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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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魔物の涙

 俺は男の手をつなぎながら、階段を上る。




「お兄様は本当に優しいな」

「そうだね……」




 ムーシ、いや田口はトロベ達に囲まれながら、一歩一歩玉座改め屋上に向かっている。




「大丈夫、あたしたちが守るから!」

「イチムラ殿やアカイ殿を出すわけにも行くまいからな!」

「あなたたちを信じます」


 ムーシの手が温かくなる。本当に、すごくあったかい手だ。

 家族以外でこんなあったかい手を握ったのは、それこそ初めてに近い体験だ。



「試合後も握手とかなかったの?」

「なかったな。今思えばそこから関係が膨らんで離れて行くのを恐れたのかもしれねえけど」

「なにそれ本物の化け物じゃん」



 それが本当に河野の力だったのかどうかはどうでもいい。

 とにかく今はあの恐ろしい魔王だか女神もどきを止めなければならない。



「でもその前に一つ聞きたいんだけど、田口は河野をどう思ってたの」

「ボクは彼女をずっと警戒していたんだよ」

「わかってたのか、やっぱり」

「具体的にわかってはいなかったけどね」


 ヒトカズ大陸のムーシ王子、いや河野速美のクラスメイトである田口は河野の印象を素直に語ってくれている。


「彼女は自分がやっている事は常に正しいと思っていた。それは三田川も同じだったけど、彼女は動揺がなく頭から信じ込んでいた。三田川みたいに怒ったりせず、じっと、じっと、いずれは自分が勝つって確信して待っていた」

「そのために努力もしていたんだろうけど、誰も諫める奴はいなかったの?」

「現に上田君だけでなく三田川の人生も壊し、今もこうして破壊に勤しめている事を思えば誰もいないと考えるのが自然だろう」


 河野の両親はごく普通の人で、そしておばあちゃんも特に何か目立った事がある訳でもない人。そんな人がこんな存在を押しとどめようなどできるはすもないだろうし、ましてや言っても耳を貸しそうにないしな。


「ボクはみんなの世界でいろんなことを学んだ。例えば、神様が一人だけじゃない世界を。彼女だって同じ場所にいたはずなのに」

「さっきの通り河野にして見ればすべては裕一との出会いの場だったかもね。裕一が自分に振り向いてくるのをずーっと待ってて、その間は悪い虫を叩き落としてるだけの生活だったのかもね」




 ルートを全部潰せば「正解」にたどりつくだろうなんて乱暴な考えがあるかって言いたいけど、完全にその気だったんだろうな。

 でもそのやり方がダメなのは、俺がここに来てなおそのままと言うか余計に河野から離れたってだけでも証明はできるだろう。俺はミルミル村に来てからシギョナツに着くまで、河野の存在をほとんど気にかけなかった。元気そうにやっていた所で、赤井や市村と同じだとしか思わなかった。あるいはそんな風にいくらやっても動かない俺にじれて……とかはさておき、そんな考え方を通すわけには行かない。







「戻って来てくれたのね!」




 で、その張本人と来たらまあ能天気極まるこった!


「俺がいつから白馬の王子様だと思ってた」

「十年前からよ」

「………………………………」




 本当にウソのない満面の笑みだよ、寒風吹きすさぶ中でよ!

 ったく人の言葉を奪っといてなんでそんな顔ができるんだか。


「さあ裕一、早く私の元へ!」

「ああ」

「私を離さないで、どこまでも!」



 俺が剣を突き出しているのが全く見えてないのか、いや見えてねえんだろうな。


 何のためらいもなく突っ込み、自ら剣に刺さりに来た。




「いつっ……!」




 で、当然のように刺さって悲鳴を上げてる。剣よりもよっぽど痛い女じゃねえか……。


「なぜよ!どうして!」

「お前に白馬の王子様なんか来ねえよ」


 俺はうかつに近づいて来たコーノハヤミの気取ったローブをボロ布にしてやるべく次々と突きを叩き込む。

 四発やられた所でようやく俺の本気に気付いたコーノは逃げようとしたが、もう二発打撃を受け計六個の穴が開いていた。

 肌は見えないが正直みっともないのには変わらない。

 その上に背中にはさっき削り取った傷がまだ残っており、ずいぶんとくたびれたシンセイなローブになっちまったもんだ。


「どういう、どういう……!」

「どういうも何もあるか!」

「あああああああ!!」







 したらなんなんだよもう、風通しの最高に良い空間で浮かび上がった挙句頭の上に黄色いお花なんか咲かせやがって。




 そんでその花びらがいきなり飛び散ったと思ったら、ビームになってセブンスを狙ってるじゃねえか!




「何と恐ろしい……!」

「これこそアニメかマンガだよ…………!」


 文字通りのビーム乱発攻撃、トロベや田口がビビるのは全く無理からぬ事だ。




 そしてそのビームは四方八方に飛び散るのではなく、セブンスと言う一個の標的に向けて正確に飛んでいる!


「私は平気です!」


 とセブンスは言うが、かつてエスタの町で見たグベキのそれとは全然桁の違う攻撃に俺の心臓は再び激しく脈を打つ。

 スピードはやや遅いがそれでも数が圧倒的すぎる!


「ええい!」

「それそれそれ!」


 オユキもコーノに向けて氷の針を飛ばす。


 俺も負けじと走り、剣を振って下から斬り上げてやる。


 だが、どっちも、有効打にならない。俺の攻撃は空に避けられて当たらず、オユキの攻撃は当たっているのに弾かれてしまっている。


「うわわ!」


 オユキはあわてて氷の盾を張るが、それでも少なくない数の攻撃がトロベたちを襲ってしまう。




「今裕一を傷付けようとしたわね!その行い、許されると思ってるの!やっぱり、あなたも裕一を惑わす裕一の敵なのね!」




 で、このビームを飛ばしまくる女はますますはしゃぎだし、ビームの軌道をこっちに向けようとして来た。


「それはお前が魔法を弾こうとするからだろ!っつーかなんでそんなに楽しそうなんだよ!」

「それは楽しいに決まってるじゃない、裕一を邪魔する奴を堂々と殺せるんだから!」

「俺の意見は無視か!」

「裕一は優しすぎるの!あなたの愛は私にだけ!私にこそあなたの愛は使われるべき!」







 世界を全て破壊し尽くした上で、人類が自分と俺二人だけになってもそれを幸せとしそうなほどの情熱。


 その情熱に当てられた俺の体が渇き出し、二本のビームにハブられながらも力が抜けて行く。


「お前、は……!」

「私はユーイチさんを信じています!」



 セブンスの言葉で気力がわずかに戻った俺は、なんとかコーノを斬ろうとする。




「捕まえてご覧なさい裕一~!」




 だってのにあの女は上へ逃げる。どこまでも、どこまでも俺に降伏させる事だけを夢見て!




「何!もう一発来た!」


 そしてその上空から、三発目のビームをオユキ達に放つ。


「威力は減衰できないのか!」

「相当に分厚く張ってるんだけど!二発受け止めた時点でもうギリギリでっ!」

「ええいこんな時に!」

「私が行くから!」


 オユキ達を守っていた氷の壁にひびが入っている。さっきの二発の攻撃は受け止めたが次が来たらもう持たないかもしれない!

 そしてその後ろからはスケルトンまで来ている!

「私は平気ですからそっちを!」


 セブンスは健在なようだがどうすべきか!

 どうすべきなのか!







「もう、ダメェェ!」

「伏せろ!」



 そしてためらっている間に三発目のビームはついにオユキの壁をぶち抜き、窓ガラスのように粉々に粉砕された氷がオユキ達の体に刺さっていた!



「大丈夫、この程度……!」

「私が、消すから……!」


 自分で作ったものは自分で何とかとばかりにオユキは魔法で氷のとげを消すが、顔色も手も青くなっている。次が来たら本格的に危ないじゃないか!




「お前はどこまでやる気だ!」

「裕一が私に振り向くまで!」

「…………その気をなくす行動をするんじゃねえよ!」




 この女が生み出した確かなる犠牲が、俺からイエスと言う言葉を奪っている。







 怪我を負ったみんなを、後ろから狙おうとしていたスケルトン。


 その忠臣たちは、一人残らずビームによって光になっていた。







 そして。




「こ、んな……まさ、か……」




 必死に魔物を送り出している、一人の男。




「私は、女神に、操られ、その……!」




 魔王軍の重臣だったフェムトが這いつくばりながらも、必死に力を込めて魔物を送り出そうとしている。


「ほざく、な……!私は!あの女神、を……ガハッ!」

「フェムト!もういい!休め!」

「フー、カン……だがここはもう……!私は、魔物たちをもって、女神、お前、を……!」




 青い血を吐き出しながらも、まだ闘志を失っていない。魔王と思って付いて行ったら女神で、しかもこんな事態になり、かつフーカンが投降を勧めているのにまだ戦う気らしい。







「うるさいんだけど」







 その魔王軍の、すなわち自分の家臣にコーノが与えた物。







 それは。一本の剣だけだった。







「魔王さ、ま、これが、罰、だ、と……?私、は……こん、な……こ…………ん……………」







 上空から降って来た剣に頭を砕かれたフェムトは、初代魔王への懺悔の言葉と共に青い海に沈んだ。





 そしてフェムトが最後の力を振り絞って生み出したコボルドもまた、その剣によって両断された。




「ああ……………………………」




 トロベでさえも言葉を失うほどの最期。




 あまりにも無惨な使い捨て行為。







「田口!」







 俺は感情を込めてその名を叫ぶ。




 この状況を一番変えてくれそうな存在を。




「田口!聞こえてるのか!ショックを受けてる場合じゃないんだぞ!」




 だが本人は動かない。




「たーぐーちー!!聞こえてるのかー!!」




 一体何なのかと剣を向けようとした俺の首筋に、三本の手が襲って来た。




「なな、なんで、ぼっチート異能が!」

「後ろを見ろ!」




 三本の手の一人であるトロベに怒鳴られて振り向いた俺は、一挙に頭の熱を口から放出した。










「俺が、俺がいっぱい!?」

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