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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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草原の山賊集団

 こんな草原で山賊とは何だよと思いながらとりあえず剣を持って出た俺の視界に、確かに山賊めいた連中が馬車を囲んでいる風景が入り込んだ。




「まったくこんな時に限って、とにかく放置はできねえか!」

「行くしかないであります!」




 北西方向で十数人の山賊たちが、馬車に取り付いて金貨を奪っている。少女が一人と数人の男が抵抗しているようだが、どうにも劣勢だ。

「なんで悪あがきなんぞするんだ?素直に金を寄越せばいいのによ……」

「このお金はね、私たちの大事なお友だちのためのなの!」

「あのさ、俺らは別にそのお友だちを傷つけようだなんて一言も言ってないんだぜ?」

 三年ほど前のセブンスはあれぐらいだったのかと思わせるほどの背丈の女の子が、小さな木の枝を振り回している。本当ならあれで山賊連中の頭をぶん殴りたいのだろう。




「親分、出て来ちまいましたぜ」

「ったくよ、セーギノミカタチャマ気取りの坊やたちがよ……まあな、軽く遊んでやるからな、痛い目見て泣くんじゃねえよ?

 まあ俺らがちょちょいと片付けて来るからよ、お前らは軽く悪あがきが大、大、だーい好きな連中に目に物を見せて来やがれ!」



 親分と言われた男がずいぶんとくどい口上を述べてる間に市川も飛び込んで来た。


「弱者を苦しめる真似は許さん!」


 ったく、いちいち市川はかっこいい。俺が剣道の真似事にもなりゃしない握り方をしているってのに、あいつの剣は本物のそれだ。まさか殺陣でもやってる訳じゃあるまいが、本当に絵になる。


「ったく見た目ばっかり飾りやがってよ。その甘ったるいツラぶっ飛ばしてやるぜ!」

「そんな事させない!」


 市川の剣ともに、親分が体勢を崩す。そこをおこぼれ狙いで俺が飛び込み、胸に剣を差し込む。

 その間に市村は他の敵を狙いに行く。


 そんでいつも通り赤井がじっと後方に控えてる。



「このスカシ男めが!」

「とっとと失せろ!」


 時には打撃を受ける事も覚悟の上で飛び込み、その度に赤井が市村を癒す。俺の役目は弱ったやつらのおこぼれ狙いだ。



「ったくもう、こんなガキどもに!」

「俺はまだ剣をもって一か月だぞ?」

「俺の十分の一以下じゃねえかよ、そんな奴が威張るんじゃねえ!」


 時にはそんな嘘偽りのない真実をぶっこいて油断を誘って、そして斬り付ける事もある。そのつまらない挑発に乗っかったやつらを実戦で底上げした、っつーか上げ底の腕で斬りかかる。


 それが本当に俺の技量なのか、それともぼっチート異能のせいなのかはわからない。とにかく懸命に剣を振り、命を奪いに行く。


 そして二人の山賊を斬り倒し、地を赤く染めさせた。相変わらず俺の体はきれいなまんまであり、本当にとんでもない力だ。





「三人とも……!」

「出遅れてしまったようだな、まあこの俺も少しはいい所を見せてやろうかな」


 大川が絞り出すような声でうめく中、エクセルもまた出て来た。


 確かに、大川の場合どんなに戦っても出血なんかないからな。ヘキトのように剣が触れて血が出たとかはあるかもしれないけど、だとしても自らの攻撃で血を出す事はない。

 あるいは強く投げ飛ばして何かにぶつけた際にそうなる事もあるかもしれないが、それだってこんなにはならない。


 ドラマとかで使う血糊とは全然違う、本物の鮮血。俺以上に赤井と市村は慣れちまったようで、顔や服にかかりながらも平然と戦っている。




「ちくしょう……!」

「ああ待って待って!」

「待てるわけあるかぁ!!」


 そんな血まみれの俺たちに敵わないと見たのか、山賊の一人が袋を奪って北へと逃げ出した。袋からは金貨がこぼれ落ちる。

 おそらくあれが本命の金貨袋なのだろう。あの大きさからすると百枚は下らない、百枚と言えば一千万円だ。その金で一体何人の子どもが助かるのか、となれば答えは一つしかない。


 女の子を追い越し、俺たちは北へと走る。あれほどの荷物を抱えながら速く走るそいつに陸上部の沽券をかけて追いすがり、差を詰めて行く。


「てめえのせいで何もかも台無しだ!」

「その金を子どもたちに返せ!」

「俺の取った金は俺のもんだ!首尾よく全滅してくれたおかげで全部俺のもんになる、その点だけは礼を言うぜ!」


 どこまでも欲に塗れた事を抜かしながら逃げ惑うそいつは、持っていた剣を俺に投げ付けて来た。

 あわてて叩き落したがその間に差を付けられる。絶対逃してなるか!俺は陸上部なんだ、なめるんじゃねえ!




「どこまでもしつけえガキだな、これももう要らねえや!」


 したら命惜しさかどうか知らねえが今度は金貨入りの袋を投げ捨てて行きやがった!ああ、金貨が転がってる。

 ったく、俺は一人っ子だけどさ、あんなに子どもをいじめるような奴を許すような趣味もねえ!俺の手によって成敗してやる!



「あーばよー!」


 そのつもりだったのに、いきなりその山賊はとんでもねえスピード、それこそ時速にすりゃ100キロは下らねえスピードを出しやがった。ったく、こちとら一時間続けて時速18キロを出せば一流だってのに……あれで一時間持つかどうかはともかく、あっという間に見えなくなっちまうなんてな……


「何ですかあれは!」

「俺にもわからん。でもとりあえず金は持ち去られずに済んだしな……」


 とりあえずそれはそれでいいかと思って振り返ってみるが、そこはまさしく死体と血だまりでいっぱいだった。俺たちが起こした事であり、前例のある話だとは言えやっぱりショックなのは拭えない。


「大川……」

「そう、だよね……ほらもう大丈夫だから、何も怖くないからー」



 大川は血だまりを必死に避けながら、セブンス共々女の子の方へ歩み寄る。赤井はまだしも俺や市川、エクセルにはできない役目を進んで買って出る辺りはやっぱりちゃんとしている。


 まあとりあえず俺は大事なお金を返しに行かねえと……

「あっ手が滑った!」

「何をやっているのでありま」


 すかと言う文字は赤井の口から出て来なかった。

 俺が手を滑らせて袋を倒し、その中身があふれ出て来る。ちょうど血を避けるように流れ出たのは……。




「何だこれ、全部銅貨じゃないか!」


 そりゃまあ銅貨だってちゃんとお金だけどさ、銅貨百枚=銀貨一枚なら俺だって払えるぞ!?確かに孤児たちにとっては銅貨一枚だって重要なお金だが、にしては布がずいぶんと物がよさそうな……










「バーカ!」


 そんな風に俺が悩みながらとりあえず銅貨を袋に戻していると、いきなりそんな甲高い声が飛んで来た。




 両手の人差し指と小指を立てて来たんだよ、あの女の子が!







 ――――そしてさらに南では


 たくさんの黒服を身にまとった連中が、ナナナカジノに押し寄せていた。

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