ヘキト再び
モモミちゃんの悲鳴が黒服男と言う名の山賊たちを呼び付けた。エクセルや市村も赤井に近づき、三人で山賊たちに挑んでいる。
「上田君は後方から敵を削ってくださいであります!」
だと言うのに俺はぼっち。いつも通りぼっち。
「お前たち、俺を何だと思っている!」
「ああうるせえなったくもう!」
後方からバーカウンターを攻めている連中を斬りまくるが、いくらやっても数が減らない。床には奴らが奪い取ったはずの代物が転がりまくり、邪魔くさいったらない。
「俺らはな、この身をおとしめたあの悪徳商人の娘さえ好き放題できりゃどうだっていいんだよ!」
「そんな風に好き勝手に一人を憎んでどうしようっつーんだ!」
「こんなおぼっちゃんにあいつらは殺されたのかよ、バカばっかだな!」
「バカはてめーらだろ!!」
俺が仮にぼっちだったとしても、俺はとりあえずセブンス、いや赤井や市村たちの事を仲間と思っている。こいつらは何なんだ!?
俺は怒りを込めて刃を振り回し、また多くの血を流す。その血はやっぱり俺をぼっちにしながら、ただじゅうたんや床、本当なら楽しい道具になるはずだったトランプをも染めて行く。
「何なんだよ!お前ら!なぜ一人の女の子にそこまでこだわる!」
「何なんだよとはこっちのセリフだ!あのお方がその小娘の親によってどれだけ不利益を被って来たか!お前らは一体いくらあの男に握らされたんだ!?」
「銅貨一枚もらってねえよ!」
「ったく、これだから黒髪どもは……!あの黒髪すら金を何とも思ってねえ!そのせいで計画も狂っちまった!」
「俺だって金貨五〇〇億枚寄越されれば考えねえでもねえよ!」
「おちょくりやがって!」
金貨五〇〇億枚、すなわち≒5000兆円。
国家予算なんてとっくのとうに超越したとんでもない大金。そんな金はたぶん、この世界全ての金を集めても足りないだろう。銀貨や銅貨ならばともかく、金貨はコボルド狩りの剣だけでは鋳造できないから金貨など見るのさえも難しい、それがセブンスから学んだこの世界の常識だった。
俺はその男を斬って赤井たちの負担を減らし、さらに囲みを削って行く。
市村の剣がうなり、死体が倒れ込む。エクセルは敵を斬りながらも負傷し、赤井により治療される。その赤井も堅そうな杖で黒服連中をなぎ倒す。
だいぶ包囲が薄くなってきた。
「久しぶりだなあ!お前ら、こいつはかなりの強者だ、俺が倒す!」
行けると思っていた所に、一人の男がやって来た。
「やはりいたのかよ……」
ヘキトだ。
真っ赤な肌に大きな剣、そして大きな声。酒飲みではあるけどそれ以外は特に何も悪くない男。
「あんたなぜまた」
「俺はな、単に酒と金が欲しいだけだよ!そしてお前らのようなお子ちゃまたちにわからせてやりたいだけだよ!」
「今の状況じゃお子ちゃまはあんただよ!」
ヘキトはこの前よりずっと真っ赤な顔をして俺に斬りかかって来た。口は大きく開き、うなり声と言うか叫び声を出しながら挑んで来る。
俺らがああして酒に乗って来ないだけでここまで不機嫌になれるのか、そう思うには十分なほどにヘキトは憤怒をたぎらせていた。
「若い奴が酒を飲むとな、消化しきれねえんだよ!それで体がやられて死んじまうんだよ!」
「屁理屈を述べるんじゃねえ!」
「屁だけ取り消せ!」
「この頭でっかち野郎が!」
この理屈を教えてくれたのは先生ではなく赤井だ。
赤井たちは酒のナントカってラノベで見たらしいその知識を振りかざしてはやたらに絡んで来るヘキトのようなアルハラ野郎どもから逃げていたらしい。
あのギルドが酒場を併設しているぐらいには、冒険者には酒飲みが多い。缶ジュースとかコーラとかがないのは仕方がないとしても、未成年にふさわしいそれがあまり持つとは思えない牛乳か、さもなければ早熟茶しかないのはぶっちゃけ痛い。
果物を絞ったエードはあったが、正直薄くてまずい。ジュースなんぞそれこそ銀貨一枚でも飲めるとは思えないような高級品だろう。
「ああこれだから黒髪どもは!」
「黒髪は関係ねえだろこの野郎!」
「大ありだ!あの黒髪男も酒を飲めっつったらビンごと叩き斬りやがったんだぜ!」
「酒瓶を割るならともかく叩き斬るとは何事だよ!」
俺はぼっチート異能任せに特攻してヘキトの右腕を斬り付け、大きな剣を叩き落した。ここぞとばかりに返す刀を繰り出そうとすると拳が飛んできて、わかっていてもつい避けてしまった。
それでも右足で剣を蹴飛ばして遠くへやる事には成功したが、それでもヘキトのやる気は収まってない。
「待って、その黒髪って!」
「出禁女はしゃべるんじゃねえ!」
「なんて口の利き方なの!こんな事をしたと知ったら泣く人だっているはずなのに!」
「そんなもんはとっくにあの世だよ!っつーかお前は人殺しをしたらみんな悲しむと思ってるのか!?それこそ想像力が足りねえんだよバーカ!」
冒険者、と言うか剣士なんてみんな人殺しだ。
武士道精神とか騎士道精神とか簡単に言うけど武士なんてそれこそ人殺しのために生きてるようなもんだし、今の俺だって他に飯を食う方法を知らない。
そして少なくともセブンスは、俺のやり方を支持している。いくらクラスメイトやエクセルからぼっちになっても、それだけは自信があった。ゴブリンを斬り殺した俺を、誰よりも必死になぐさめてくれたんだから。
「ヘキト、悪いけど俺の勝ちだ!これでも喰らえ!」
「このお子ちゃまめが!」
セブンスの熱い視線を感じながら、俺は突っ込む。
たとえそれが気のせいであろうがなかろうが知った事か!
もはや包囲もかなり薄くなっている。三人ともものすごい働きぶりだ。俺も負けてられるか!
だと言うのに、いきなりとんでもない音が割り込んで来た。
「うわーっ!!」
「何だぁ!?」
この場にいた大川とセブンス以外の人間の動きを止めた音は、たった一つの出入り口から鳴り響いた。
とんでもない斬撃の音。
そして、その斬撃によって破壊された物が、倒れ込む音。
そう、相当に堅い材質だったはずの門が一刀両断になっていた!
なぜだ……!?
いったいどれほどの力を込めればこんな……!
「どうもよろしく、お遊びの皆様」
その門を踏み越えてやって来たのは、すっぴんに慣れ切ったせいかやけにけばけばしく見えるむやみにスタイルのいい女。
そして、大きな剣を持った一人の男――――遠藤幸太郎!




