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寒さからもぼっち

 復興途上のナナナカジノと、建材をナナナカジノに使われたのか一挙に廃墟じみたミーサンカジノを横切りながら、俺たちは北上する。



 クチカケ村ってのがどの程度の雪山の中の村なのか、俺は知らない。

 一番はしゃいでいそうだと大川に言われた赤井もまるで知らないようで、はっきり言って他の誰よりも足取りが重い。


「大川、お前は一度向かおうとしたんだろ?」

「私は魚が食べたくてね、それで北に行けばと思って」

「おいおい……!」

「しょうがないでしょ、もちろんその過程で寒すぎて諦めたけど。にしてもね、私の戦い方だとこういうのってどうにも不便でね……ってか何笑ってるの!」



 大川が魚好きな事はこれまでの四か月で知っていたしまた昨日改めて知らされていたが、そのために動こうとするとは思わなかった。まあ大川の性格からしてじっとしているのは似合わないだろうし、そしてセブンスは笑ってるけど、俺は正直笑えない。


 俺も赤井も市村も、それこそ何々が食べたいと言えばある程度の欲望は叶った世界の人間だ。食べたい物があればそれを追うのはまったく不自然でも何でもない。


「なあセブンス、お前さん寂しくないのか?」

「別に寂しくはありませんが……」

「そうか」

「大丈夫です、私はこの剣と、何よりユーイチさんがいますから!」


 セブンスは毛皮のコートを着込みながら、俺に抱きつく。

 俺たちがまだ誰もコートを着ていない中、誰よりも早くコートを着ながら体をくっつけて来る。


「しかしこの剣は重いな、まあ少しは使い慣れたからいいけど」

「大丈夫です、今のユーイチさんなら簡単です!」

「昨日おとといと一応練習はしてみたよ、でもやはり改めて腕が疲れるな」

「やっぱり実践が必要なんでしょうか、イチムラさん手合わせをしてください」


 俺の手を握りながら、いつも以上の世話焼きぶりを見せつける。普段は仕事の虫であり、仕事がなければ俺の世話の虫と化すセブンスが、その本調子ぶりをいかんなく見せびらかしている。その上にいつもよりずっと甘えん坊で、私はミルミル村しか知りませんでしたからとでも言いたそうだった。


「そう言えばその、大川さんはナナナカジノに二度ほど訪問したそうで、その主の方の家はおそらく」

「いいの、会わない事に決めたから」

「そんな」

「私は思った以上にこの世界に打ちのめされた。また会いに行けばこの世界になじめなくなるから」


 大川は対照的に、あくまでも強い自分を貫き通すらしい。




 大川を守ってくれた小さな家の主の女性。おそらくは大川に、これまでにない優しさと癒しをくれた女性。言うなれば、この世界の母。


(どれほどに居心地がいいか、よくわかる話だよ。何せ実質ひとりぼっちで過ごしていたのに何も動こうとしなくなるほどにはな……)


 俺だってミルミル村に籠っていたが、それでもその村の中は動き回っていた。だが同時にそこから出ようとは思わなかった、自分が弱かったのもあるし、セブンスへの恩があったのも確かだが、同時にミルミル村の暮らしが快適だったからだ。

 もし俺がセブンスを含め村人みんなから疎外されていたら、すぐさまペルエ市に飛び込んでいたかもしれない。一応デーンがいたけどそれほど腹も立たなかった。


「いかにもな道があるでありますが……」

「だからいいって言ってる、でしょ……」

「大川がそうなら俺たちは止めない」




 北上中に細い脇道、いかにもその先に何かありそうな道があったが、大川は足を止めない。おそらくはその先に待つ誰かにより保護され、そしてそこから旅立つ事を決めたのだろう。

 一つの節目としてもう一回寄っても良さそうな物なのに動こうとしない辺り、やはり大川は強い人間だなと実感させられる。


 心地よければ心地いいほど、巣から旅立つのはつらいんだろう。だってのにそのつらさを必死にこらえている。


 俺はあるいはまだ思春期が来てねえのか知らねえけど、あの家を出る気はない。親にも甘えたい。俺も大川も、それからセブンスも、同じ一人っ子なのにここまで差が付くもんだろうか。

 ちなみに赤井も市村も、もう二十歳を過ぎた兄を持つ弟であり、下には誰もいない。


(一応今俺は自立したつもりでいるんだろうけどな、でも結局は仲間頼り……ぼっち、と言うか孤高を気取るなら、もっと強くなきゃいけねえ……)



 鳥がそうだったように、人間はいつか巣から飛び立つ。それまでに羽を鍛えておかなきゃすぐ死ぬ。俺はまだよちよち歩きなのかもしれねえ。

 相当な量の血を流したはずなのにまだ強くなれないのは一体何故なのか。



 そんな事ばかり考えながら歩いていると、まだ血臭のする場所までやって来た。




「うわっ……」

「……少し祈りを捧げさせて下さいであります……」


 死体も俺らが叩き折った武器の欠片ももうないが、それでも土に染み込んだ血だまりの跡は消えていない。

 武器の欠片は回収されてくず鉄のような扱いをされる事もあり、これもひとつの依頼となっているそうだ。そういう訳で冒険者たちが死体の運搬共々必死にやってくれたらしいが、それでも血臭を消す事はできない。





 俺たち四人で、一体何人殺したのかわからない。あくまでも善意でとか抜かすつもりもないが、それでもああして人殺しになった結果馬車の人間から得たのは、お礼の言葉でもお金でもなく、ただ「バーカ」と言う単語だけだった。


 そんな心ない言葉をぶつけて来たグベキが乗っていた馬車は、当たり前だがもうない。


 また他の九人の「ハンドレにより家族と店を奪われた子どもたち」はみんなハンドレさんやシンミ王国によって保護されているが、彼女だけは行方不明らしい。

 もちろん俺たちの証言によりミーサン一味と言う事になっているからある種のお尋ね者だが、それでも何とかしてやりたい。


「私はグベキって子を許せないですけどね」

「今思うと正直本当に頭がおかしいと思う所もあるでありますが、凄惨な体験をして心が壊れてしまっただけと思いたいのでありますが……」

「幸せになって欲しいけどね……」

「しかしだ、誰かが逃したのか?馬車で行けばすぐ見つかりそうだけどな、まあとりあえず北に行けば会えるかもしれないしな」

「まあ、幸せに過ごして欲しいよな。できれば俺らの知らない所で」



 四人ともグベキについては意見が分かれているが、とりあえず俺としては大川の意見に賛成だった。その上で自分の意見を盛り込んだ言葉を放ちながら、グベキとは関係なく手を合わせて俺らの世界の祈りをささげた。



「ユーイチさん……なぜ」

「少し間違ったら俺だってこうなるんだよ、それだけの事だ」

「とっても優しい方なんですね、ユーイチさんって……」


 俺の右手にしがみ付きながら、セブンスはやたらはしゃいでる。




 どうやら俺は、寒さからもぼっちだったらしい。

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