ミーサンとの戦い 後編
「剣と魔法は全然違うわよ!もういい、あんたの口を永遠に塞いでやる!!」
ミーサンは猫かぶりをやめたように言葉を荒くし、両手を俺に向けて次々に雷を放つ。
しかし、やはり当たらない。ことごとくすんでの所で俺をハブり、バリア魔法を張っている赤井たちの所へ飛んで行く。そしてエクセルにも、ヘキトにも。
「エクセルはともかく、ヘキトにまで当てるか?」
「あんたに当たらないのが悪いのよ!」
「魔法のせいかよ、言うに事欠くってこの事だな……」
「あなた、どうしてなの!」
「どうしても何も、こうなっちまってるんだからしょうがねえだろ!覚悟しろ!」
「ふざけないでよ……!もういい、あんただけでも殺す!!」
涙目になっていたミーサンが開いていた両手を握って開くと共にさっきまで鳴り響いていた雷の大半が止み、手元にまた大きな雷球ができた。
「ミーサンの必殺技をご覧なさい!」
「何のつもりだ!」
そしてミーサンはその雷球をぶつけるでも破裂させるでもなく、自分自身に叩き付ける。
ミーサンの黒いドレスが電気を帯びて妙な色の輝きを放ち、髪の毛も激しく逆立っている。
「フフフ……速度も力も、全てが全開……どんなにちょこまかと逃げ回ろうとも、結果は同じ……あなたが消し炭になるだけよ……」
「そういう発想を捨てろよ」
「今更戻りようなんかないじゃない……わかってないのね、何にも……そんなバカに負けるなんて、許せない、許せない、許せない!!」
「ああ…………」
これまで以上に余裕がなくなり無理心中でも図りそうなミーサン、本性剥き出しのミーサンは体も顔もとても醜く、そして恐ろしい。セクシーな大人の女性の姿などどこにもないこれに引きずられ、また信じて来たヘキトと遠藤にとっては何よりも気の毒なほどの変貌ぶりだった。
「ああっ遠藤!」
「誰、誰なの、私から抜き取ったのは!」
しかしここでいきなり、遠藤の姿が消えた。抑え込んでいた大川の体がじゅうたんに落ち、ガラスで指でも切ったかまた新しい血がじゅうたんに付く。
「エンドー君……まだまだ私の役に立てたのに……でもまあ、あんたさえ消せばそれでよし!!」
抱っこか鬼ごっこでもするかのように俺に突っ込むが、やはり俺はぼっちだった。
すさまじいまでの速さ、と言ってもバイクぐらいのそれで走りながら俺を捕まえようとするが、それでも全く俺に手は届かない。
「だーかーらー、なんでダメなの!!」
「殺そうとするからだろ……」
「答えになってないわよ!」
「俺だって他に言いようがないんだよ!」
ぼっちである事を悲しいと思った事はない。寂しいとも思った事もない。
それがもし今になってこうしていい意味でのブーメランになっているのならばラッキーだなとすら思える。とは言え勉強でも陸上でもまったく語り合えないのは単純に不便だった。
そんな星の下に生まれたのかと嘆くつもりもないが、実際どうやったらこうなれるのかわからない。親に聞いてもわからない。
「そんな攻撃、いつまで持つと思ってるんだよ!最後の切り札だか何だか知らないけど、そんな程度の速さは俺たちの世界じゃ日常なんだよ!」
「そんな…………!」
少し話を盛ったが、それでもミーサンは俺を捕まえられない。精神的打撃を受けたせいでもないだろうがきわどく手はすり抜け続け、魔力をますます浪費する。速度が落ち、顔がどんどん歪んで行く。
それでも、突っ立っているだけの俺を捕らえられない。逆立って上ばっかり向いてるからでもないだろうけど、髪の毛一本すら触れられない。きれいなはずの長髪、男たちをなびかせて来たはずなのに台無しだ。
その上に俺の告げた残酷な事実はさらにミーサンの心を責め、もうほとんど残ってないはずの魔力を自分に注ぎ込んでは俺を追う。
だがいくら速くなろうとも、俺を捕まえる事はできない。
そして五分後、ミーサンは血を吐き出しながら倒れ込んだ。俺に向かって必死に右手を伸ばし、最後の最後まで一撃をくわえようとしながら。
「あんた、一体、何者……」
「俺は上田裕一、ただの十五歳だよ」
「そんなわけ……ないでしょ…………ガハッ……どうして黒髪は誰も彼も……」
「おいミーサン!」
ヘキトはエクセルを押し込んでミーサンに駆け寄り、何とかして救ってやりたそうに俺を見上げる。
だが魔法を自分に使ってまで捨て身の攻撃をかけて来た以上、もう助からない事は火を見るよりも明らかだろう。何よりミーサン自身がその気だったんだから。
「ヘキト……」
「おいおい、彼女は助からないのか!」
「無理だろうな、元から俺と心中する気だったんだから」
「どうしてだよ!なんでそんな真似を!」
「許せなかった……ヘキト、あんたの言うように、強いくせに、遠慮ばっかり、する、姿が……」
「何が悪いんだよ…………」
人の事を考えて動く事、決して無理をしない事、ルールを守る事。それが人間として当たり前の事だってのは小学校でも習う。
「俺のようなぼっち男でさえも、決して無駄遣いせずしっかりと見極めるのが大事だって事は小学校、まあひとケタ年齢で習って覚えている。そうだろ?」
「だから、貪っていい分すら貪らない、それがいけない、んじゃないの……」
「貪っていい分?俺が貪ってるのは仲間ぐらいだよ」
「ハハハ…………みんな……バカばっかり…………!どうしてこうもみんな他人のために……あのバカ黒髪女…………許せ、な、い……あのみ……」
ミーサンは口からの血でドレスを赤く染めながら、必死になって潰そうとしたナナナカジノの床に倒れ込んだ。
まったく心臓の鼓動が感じられない。文字通り、力尽きた。
「ったく、きれいに死にやがって……」
「ずいぶんと苦しい顔をして死んだな……それにしても大川、そこまで恨まれていたのか?」
「いや私、ほとんどこのセブンスって子を守ってただけだし」
「とにかく、これで戦いは終わったようでありますな……」
俺たちが感慨にふける中セブンスはカジノの職員さんたちを呼び、死体やそのほかの片づけを始めている。
どこまでも働き者の彼女に引きずられるように、俺たちもカジノの片付けを始めた。