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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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遠藤幸太郎の剣

 ミーサンなるやけに黒々としたドレスを着た女と、真っ黒な鎧を着てやたらに黒光りする剣を持った遠藤幸太郎。




 ミーサンが余裕そうに手を振る中、遠藤は呼吸を荒くしながら俺たちをにらみつけている。


(大川、いい加減わかるだろ?どっちが恐ろしいかって。ミーサンってのはどんな力があるかはわからねえけど、普通の奴はあんな顔はできないぞ)


 血まみれのカジノの中で平然と笑顔を作りながら場を睥睨する女と、鼻を膨らませて今からでも殺せる人間がいないか探している顔をしている遠藤。


 答えは明白だ。





「あんたが親玉かよ、なんでこんな事したんだ?」

「さんざん聞いてるでしょ、私はただこんなオギョーギのよろしい場所をまっとうな場所にしてあげようと思っただけ。何べんも何べんも言ってるのに全然聞く耳持たないんだもん、もう嫌んなっちゃう」

「どんな営業をしようとここの勝手だろ!」

「ギャンブルなんて元々危険な物よ?私はそれを承知でやっている人間以外相手にしちゃダメだって思ってるの。だから、こんな恐ろしい場所はない方がいいのよ」




 自分勝手っつーか、上から目線っつーか、それともただただ醜いっつーか……。

 何とも形容のしようがない。一見正論に見えるけど、こんな状況でよくそんな事を言えるもんだ。ましてやそんな平然とした顔をして。


「ギャンブルをきっかけとして刃傷沙汰は起きるかもしれねえけどよ、これはただの刃傷沙汰じゃねえか!」

「ただの刃傷沙汰だと……?上田……お前は何も知らないのか?」



 先ほどまで殺気満々だった遠藤が、急に真顔になった。


「このカジノのオーナーはな、多くの商家を潰した大悪党であり、同時に多くの商家の主を自殺に追い込んだ殺戮者だ。その殺戮者の仇を討つ事は当然の行いだろう?お前も味方してくれよ」

「あのな…………」



 俺はヘキトを自分の剣の面でぶん殴り、あいつの剣を拾った。

 実に重い剣だ。


 いつもの剣の血をぬぐって鞘にしまい、ヘキトの剣を遠藤に向けて構える。




「見ればわかるだろ?まさに凶器って言うべきだこの剣は!」

「意味が分からないな」

「お前は今、お前の剣でその扉を斬ったな?」

「ああ」

「赤井が言ってたぞ、山賊もろとも剣を斬ったって」

「あれはだな、あれはか弱い存在を苦しめる奴だから斬った!弱者から搾取する奴だから斬った!お前らだって今!」


「これ以上昔話をしてる暇があるの?」




 ミーサンはいきなり干渉を図るように振っていた手のひらから何かを出し、俺にぶつけて来た。

 ヘキトの剣を持ちながら一応身を避けると、まだ残っていた連中がけいれんして倒れ出した。



「ったく……ダメよ避けたら」

「避けるに決まってるだろ!何なんだ今のは!」

「あれはおそらく雷魔法であります!」



 魔法、か。まったくファンタジー世界そのものだな。



 まあ赤井が回復魔法を使う光景なんぞ何べんも見て来た以上攻撃魔法もあるのは当たり前だし、市村や日下のように力を剣に含ませて斬りかかる攻撃があるのも既に知っている。

 だが魔法の「弾」って奴は見た事がなかった。




「あのさ、俺はいいけどお前はダメだなんて、そんな都合のいい理屈があるか?」

「お前は予想外にアホだな」

「アホとは何だ」

「こんなのはハンドレにとってはほんの道楽、と言うか多くの人間を堕落せしめる罠、ミーサンにとっては唯一無二の存在。どっちが強く、どっちが弱いかわかるだろ?」

「カジノの出来で勝負すればいいだろ!」

「俺はただギャンブルによって泣く子どもを増やしたくないだけだ!」

「だから暇潰ししてる場合じゃないでしょ」



 いつの間にか遠藤の後ろに回っていたミーサンは、俺に手のひらを向けまた雷魔法を放つ。

「今よ」


 遠藤と共に来るのかと思っていた俺はゆっくりと体をずらし、斜めから遠藤とミーサンを斬りに行こうとした。


 手のひらから電気の球が飛び出す。見極めたうえでよけて、遠藤の剣を叩き落して……



 となるはずだったのに、ミーサンの魔法は出入り口の方へと飛んだ。



「はあ!?」

「だから、子どもは黙ってなさいっての」



 狙いは完全にセブンスと大川だ!間に合わない事を察した俺は内心頭を下げながら遠藤に突っ込むが、遠藤はまるで相手にせず俺がいた方へと突進する。




「セブンス!大川!」


 ミーサンの魔法は二人に直撃した。

 セブンスは軽く胸を抑えただけだが、大川はまるで感電したように倒れ込んでいる。


「ヒロミさん!」

「セブンス!」



「今よ」

「何が今よだ!!」

「ったく、もうそろそろお休みした方がいいんじゃない?」

 

 斬りかかった俺をミーサンは軽くかわし、更なる一撃を撃つ体制を整えている。


「私は大丈夫ですから!」

「そうか……だが大川は大丈夫じゃなさそうだが……」



 セブンスは大丈夫そうだが、大川は実に苦しそうにしている。

 そりゃそうだ肉体的な刺激ならともかく感電だなんてなった事もないだろう、ましてや魔法だなんて、とか言う理屈とはまた違う、もっと大きな苦しみだ。



「まったく、子どもが出しゃばるとろくな事にならないの。与えられたことをまず着実にこなさなきゃダメなのよね」

「何を遠藤にさせる気だよ……!」

「あなたたちの説得、そして十人の孤児を作った男への制裁」




 これほどまでの蛮行をしておきながら、実に楽しそうに、あくまでも笑顔を崩す事もなく話してやがる。


 連中が中央に集まったせいで逃げおおせていた職員さん、いろいろ投げ付けてモモミちゃんを守ろうとしていた職員さんたちも震えている。



「ハンドレにそんなに思い入れがあるの?あんな悪徳商人に?」

「悪徳悪徳とか言うけどな、証拠はあんのかあんなインチキ孤児使いやがって」

「インチキ孤児だなんて、人聞きの悪い事を言っちゃダーメ」

「本物ならあんなに血を見て平然としてられねえよ!ましてや仲間も同然の身をな!」

「承知の上よ。生き残ったらたっぷり金貨あげる予定だったのに、予定がぶち壊しじゃないの。もう、おいたはダメよ」

「なんだよこのババア」

「人間誰だってババアになるわよ。ったくもう、いちいち可愛らしいんだから。

 お嬢ちゃんたちもさ、私の味方になればいいのに」

「私はユーイチさんの味方にしかなりません!」

「じゃあその子を説得してよ、ねえ」

「冗談ならよそで言ってください!」

「本当にかわいそうな子……」


 右手で魔法を構えながら左手でハートを作って飛ばしている。あるいは妖艶な仕草のはずなのに、全然魅力を感じない。


 そのあげくセブンスにまで言い寄り、セブンスからきっぱり拒絶されると大げさなほどに嘆いて見せる。まったく、異世界だとしてももう少し俺にもわかる言葉でしゃべってくれっての……。




「じゃあしょうがないわね……悪い子たち……」

 

 交渉決裂(交渉とは言わねえだろうけど)を悟ったミーサンは中央に向けて弱い電撃を投げつけ、ゆっくりと歩み寄って赤井と市村とエクセルに対峙していた遠藤の背中にぶつける。





「何を」

 する気だと言う間もなく、遠藤が急激に速度を上げて突っ込む。



「ああっ!」



 エクセルはあわてて剣を差し出して遠藤の剣に合わせたが、遠藤の剣はエクセルの剣を叩き斬り、モモミが隠れていたテーブルをも斬った。

 折ったんじゃない、叩き斬ったのだ。すっぱりと断面が見えそうなほどになったエクセルの剣の先端がテーブルに突き刺さり、再び泣き声が響き渡る。



「怖い、ヤダ、怖い、助けて!」

「恨むなよ、恨むならば父親を恨め!」

「遠藤、お前なんて事を!」

「やかましい!俺に指図するな!あのグベキを始めお前ひとりのためにいったい何人の子供を泣かして来たと思っている!」

「グベキとは、あの馬車に乗っている所を襲われた少女!」

「彼女は詐欺師であります!」

「詐欺師?そんなの知った事か!」



 とんでもない力をもって女の子を泣かせた遠藤はまるで手を休める様子もなく、彼女を守ろうとした三人に斬りかかる。


 何らかの魔法を使っていた赤井にその刃を振るい、赤井が逃げ出すとモモミを背負っていた市村を狙い、エクセルがやけくそのように倒れた奴の武器を奪い取ってぶつけるが自分の剣とまったく同じ展開で斬られてしまう。



「だから言ったじゃないの、つまらないおいたをするから一人の女の子が死んじゃうの。これに懲りたら」

「セブンス、大川を守れ!これを使っていいぞ!お前の剣だからな!」

「あのねえ、その子の剣を見てなかったの?まったく命を無駄にしちゃだめよ」


 俺はセブンスから譲ってくれた剣、セブンスのお父さんの剣をセブンスに渡し、ヘキトの剣を握って遠藤の所へ走った。

 何だかミーサンがつぶやいているが無視して、俺は市村を追う遠藤を追いかける。







「遠藤……!!」


 これは俺にしかできない事だ。ぼっちである俺にしか。あと、陸上部の意地と言う奴もある。

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