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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
最終章 サヨナラ、ヒトカズ大陸!
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最後の一日

これにて本編完結。……いや、まだ後日談その他がありますけどね。

 最後の晩餐ならぬ宴会から一日後。




 十九人と三人と他数名は、シンミ王国の神殿を目指して歩き出した。




「ユーイチさん、どこまでも一緒に!」

「大丈夫かな、どうなってるのか……」

「父さん、母さん、覚えててくれるかな……」

「いよいよか……」




 ワクワクしたり、ドキドキしたり、思いを馳せたり。




「………………………………」




 ……無言で体を引きずったり、




「よっぽど裏切られるとは思ってなかったんだろうな」


 河野速美は笑いも泣きもせず、ただひたすら前を目指している。

 自分が作ったはずの神殿へと、体を引きずっている。


「いいよな上田は」

「そうか、そう思われてるのか」

「だって彼女付きだろ?しかも二人、いや三人+一人」


 その+一人ことオユキはずいぶんと陽気そうにステップを刻んでいる。


「本当にお別れだけどいいのか」

「いいの。どうせなら最後の最後まで、さいごうのお見送りをしたくってね」

「この、ギャグともお別れ、か……ハハハハハハ……」

「大丈夫だ、いっぱい聞けるから」


 見送りに来てくれるだなんて、本当にありがたいよ。で、このギャグもいつか名残惜しくなるんだろうか。


「でもさ。本当に行くのか」

「もちろんだ。いろいろ、大きな世界が待っているのだ、わざわざ引っ込んでいる理由もあるまい」

「本当に強いな」


 昨晩になってもなお聞いてしまった俺に向かって、トロベは力強く首を縦に振る。

 笑顔なのはダジャレのせいだと思いたくないけど。


「お前も案外心配性だな。昨晩、自分たちなりに納得したんだろ」

「それはそうだけどな」

「だったら覚悟を決めるしかないだろう」


 市村は最後の最後までイケメンだし、本当にかなわないよな。







※※※※※※※※※

 宴会が終わった後、俺達二十人とセブンスとオユキとトロベ、計二十三人で最後の挨拶と会議を行った。


「改めてありがとう」



 まず田口はこの世界に残る。って言うか、元々いた世界に帰る。


「今後はどうするのでありますか?」

「しばらくは二人の兄上と共にこの世界を再び学ぶことになる。まあ中途半端だけど知識もあるしね、少しでも貢献したいよ」

「あの執政官様だからな、本当学ぶ事なんか山ほどあるからな」


 とりあえず俺はもう、この世界については何の心配もしていない。


 あのジムナール執政官様がいれば、それこそカミサマよりカミサマらしい政治をしてくれそうだ。

 正式に四代目魔王として旧魔王領を継いだフーカンもあの執政官様に事実上服従してるから、魔王軍が必要以上の出兵をする事もない。って言うかできない。


「楽しかったよ。できればもう少し仲良くしたかったけど」

「ったく、ずりいよ。本当に」

「辺士名。もし王子様だと聞いてたらどうした?」

「…………鼻で笑ってたな」

「そんなもんだよ、ったく本当に残念だよな……」


 こっちの世界まで来ねえだろってのが妄想じゃねえ以上、気を配らなきゃいけなかったんだろうな。


 気持ちも理屈も嫌ってほどわかるけど、ったく本当もったいない。

 俺を含め、まだまだいろいろ話せただろうに。


「思い出を作り損ねたのはお前もだろ、上田。

 俺は中学時代から演劇部で、あっちこっち老人ホームや幼稚園などを回り、いろんな人と出会って来た。

 笑ってくれた事もあればつまらないと言われた事もあったし、拍手してくれたこともあれば欠伸された事もあった。また来て欲しいって言われる事もあった」

「お前劇団にでもいたのか」

「いや別にボランティアだけど、それでもいろんな人と出会って来た。脚本を読むのも演技合わせもだよ」


 ほんの小さな、確実な事実。いや現実。

 その現実だけで、一人の少女は泣き崩れそうになっていた。

「ねえねえ、帰ったら仲よく遊ぼうよ、何がいい?ねえ教えて教えてー!」

 その少女の肩を抱き、ものすごく無邪気にはしゃぐ少女。


 この二人がどういう存在か、それもまた、俺達の秘密になった。



 そしてセブンスとトロベは、正式に俺たちの世界に来る事になった。

「いろいろ不慣れな事もある、って言うか不慣れな事しかないだろう」

「それもまた戦いの一つだ」

「私はユーイチさんがいる所ならばどこへでも行きます!」


 二人それぞれ、熱い決意を述べてくれた。

 三人の女をはべらせていた赤井も感心しきりに首を縦に振る。


 って言うかいつの間にか日下は市村の側にいたんだ?

 まあ前田が細川と一緒なのはわかるけど。市村と日下って……


「まあね、旅をして来て正直疲れちゃったって言うか、市村みたいな頼れる人がいてくれればって」

「あー何それどういう意味―」

「神林さんと木村さんがマイペース過ぎて、それで畳み掛けるようにその方向に進んで、これからも似たような気持ちになると思うと」

「ったく、日下も本当苦労性って言うかMだよね。社畜にならないでよ、市村もちゃんとしてあげてよ」


 ……で、その木村も持山と何か肩寄せ合っていい感じになってるし。何でも復興作業中にお互いの身の上や苦労話をしてる間にそうなったとか。


「本当、何がきっかけで動くのかわからないよね。世の中って。

 でもだから面白いんだってわかったの」


 倫子の言う通りだ。

 頭の横の耳を軽く撫でる彼女の受けていた仕打ちの影は、もうなくなっている。

 あまりにも理不尽な運命を強いられた彼女が幾度その運命を恨み、あるいは嘆いたかわからない。

 でもそれを乗り越えた彼女の今の顔を見ると、嫉妬とか羨望とか言うずいぶんな感情が沸いてくるから人間ってのは本当に訳が分からない。



 で、その言葉を聞きながら完熟、いや紅茶を飲む二人の顔は対照的だった。

 片や俺をなぐさめるかのように、片や俺にすがるように。


「セブンス」

「大丈夫です、私はユーイチさんの味方ですから」


 すぐさま俺が選択すると共に、もう一人の女性は完熟茶を飲み干した。


 紅茶ではなく、完熟茶を。







※※※※※※※※※




 王様の力により開いた宮殿。


 かつて俺とセブンスにAランク冒険者とBランク冒険者の栄誉が与えられた部屋の、二つ手前。


 二十人以上入っても狭くない大広間。



「かつてボクがワフーとザベリと共にヨコハマへと逃げたのがここだ」




 ムーシが十年前、逃げ延びた場所。




「できるのですか?」

「この前と違って開いている、問題なかろう」

「開いて?誰かが閉じていたって言うんですか?」

「ああ、強大な力により閉じられていた。その力も及ばぬからこそ、あの部屋にてウエダ殿とセブンス殿に力を与えたのだ」

「やはり三ヶ月ほど前からですか」


 三ヶ月前と言われて少し眉を上げた王様だったが、やっぱりそういう事だったんだろう。


 まったく、どこまでも拘束する気だったんだろうか……。




 だが、その拘束もまた、終わりだ。




 そして、冒険からも。




「とにかく、お願いいたします!」

「わかった、さらば、英雄たちよ……」

「キミたちと一緒で本当に良かったよ!」

「みんな、ありがとー!」







 ムーシ、いや田口の声も、オユキの声も遠くなる。










 そして、意識も遠くなる。







 ぼやけた頭の中に、ヒトカズ大陸で出会った人たちが次々と入り込む。







 ミルミル村のあのガキ大将と村長の親子。




 ペルエ市の商人のお二人。


 最初の人間の敵だったミーサン。


 クチカケ村の皆さん。


 エスタの町の親分さん。


 シギョナツのおばあさん。


 サンタンセンのミワさんとイトウさん。


 キミカ王国にて米野崎の師匠となった魔導士とお姫様の非業な伝説。


 ノーヒン市でのホテルの夜景。


 ブエド村の女の子と戦い。


 北ロッド国の血生臭く悲しいエクセルとの思い出。




 そして、あの神と出会ったジムナール執政官様。




 すべての思い出が浮かんでは入り込み、その度にまた少し意識が遠くなる。


 振り向いたり手をつないだりしようにも体は動かず、まるですべてが夢のように思えてくる。







 そして。





















「あー、こんな時間か……」


 十月二十五日。


 時計の針は五時になっている。

 なぜか懐かしく、見慣れない時計。


 そして、学ランのまま俺はベッドで横になっていた。


 体を起こし、部屋を見渡す。




 何もかも、変わっていない。


 いつもの俺の部屋。




 すべては夢だったのか?




 俺が見ていた夢だったのか?




 スマホが鳴った。


 えっと、どうやって使うんだったっけ。


 俺は頭を必死に巡らせながら画面を押し、通話であることを確認する。




 いったい誰からだろう。




「もしもし!」







「ああユーイチさん!」







 紛れもない、あの声だった。







「セブンス!」







 何よりの現実の証明。







 変化の証明が、そこにあった。







「ユーイチさん!」

「セブンス!」


 俺はスマートフォンを放さないまま、お互いの名前を、呼び合った…………。

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