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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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俺にとっての女神は!

「裕一!来てくれたのね!」

「なんだニセ女神」

「俺が今さっき、何をやったかわかってるのか」

「予行演習」



 俺にここまで袋叩きにされたのを見てなお、こんな対応しかできないんだろうか。







 本当、同じ高さに立ってなお、同じ高さに立てないよな……。







「俺はさっきからすごく痛い思いをしてるんだ。まったくお前のせいで。これまで自分が何をやったかわかってるのか」

「は?」

「は?じゃねえだろ、お前の耳は何のために付いてるんだ!」

「それは裕一の全てを聞くため」

「俺はお前を許さねえって言ってるんだよ!セブンスの力を借りてお前をぶち殺しに来てるんだよ!」

「まったく、何よその乱暴な言葉遣いは!めーよ、めー!!」


 現在進行形で何千本単位の剣が自分の体をかすめているのに、まったく自分が支配者である事をあきらめていない。


 視界を分身に移り、苦痛を浮かべながらもにやつくあいつの姿を視認しちまった俺は、激しく胸焼けした。


「誰がお前のやり方でなびくか!そんな事もわからねえならお前はホンモノのニセモノだよ!

「私の裕一をこんなにしたのは誰なの!そいつら全部、全部殺してやる!!」

「自分で殺すとか言うなって言っといて何様のつもりだ!やれ、やれ、やってしまえ!」

「私は!ただぁ!」


 小さな氷の弾が俺の分身を狙う。

 体中の体温が奪われたような感触を覚え、体の熱を奪うどころか増幅して行く。



「この世界のぉ!全てがぁ!お前を!拒んでるんだよ!」

「別にいいわよ!裕一が一緒なら!」

「俺だってこの世界の一部だ!この世界を傷付けるんなら死んじまえ!」

「私は死なない!裕一と一緒にいられるまで!」



 今度は体がしびれた気がする。おそらく、俺に電撃魔法を叩き込んだのだろう。



 言葉も武器も、通じる気配もない。

 あくまでも俺との逢瀬を求め、それを邪魔する物はすべてゴミクズ扱いなのだろう。そのゴミクズの攻撃も罵詈雑言も、雑音でありごまめの歯ぎしり。取るに足らない愚民の声。




「河野……!河野ォォォ!!」

「ほらほら落ち着いて!カッカしてると体に悪いわよ!」

「お前が笑っているよりは体にいいよ!もう許さねえ!セブンスの魔法の力を見せてやるよ!」




 その愚民たちの中で、最も許しがたき存在。







 それが、セブンス。







 彼女さえいなければ。







 彼女がいなければすぐさま、結ばれるはずだったのに。







「うううううう……」




 わかりやすく河野の顔が歪む。痛みと違った要因が、河野速美をバケモノにする。


「……そんなに、彼女がいいのね?」

「ああ!」

「……私じゃなくて、セブンスとやらがいいのね?」

「ああ!」




 恥ずかしさも何もない二人の高校生の言葉が、世界に広がる。







 そしてこの瞬間、勝負は決まった。







「ユゥゥゥゥゥイチィィィィィィッ!!」







 河野が、爆発した。




 いや、自爆した。







 自らの体を爆発させ、その魔力で全てを吹き飛ばそうとした。













「バーカ!」







 だが、俺から出たのはそんな言葉だけ。

 だって、実際にバカなんだからしょうがないだろう。







 何せ、被害なんてほとんどなかったんだから。


 あまりにも高い所にいすぎたせいで地上への打撃はないし、空中にいた俺達にはぼっチート異能のせいで打撃は通らない。




「雲を消してどうしたいんだよバーカ」




 結果、俺と俺と俺をハブった爆風はとんでもない熱を込めた突風になって舞い上がり、雲を全て吹き飛ばして消滅した。




 そして。


「雨だな。どうって事のない、雨だな」


 雲のない天気雨である事以外、特別でも何でもない雨。降水量で言えば一時間に四ミリぐらいの、ちょっと強い程度の雨。







「今のお前の影響力ってこのレベルなんだよ」







 捨て身で挑みかかった所で、こんなちょっと強い雨を降らせるだけ。




「何よ、何なのよ、どうして、どうして!」

「セブンスの魔法だよ。あいつは残っている力を使って、俺に究極の魔法をかけたんだ」

「やっぱり、あの女のォ!あの女のォォォォォォォォォォ!!」



 セブンスへの怒りをたぎらせ、再び魔法弾を放ちまくる。



 だが、ひとつとして有効弾はない。




 当たり前だ。上や横ばかりに飛ばしてるんだから。

 これまでは正しくセブンスがいた方向に飛ばしているのだから当たっているはずだったのだが、飛びもしていないセブンスを殺すのに上や横ばかり狙ってどうにもなりはしない。


 しかも言うまでもなく攻撃は一発も当たらず、その間に俺たちによる攻撃が飛ぶ。



 チクチク、チクチク。


 カスカス、カスカス。



 もう振る事などせずただ刃を押し当てているだけだが、微細な傷の積み重ねが確実に河野の肉体を蝕む。

 そしてその虚像に向けて、放たれる河野の攻撃が当たる事は、ひとつとしてない。



「ヘイト・マジックってものすごいよな」




 これまでも何度も何度も、俺たちに勝利をもたらした必殺コンボ。







 ヘイト・マジック+ぼっチート異能。






 それがここでもまた、同じように機能しただけ。










 ただ、ヘイト・マジックのパワーがこれまでと桁違いなだけ。




「憎しみから逃げる事は出来ない…………絶対に!」

「私は裕一を憎んでるはずがない!私は裕一を愛してる!」

「じゃあこの展開は何なんだ!」




 ヘイト・マジック。




 対象に敵意を持つ存在への攻撃意欲を刺激する魔法。


 それこそ非人道的な、人身御供を作るような魔法であり、まともならとても使えないような魔法だった。

 でも、俺になら使えた。奇跡みたいなお話が、現実に起きたのだ。




「お前の俺への感情ってのはどういうもんなのか、改めてハッキリわかったよ!」

「そんな事は!」

「いや、お前は俺を憎んでる!少なくとも、思い通りにならない事を憎んでいる!」

「私はあなたを愛してる!だからこそ!私は!あなたを!素晴らしい人に!優しい人に!」

「黙れよ変態!現実に目を向けろ!」




 愛しているはずの俺の剣になぶられ続ける。

 ヘイト・マジックの力により愛しているはずの俺に向けて攻撃を放ってしまう。

 そして全てが空砲になっている。雨上がりの空にビームや炎が舞っては消え、舞っては消えを繰り返す。

 その前からセブンスを狙っていたはずの攻撃が俺に命中して本物の俺に痛みを与えている。

 俺の大事なセブンスを傷付けようとしている。




「列挙できるんだよ、いくらでも!お前の罪は!罰は!そんなもんを受けておきながらそんな顔ができるなんてお前は頭がおかしいんだよ!」

「私は確かにおかしいかもしれない!でもそれは裕一のため!私は裕一のためならいくらでもおかしくなれる!」

「じゃあセブンス以下全ての存在に対する敵対行為をやめさせる!」


 やめろとはもう言わない。

 話しても無駄だから。







「本当、何も変わってないよね」


 そんな修羅場にやって来た、一人の男性の悠長な声。


「総司令官様……」

「フフフ、素晴らしい働きだよ、ウエダユーイチ、セブンス、そしてムーシ」

「ありがとうございます!」

「でさ、何やってるんだよ一体………………」


 で、おそらくはアルカイックスマイルを浮かべながらそんな事をポツリと言うもんだから本当に侮れない。

 ったく魔力だか何だか知らないけど声が聞こえるのも怖いが、総司令官様の方がもっと怖い。


「私はぁ!裕一に!二度とぉ!」

「自意識過剰だよ。そんな事をやってるから大事な男から嫌われちゃうんじゃないか」

「まったくでありますな」

「キミらに言ってるんだよ……!」


 そんでその矛先が急に自分に向くもんだから、いつの間にかついて来てた赤井たちも背筋を伸ばしてキョロキョロしてた。


「あの……」

「あの二人を勝たせるために何ができるか?考えてみろよ」

「えーっと…………」

「………………が、頑張れ上田君!」

「そうだそうだ!やって見せろ!頑張れ!ウエダユーイチ!」

 

 そして、総司令官様の突然のご質問に動揺しながらも絞り出された倫子の声と共に、場は一気に温まった。




「世界のため!」


「上田君!お願いいたしますであります!」


「あともう少し!」


「みんなで笑おうよ!」


「頑張って!」


「ウエダ殿!世界を頼むぞ!」


「英雄の力を世界に見せてくれ!」


「頼みますぞ!」


「あなたに命運はかかっている!」


「それはみんな同じ!」







 合唱が始まった。

 本当に気持ちのいい、気合の入る言葉。


 そして、ある意味一番残酷な言葉。




「これが全てなんだよ!」




 この場にいる全員が、俺とセブンスの味方をしている。




 本来、誰よりも祝福されるべき女神より。




「裕一……!」

「お前の味方などもう一人もいない!そんなお前にいったい何ができる!」

「うう、ううう……!」


 だが腹立たしいことに、ここまでやってもまだ心は折れていない。



 泣き声じゃなく、うめき声。


 歯を食いしばり、悔しさに耐える声。



 元から折れるとは思っていなかったが、それにしてもどれだけ分厚い信仰だよ。



「俺はみんなの声に応え、お前を殺す!」

「百万人で唱えようが一人で呟こうが金は金であり銅は銅である!」

「お前の言葉は銅ですらねえよ!」


 その信仰を支えるべき聖書の言葉が、やたらさびしく響き渡る。



 もう全身ボロボロ、ローブもひどい有様だというのに、何が女神だか。


「聖書だなんて別の権威にすがるのかよ、女神様が!」

「私は!私はぁ!」

「もういい!セブンス!」

「はい!」




 田口のチート異能を受けたセブンスの魔力が高まり、一気に俺たちが隊列を整える。







「覚悟しろ!」







 セブンスの魔法による俺たちの、全方位攻撃をもっての攻撃。







 いや、圧殺。




「ちょ、っと……!」

「俺に囲まれて死ぬんなら本望だろ」


 剣なんかもう振らない。その価値もない。


 文字通りの肉弾戦。


 鎧と肉壁で押し潰す。



「えぐいねずいぶんと」

「そんな感情しかないって事ですよ!」


 考えてみれば一番簡単に数の力を生かせる攻撃だった。

 そりゃ河野速美って存在に対する思い出がなかったって言ったら大ウソつきだよ。


 いろんな風に遊んだり、家族で旅行行ったり、同じ学校に通ったり。


 でもそれらが虚像だってわかった今、もう未練などありゃしない。



「そのついでに剣が身体に迫って来るんからね、しかもまともに反撃も出来ないほどにすきまなく詰められて」

「どんなに硬くても当たれば痛いですし、折れたら折れたでとげとげの金属片が来ますよ。十二分に痛いです」


 いっその事金属と肉体に押し潰されて肉片にでもなってくれれば逆に哀れみも起きなくなるのにとか言う俺の考えが誰にも伝わっていない事を少しだけ祈りながら、俺は俺の塊をじっと見つめる。


「あがっ…痛い……刺さる…!このお…ええい!!」


 断末魔が響き渡る。


 本物でもまがい物でも構いやしないけど、とにかくこれが最期だと思うと正直名残惜しい。


 俺達の、いやこの世界を支配した気分になっていた存在の。




(生まれ変わったら、もう少し他人の事を…………って……)




 まあ、そんなセンチメンタルな気分にさせてくれるようなタマかって言うと別問題だけどな。




 なんだよどうしたんだよ、そんなにも俺達に潰されかかってなお……!







「自爆攻撃!?」




 自爆だって!?また同じ攻撃を!しかもスキマもないのに!

 って言うかまだそんな力があったのかよ!


「それでどうする気だ!」

「お、あ、い……」

「舌もまともに動かねえのにこれ以上何の……!」




「下へ逃げろ!」

「えっ!?」

「下だ、下!!」




 だがそれでも、悪あがきだと言わんとした所に割り込む総司令官様の言葉に応えてとりあえず急降下。




 そしてゆっくりと接地せんとした俺だったが、急にのどの奥底と心臓が締め付けられた。







「あ゛あ゛あ゛あ゛、ああ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛……」







 耐えがたいほどの痛みが全身、取り分け体の前面に走る。地に倒れ伏し、痛む腹や顔、膝を大地に守ってもらいたくなる。




「大丈夫です!現実の痛みはありません!」

「そうか、だが、だが、って…………!」




 痛みをごまかすため冷えた床に身を横たえ、首だけを上げながら見た物。





「ハア……ハア……ハア……ハア……あは、あはははははは……」







 それは、かなり打撃を受けながらも笑う女。







 俺の分身を9割以上吹き飛ばし、虚空の中にたたずむ女。







「まだ生きてるのかよ!」

「裕一…………あなたは、私の物。まだ、わからないの……?」


 まずい、おそらくはセブンスの魔力ももう先が見えている。田口の力があったとしても……!くそ、石床が冷たいぜ……!




「大丈夫です!」

「セブンス!」

「勝つ道は他にありません!これが本当に、最後の最後です!!」




 セブンスは全てを振り絞るかのように、地面に手を付けながら魔力を叩き込んだ。




「わかった……!俺はあきらめない!」

「ありがとうございます!でしたら!彼女たちと共に……!!」


 俺は再び、立ち上がった。







 そして、飛んだ!







 七人のセブンスと共に!!

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