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クチカケ村のギルド

「またずいぶんとたくさん持って来たもんだな。これも村長の徳って奴かもね」



 俺たちは狼の死体を背負いながら、クチカケ村へと入った。


 オワットとの戦いからクチカケ村に来るまでの間に、魔物が起こした訳じゃない雪が自然に降り、洞窟に潜んでいろいろやった事もあった。


 いろいろ?そりゃまあ、飯とその後のことだよ。


「これいくらになりますかね」

「とりあえずギルドに連れてってやるよ。あんたら冒険者なんだろ?まあこの村にギルドなんて最近までなかったんだよね、村長が作ってくれたんだよ」


 クチカケ村の村人、俺たち以上に露出の少ない村人は、雪原を俺たちの倍のスピードで歩きながらギルドとやらに連れてってくれた。


 なんだこれ、ずいぶんときれいで新しい建物だな。



「ああ、実にあったかいであります……!」

「ああこちらのハヤトはVランク冒険者なんです。それでとりあえずこちらを……!」

「ちょっと上田君……」


 思ったよりと言うと失礼だが豊かそうな村のギルドの暖炉の火が燃え、かじかみそうになっていた手足をほぐす。そうしてほぐされた手足でギルドマスター様にあいさつしながら、狼の死体を渡した。


 自分ではなく赤井の名前を使うのはずるい気もしたが、俺はWランクで赤井はVランクだから利用しないに越した事もないだろう。


「ほうVランクとはね、まあそれ相応の対価は払うよ」

「ありがとうございます」

「まあ数はともかく状態が……ってのもあるから、過剰な期待はするなよ」



 大量の狼たちの死体。ある意味では恐ろしくある意味では宝の山のその代物をひとつひとつ見定め三つの山に分けて行く。状態を見極めた実に見事な仕分け作業であり、それこそ大学の成績張りに優良可三つの山があっという間にできあがった。


「しかしさ、相当狩ったようだね。もしかしてわざわざ狩りに行ったんじゃなくてここに来るどさくさ紛れで」

「まあ、実は魔物に襲われましてね、その魔物を倒すついでにこうして」

「そうかいそうかい、そいつはすげえな。まあその分買取すら怪しいのも混ざってるけどな……。それでこの狼の牙を加工した武具はな、ペルエ市を経てシンミ王国にも卸してるんだよ。まあ見ての通りの場所だからなかなかこの時期は難しいけどな。それでも毛皮がかなりボロボロだった一方で爪も牙もかなり質がいいな。そうでないのは話は別だけど」

「必死だったんで」

「にしてもさ、毛皮だけを狙うだなんて相当な腕だね、この爪はこんなあばら家の床なんか簡単に貫通する。よほど接近するか、さもなくば弓矢で撃つしかねえ。もちろん魔法でってのもあるんだけど、こいつらはその点でも面倒でね。剣一本分の牙と爪なんて、それこそそれだけで金貨一枚はするよ」


 狩った数さえも覚えていないし、中には銀貨一枚にもならないレベルでまで買い叩かれたのもある。



 それでもトータルでは金貨十七枚、悪い額ではない。




 言うまでもなく皮はなめして衣類へと転用し、牙や爪は武器になるらしい。その武器は鉄や鋼に匹敵するほどの硬度を持ち、お偉いさんや腕利きが使うそうだ。


「春夏は鉱石を掘り当てたり草食獣や狼を狩ったり木を伐ったりして加工した商品をペルエ市に卸し、秋冬はそのお金で買った食糧を食べつつ木材を加工し、それをまた春に売る。そんな生活をここでは送っている。まあ今日なんかは比較的暖かいからね」


 雪原と言える程度には雪が積もり、そして風も冷たい。標高がどれだけなのかはわからないけど、いずれにしてもこれを暖かいと言えるような人間が目の前にいると言うのもまた紛れのない事実だった。まったく、世界はいちいち広い。



「それで何か受けられる仕事ってないですか?」

「ないよ、酒場の給仕くらいしか」

「そうですか……」

「うむむ……このような町だとさぞ強いお酒が多いのでありましょうな……」

「まさか呑む気じゃないでしょうね」

「あくまでも私は一般論を述べているだけであります」


 そんな中でもセブンスは例の如く仕事を求め、そしてこれまでと同じように失敗する。確かに赤井の言う通り、こういう寒冷地では強いお酒が多い。嗅ぐだけでも足元が怪しくなっていたセブンスにとって、もはや酒場は絶対に入れない場所と化していた。

 本当、手をカウンターについて気の毒になるぐらい落ち込んでる。それだけで仕事が回って来るのならばこんなに簡単な事もないぐらい落ち込んでる。


「それですみません、いい防具はないですか」

「防具?ここにはないよ。まあ防具屋って言うか武器屋ならあるけどな、具体的にどこの防具が欲しいんだ」

「腕から手首ですね、実は赤井に治してもらったとは言え狼にかなり強く引っかかれてしまいまして」

「そうか、あんたのようなWランク冒険者でもそんな事があるんだな、まあVランクだって言うそちらのハヤトって坊さんとヒロキって聖騎士様のおかげさまって所なんだろ?」

「まったくその通りです」




 俺だって落ち込みたい。あんなほんのちょっとのかすり傷のはずなのに、あそこまで痛い思いをしなくちゃいけないのはこれまで痛みを感じない、と言うか感じられないまま大きくなってしまったからだろうか。


(なぜそういう思いをして来なかったのか、そんなのは言い訳だよな。三田川でさえも俺をいたぶろうとしなかった、いやしてたのかもしれないけどそんな感触を得ることはできなかった。まったくどうしてこうなったんだか……)


 自分のやっている事は逃げだってのはわかってる、わかってるけど、それでも今の俺にはそういう防具が必要だった。


(赤井や市村頼りじゃダメだ、あの時だって俺はオワットを倒し少なくとも三十匹以上の狼を斬った、二人は十匹もやっていないはずだ……)


 具体的な数はわからないけど、俺の方が単純な戦力、倒した数としては上のはずだ。だってのに赤井や市村、大川が堂々としていて、なんで俺がこうも落ち込まなきゃいけないんだ……!




「まあお嬢ちゃんがどうしてもって言うならさ、一つだけあるよ」

「どんな!?」

「いやお嬢ちゃんには無理だよ、一応剣は持ってるみたいだけど冒険者登録されてないみたいだし、と言うかかなり厳しくてそれゆえに手を付けられない任務でね……」

「内容だけでも教えてくれますか?」


 同じように落ち込んでいるはずなのセブンスはどこまでも前のめりだった、少しでも俺たちの役に立とうとしている。その結果明らかに自分では無理と分かっても、決してそのために動く事をやめようとはしない。


 俺たちが狼の死体を運んでからやけにふかふかしたソファーにへたり込む中、たった一人だけ立ったままでいる。



「これはね、村長様自らの依頼なんだよ」


 村長様自らの依頼。それこそ俺を動かす糧であり、同時に不安要素でもある。

 おそらく相当に重たく、かつ難しい依頼だと言う事。今の弱っている俺でできるかわからない。



 そして何より、カスロの事もある。


 息子のためとは言え、カスロはミルミル村にとんでもない事をした。今度の村長がハンドレさんのような人物ではなく、カスロのような奴かもしれない。


「しかしその村長様と言うのは……」

「一番大きな家にお住まいです。まだ若いですが両親様の後を良く受け継いでおいでです。ああそれから村長様の双子の弟様はこの町で一番の鍛冶屋及び武器屋で」


 とは言えわざわざ恩を売り付けるつもりもないが、この依頼を解決すれば俺の防具も少しは安く作ってもらえるかもしれない。

 両手首だけでなく首筋にも、それから頭と顔と足。これまでのようにぼっチート異能が絶対じゃない以上、少なくとも急所だけは守りたい。もちろん既製品が悪いとか一言も言わないけど、できればオーダーメイドの装備を付けたい。そういう品、俺への気持ちが込められた品が今の俺にはすごくありがたい。


「セブンスのやる気を邪魔する法もないよな、その話聞きましょう」



 俺はこうして、村長様とやらの依頼を聞く事にした。

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