。

 俺はまだ心に残っている恐怖に打ち勝つべく、大股で村長邸を出ようとした。



「その前にちゃんと片付けないと」

「ああごめんなさい、別にいいのに」


 ……大川のせいで台無しだったけどな。

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