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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大商人ハンドレ

 三日後、ペルエ市のハンドレさんの屋敷に招待された俺たちは、上品な白い器に入った完熟茶(紅茶)を飲ませてもらった。


 この世界でもミルクティーってのはあるらしく、あまり好きではないけど懐かしくも異国情緒を感じるような味がした。




「まあ、商売をしていれば恨みを買うのは必然です。実際いくつもの店を吸い上げ、時には潰してここまでの財を築き上げたのです。ナナナカジノはそのための罪滅ぼしとしての遊興施設であり、また退職した皆様への慰労施設でもあったのですが……対立施設の存在を少し甘く見ていたのかもしれません……」

「やっぱりギャンブルは」

「おい大川、ギャンブルはお前が思ってるより敷居が高くないんだぞ」



 ハンドレさんは人のよさそうな顔にふさわしい態度で、深々と頭を下げてくれた。小太りで少しハゲてるけどむしろそれが愛嬌の良さを醸し出す感じで、モモミちゃんと並ぶとまさにいい親子って感じがする。

(こんな人間でも恨みを買うんだよな……)

 大人の世界の厳しさを知ったとか言う気もないが、俺のように血を浴びなくても誰かを踏みにじっているのかと思うとやるせなくなるのもまた事実だった。



「ミーサンは死体のまま引き取られ、犯罪者としてそれ相応の扱いを受けることになるでしょう。おそらく皆様のそれと十把ひとからげに……」

「ある意味最もむごい扱いでありますな……」



 俺たちが殺した多くの山賊と同じ、有象無象の犯罪者扱い。


 あんなに豪快な魔法を使い、あんなに多くの男を侍らせていた美女とは思えない冷遇……それも一種の罰なのかもしれねえ。


「でもお二人は、あなた方のご意思に従う事に致しますので、どうかご安心を」





 あの騒乱の後、残ったミーサンの協力者はただ二人。




「十年ほど犯罪奴隷として過ごすことになるだろう」

「そうか……」

「お前らとはもう二度と会えないだろうな。まあ最初から覚悟の上だったからな。お前らと酒を飲みたかったぜ」

「まあこの任務で相当な大金が入るからな、それでまた新しい剣を買い直すまではお別れだ」


 その内一人であるヘキトはエクセルによってシンミ王国に突き出されることになった。今回のミーサンの件は言うまでもなくとんでもない犯罪だが、それでもヘキト自身は誰も傷つけていない、そう俺たちが証言したせいでその処分で済むらしい。


 エクセルはこの護送任務でまた別に報酬を受け取ることになるらしいが、俺らもまた相当な額の報酬を受け取る事となった。



「皆様のお働きは、ギルドにもとくと伝えておきました。早速その件についての報酬が、私たちだけではなくギルドからも払われるようで、本当に素晴らしいお働きですね」





 ミーサンカジノから収めた現金の七割がハンドレさんの物となり六割がナナナカジノの復興費用に使われ、一割は俺たちの報酬になった。そして残りはシンミ王国とペルエ市に半分半分で入る。


 そのついでに冒険者ランクも上げられ、俺がYランクからWランクへと2ランク上げられ、赤井と市村はVランクになり、大川はXランク冒険者として登録された。



「金貨五十枚、しかも一人当たり……」

「見た事のない量のお金です!」


 五十枚。≒五百万円。ったく、父さんの年収の近くないか?

 さすがにセブンスはゼロだったとは言え俺ら四人とエクセルにそれぞれ払ったもんだから、都合五百万の五倍で二千五百万円、つまりミーサンは二億五千万円もの金を貯め込んでいたわけか……なんでそれで満足できなかったんだろうな?

 まあナナナカジノだけで金貨二千枚の金がかかっているらしいからこのハンドレさんって人が半端ない豪商なのはわかるけど、それこそそんだけあれば楽に暮らせただろうに……。









 そしてそれ以上に気になるのは、遠藤の事だ。



「あのエンドーって人はどこに行っちゃったの」

「私たちにもわからない……わかるのはとりあえず死んでないって事だけ……」

「そんなのやだよ!お父さん、あの怖い人絶対捕まえて!」




 遠藤幸太郎は、文字通りのおたずね者になっちまった。ミーサン一派の最後の生き残りとして、追われ続けるのかもしれない。

 捕まって処刑されるかもしれない。



「俺たちはあいつを救いたい。でもまだどうしたらいいかわからない」

「なんで!」

「遠藤はミーサンに利用されたんだ、悪い所ばかり教えられてね」

「私たちはしょせんこの世界では新米、と言うか赤ちゃんのような物。そこでいろいろと偏った情報ばかり教えられてしまった結果があれなのであります」

「そんな!」

「モモミ、赤井さんの言う通りだ。毎日同じことを言われればどうしても信じてしまう、それが一つの真理なんだ」

「でありますお兄ちゃん、つらいよ…………」

「私たちとてつらいのは同じであります……」

「いつか目を覚ます時が来ると俺は信じています」

「パラディンのお兄ちゃん……」



 魔物との戦いとかで死んじまうのならばまだいい。あまりにも不幸な行き違いのせいで犠牲を出すなんて、まったく無駄な犠牲じゃないか。


 モモミちゃんは赤井とハンドレさんの言葉に泣き、市村の言葉にまた泣いた。




「上田さん、今後は」

「とりあえず北へと向かいたいと思います」

「そうですか、ではこちらと、こちらを……」



 そんなハンドレさんは、俺たちに毛皮のコートを用立ててくれた。


 本当にありがたい。大川も断念するほどに寒いらしい北へと行くには、これぐらいの防備が必要不可欠なんだろう。赤井なんかは特に無邪気に感心していた、まあゲームじゃどんな場所でも同じ装備だけど、よく考えりゃおかしいもんな。



 そしてもう一つ、と言うかもう二つ。


「いいんですか!」

「皆様大変お気に入りのようで、長旅のおともに……」




 トランプカードだ。今回の騒動で多くのそれが失われたにも関わらず、まったくためらうことなく譲ってくれた。


「皆さんこれで遊ぶんですか」

「そうだな」

「また機会がありましたら、ナナナカジノへお越しください。もちろんすぐには無理ですけど」

「わかりましたであります!」

「了解です!」

「……ええ……」



 赤井やセブンスに比べ大川の反応は小さくて遅い。

 まあ気持ちはわかるよ、わかるけどな。



「遠藤は必ず、俺らが……何とかするからさ……」




 大川はこの話の間、ずっとうつむきっぱなしだった。

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