ナナナカジノの戦い
「あーあ簡単に引っかかっちゃった、クスクス……」
女の子は血まみれの馬車の前で無邪気に笑ってやがる。
まったく、完全にグルだった訳かよ……。
「って言うかおい、あれが仲間だとしてさ、十数人俺らに斬られたのに何とも思わないのかよ!」
「ぜーんぜん。グベキはね、ママとママの好きな人が元気ならばそれでいいんだもーん。まあお兄ちゃんたちを少しだけ元気にさせてあげるなら、この人たちはみーんな最初からこの事を覚悟してたからねー」
なんつー汚ねえやり方だよ……って構ってる場合じゃねえな。
「あっれー、逃げるの~?」
「仲間すら大事に出来ねえ奴は俺は大嫌いだよ!」
「べっつに~、それでもいいけど~」
とりあえずナナナカジノに向けて走り出した俺たちだが、うまい具合に釣り上げられ過ぎてかなりの距離ができてる。
その間にも次々にミーサンカジノから黒服男が飛びだし、ナナナカジノへと向かっている。そして一部は俺たちの方へと向かって来る。
「まったく!数を頼みの戦略でありますか!」
「悪い人はこうよ!」
大川が投げ飛ばし、赤井がハンマーで殴りかかり、必死に敵を減らす。だがそれでもまるで整然とした動きをやめる事はなく、たとえ武器を吹っ飛ばしても平気で殴りかかって来る。
「本当ならもう少したくさん来るはずだったのになー、出禁おねえちゃんのせいで台無しだよー」
「そんな理由かよ……!」
俺は馬車を通過し、ナナナカジノへと駆け込む。
ったく、大川がミーサンカジノから出禁になったのってそんな理由かよ……ああこの女の子、いやこのガキ本当にムカつく!
まあとにかくそんな調子でさっきよりよりたくさんの死体を作りながら、俺らはナナナカジノへと飛び込んだ。
「二人を治癒してくれ!」
「わかりましたであります!」
「それからこの門を閉めてくれ!」
カジノの門番である二人組、殴打されて気を失っていた二人を赤井に回復させ、俺たちは突っ込んだ。
まだこんな時間なので客はいないが、それでもひどく荒らされている。トランプやスロットマシーンなどの商材は次々に持ち出され、抵抗しようとすれば蹴倒される。
もっとも出入り口なんぞここ一つしかないはずだからそう簡単に逃げられる物でもなく、ここさえ凌げば逃げ場なんぞない。
「とは言え放置はできたもんじゃないな……」
「上田君は控えてくださいであります!私たちで行くであります!」
「おい待て赤井!なぜそうなる!」
赤井は俺を制するが、俺だって泥棒と言うより強盗のような連中をほっとけない。ましてや目の前にいるカジノの職員には何の罪もない。何の罪もない奴を傷つける連中を成敗して一体何が悪い?ほら、エクセルだって市村だってやってるじゃないか!
「ああまったく……大川さん、わかりますでありますな!」
「いや、私はまだ、上田君の方が覚悟ができているし……って言うか赤井って本当やる気あり過ぎ!」
「んな事言ってる場合か!ほらわかっただろ赤井、俺が行く!」
大川だって運動部のはずなのに足が重い。かろうじて中に飛び込んだ後はそれこそ門番は私が引き受けましたからと言わんばかりに一歩も動けなくなっている。そんな人間をこんな場所に放り込めるか?
「オオカワさん!」
「で、でもその、私は、えっと……」
セブンスから迫られても、まったくいつもの大川が帰ってくる事はない。
大川はたぶん、赤井の顔なんぞ見ちゃいない。どこまでも切羽詰まった顔をして、すでに突っ込んでいる市村やエクセルのサポートに回っている。俺だって見てないけど、それぐらい丸わかりのはずだ。
(っつーか赤井がこれを楽しんでると思うほどに病んでると思われてるとはな……大川、お前は普段何を見て来たんだ?)
普段冴えない奴が別世界で大暴れする、そんなお話は米野崎が大好きだった。
米野崎も赤井の女友達の一人で、情報の仕入れ先でもある。もちろん神林もそういうアニメに出るために詳しくなっている。お互いさまと言うか、実に健全な仲良しこよしじゃないだろうか。
俺にはそんな関係はない。クラスは無論、陸上部でさえも柴原コーチと河野以外はみんな俺をスルーする。陸上大会に出た時でさえも、俺と話す人間はほとんどいない。
悲しいとか悔しいとかは思えないけど、それでもいい加減おかしいとは思う。
「お前な、お前は赤井の友だちが気に入らねえのか?」
「そんな事は、私はただその、もっと重要な事が」
「ああそうかい!ただの乱暴女!」
柔道っつーのは、それこそ体と技だけじゃなく心も鍛えるもんじゃねえのか?だってのにいざって時に震えまくり、他に重要な事がと赤井たちの趣味をないがしろにする。
そんな人間には付き合い切れなかった。
「上田君!」
「赤井は援護を頼む!」
俺はミーサンカジノの連中へ向けて突撃、剣を振ってやった。
懐から取り出したらしい得物だけでなく手足、あるいはガラスのコップやトランプカードなどあらゆるものが俺に向かって飛んで来る。
俺は俺のぼっチート異能を信じ、構わず突っ込む。そして四人の男を斬り、中央のバーカウンターの所までやって来た。
その一角では二人の男がいて、二人とも酒瓶を派手に開けて顔を赤らめている。めちゃくちゃ凶悪そうな面だ。
「だいたいなんでこんなことするんだ!」
「俺らはよ、ただただ甘ったるいやり方が気に入らねえんだよ!ミーサンカジノの素晴らしいやり方を教えてあげようっつーのに聞く耳持たねえんだもん、しゃあねえだろ!」
「俺はギャグを聞きに来たんじゃねえっつーの!」
「お前は騙されてるんだよ、あのハンドレって奴はうちの親父の店を潰し殺したも同然の悪徳商人だ!子がその復讐をして一体何が悪い?」
「ハンドレだって家族がいるんだよ、その家族からまた逆襲でもされたらそれこそ無限ループじゃねえか!不毛だろ!」
もめ事なんぞ、よほどうまくまとまらなければ結局はどっちかが泣き寝入りをするしかねえ。
俺とデーンだって、デーンが毎回やられる形で戦いは終わっていた。デーンはそれこそ毎回泣き寝入りしていた訳だ。すぐ親父やニツーさんやエクセルにすがっていたとは言え、少なくとも自分一人ではどうしても解決できない問題だったことには変わりねえ。
「お前に俺の気持ちがわかるかよ!」
「定番のフレーズでごまかすんじゃねえよ!」
俺は自称仇討ち中の男に斬りかかった。俺に向けて斬り上げれたそいつの剣はやはり俺を仲間はずれにし、そして振り切られる前に主の死を見届けた。
「キャーッ!!」
そして元から真っ赤だったじゅうたんを赤く染めながら倒れると同時に、甲高い叫び声がカジノに鳴り響いた。
あれ、この声……
「おっ、ここにいたか!」
ってなんで敵が集まって来るんだよ、おいどうした!?
「上田君!なぜそんな事を!」
「…………!」
赤井に怒鳴られてハッとなった。
この声、聞き覚えのある声……。
ああ、モモミちゃんじゃねえか!
なぜここに来てるのかはさておき、ハンドレさんの娘と言う最高級のVIP!
そのVIP様を守るように、赤井自らがセブンスと大川を置き去りにして突っ込んで来た。
俺も負けじとモモミちゃんの側で剣を構えようとすると、赤井に突き飛ばされた。
「上田君はダメであります!!」
「おい赤井……!」
「上田君の力は、あまりにも危険すぎるのであります!」