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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大川博美の決断

「しかしさ、食事はうまいしこのベッドはふかふかだよなー」


 その夜。ハンドレさんが取ってくれたペルエ市で一番豪華な宿に俺らは泊まった。

 赤井と市村は真っ正直に騒ぎ、セブンスはいつも通り働き口を探そうとして引っかからずしょんぼりしていた。



 そして大川は、俺と同じ部屋でベッドに腰かけている。





「上田君……」

「どうしたんだ」

「私は正直、遠藤君が好きだった」

「ああ…………」

「でも今の遠藤君は、はっきり言ってとても付き合えるそれじゃない。あんな恐ろしい遠藤君に、どうやって立ち向かったの」




 学校で見た時のような威勢はどこにもなく、大きな体をただ縮込ませているだけ。ここまで弱い大川を見たのは初めてだ。




「俺の秘密、話していいか?」

「何?」




 今の彼女なら、俺の秘密を受け入れられる気がした。話してどうなるとか言う訳でもなさそうだが、それでも抱え込んでおくのはどうも気分が悪い。

 ましてやこの大川に対してはだ。





「俺はどうやら、どんな攻撃からも相手にされないらしい」

「はぁ……」

「わかるだろ、あの戦いぶり」

「ああそれで……」

「そうでもなきゃあんな事はできない。どうだ、まったく努力しないで身に付いたこんな力を軽蔑するか?」

「…まさか!」


 まだ大川は、この世界になじめていない。おそらくは相当に心地のいい場所、あるいは悪い場所で過ごしてきて多くを知らないんだろう。

 ミルミル村と言う小さな村の中でさえいろいろぶつかって来た俺の方が、この点は強いのかもしれない。




「なあ大川、冒険者ランクにも登録されたことだしさ、俺らと一緒に来ないか?」

「えっ?」

「今のお前は弱い。お前はインチキだって言うだろうけど、そんなインチキな力を持っているとは言え俺にさえ勝てないぐらいに弱い」

「インチキなんて言わないわよ」

「お前はそういうの一番嫌いだと思ってたけどな」

「遠藤君だって、私だって同じでしょ。それから赤井も市村も……」

「だから別に恥じる事はない。俺もお前もみんな同じだ。何も恥じる事はない、持ってるだけならばな」


 遠藤はその力であんな事をやらかした。でもあの怪力をもし荷物を運ぶ方向に使えば、もっと早くナナナカジノの修繕もできるはずだ。

 だってのにあいつはあんな使い道をしちまった、実に残念なお話だ。


「神林たち三人はとりあえず大丈夫だ、とは言えあと十二人いる。その十二人を探そうじゃないか」

「十二人……」

「とりあえずその十二人に出会ってからでもいいじゃないか。そのために力を使おう、それでいいだろ!」


 出会ってどうなるのかはわからない。対して仲の良い訳でもないクラスの、その中のぼっちの俺が言うのもなんだけど、とにかく元の姿を取り戻すしかないじゃないか。

 少し大川が元気になり、そしてその目から涙があふれ出していた。



「ちょっと抱いていいか?」

「うん……でも私じゃムリだよね……」


 大きな体が俺にのしかかり、抱くつもりが逆に抱かれている。

 悪い気分ではないが、一応れっきとした中肉中背、スポーツマン体型のはずなのにこうなってしまうのには少し笑えもした。


「なんで今は抱けるんだろう……これまで二度抱こう、って言うか投げ飛ばしてやろうとしてたのにできなかった」

「さっき言った通りだよ」

「本当、実にうらやましいわ。大女だの、怖い女だの、勝てなきゃ付き合えないだの。それから家でも本当に厳しく育てられて来て、気が抜けたのは寝る時ぐらい。それこそ一日中気を張り詰めてなきゃいけなかった」

「大変だなおい、それから勉強もだろ。つらいんならいくらでも抱けよ。それで気持ちが収まるんならさ」

「うん……」




 大川の人生ってのはそれこそ半端ない敵意との戦いだったんだろう。

 俺だってこの世界に来て相当な命のやり取りをしたつもりだったが、それでも家では柔道の稽古に厳しい両親、学校では絶え間ない中傷や無駄な畏怖、心休まる時なんかなかっただろう大川の日常よりはましなのかもしれない。


 同年代の女を河野以外抱いた事のない俺だが、それでもこれが甘えてるって事ぐらいはわかる。こんな事できる相手は存在しなかったんだろう。いつも身だしなみを気にし、誰よりも強くてしっかりしていた女性の本物の姿ってのがこれなんだと思うと、俺はものすごく得をした気分になれた。




 やがて大川の手が離れ、笑顔になりながら再び俺と向かい合いのベッドに座った。


「いつもの顔に戻ったな」

「ありがと……」


 いつもの顔、いつもの柔道着で西洋風のベッドに腰掛け、セブンスが選んでくれた水色の上下をまとう俺と相対している。

 言うまでもなくこの世界製の安物であり、一応学ランの上下は携帯しているけど着る事はない。




「上田には感謝してるよ、ずっと付いてくからさ」

「ありがとう、頼みにしてるからな」

「私だって頼みにしてるんだから。ああそれから」

「それから?」

「毛皮コートは作ってくれるからいいけど、ハンカチとか水とか、それから食料やお金の守り方とか、ちゃんとしないとダメよ。どうせこれまで自分たちは強いんだしとか簡単に考えてたでしょ?ちゃんと分散するとか、それから寝ずの番を決めるとか。後で話し合わないと」

「そうだな、それがいつもの大川だな」



 そして、いつもの大川が帰って来た。


 俺に直接ああしろこうしろとは言わないが、常に自然かつ誠実に規律を守る大川が。三田川とかは笑ってたけど、後はほとんどみんな素直に従わせてたほどには強かった大川が。


「ったくもう、上田ったら案外面白いんだから」

「いや赤井だって市村だってそう言うぞ?」

「そう……かなぁ?」

「うん、そうだな」

「あーそうなんだぁ、私って……!」




 つい、笑ってしまう。やっぱり大川らしくもない高い笑い声で、そして大川らしい大きくて豪快な声だ。もちろん俺も同調し、そして同じように笑った。




「ちょっとユーイチさん!」

「ああセブンス!」

「セブンス、お前一体」

「ユーイチさんったら、何やってるんですか!ヒロミさんとそんなに楽しそうにおしゃべりしちゃって!」


 そこに、一緒に寝る予定であるセブンスが入って来た。俺の顔を見るなりあからさまにふくれっ面になり、そして腕組みをしながら俺たちを見下ろし出した。


「セブンス……」

「まあそれは、私より付き合いが長いからしょうがないですけど、でもですねえ!」

「すまなかった……少し弱ってたものでな……傷つけるような真似があったならば平身低頭するしかない」

「ああもうすみません、つい……」

 

 どこまでも親切丁寧な大川のせいで気持ちのやり場を失ったセブンスと大川が同時に頭を下げるのを、俺は黙って見守っている事しかできなかった。


 まったく正反対の女子二人に揃って頭を下げられるなんて、それこそファミレスにでも行った時以来だ。ましてや純粋な好意の感情によるそれとなると初めてだろう。




「まあこういう時は、だな……」

「そうか、それがいいな」


 俺は、この世界と俺たちの世界をつなぐ札を頼りにするのが精いっぱいだった。


 その五十三枚の札を適当に切り交ぜて配り、ババ抜きっつーもっとも簡単な遊びを大川共々セブンスに教えた。







「あの上田、ちょっと弱すぎない?」

「わざと、ですよね……」

「残念だけど真剣だよ、あーあまた負けた……アッハッハッハ……」


 俺は、数字も絵柄も俺らの知ってるそれとまったく同じである事に改めて感心し、その感心に関心を持って行かれてセブンスと大川の歓心を買い、そして五連敗した自分自身の下手さ加減に寒心した。




 まあしまいにはあまりにもダメすぎて自分自身に笑えちまったけどな……。

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