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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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忠臣の最期

 魔王城の主様が震えている中、魔王の門での戦いは決着がつきかかっていた。


 何せ魔王城の中でも見えるのだから。本当、わかりやすくて助かる。




「どうした!召喚魔導士!」

「それが魔力がもうないとか」

「ふざけるな!このままこの城を抜かれたいのか!」


 ジャクセーが吠える中、バットコボルドやコークなどが次々と投入されてくる。


 だがシンミ王国軍とフーカン軍が止まる事はなく、次々に魔王軍の占領地は少なくなって行く。

 麓の町に救援を求めようにも、人間たちは初代の魔王にはなついていてもミタガワエリカやコーノハヤミにはなついていない。




 俺は知らなかった事だが総司令官様はこの時麓の町の住民に、戦いが終わった後は初代魔王の甥であるフーカンを四代目魔王として擁立する旨を既に述べていたらしい。

 温厚な四代目様とあれば過激な簒奪者のよそ者である二・三代目よりは信頼できると言う事で、この時すでに魔王領の町は傍観を決め込んでいたそうだ。


「ええい!」


 左腕だけで必死に炎魔法を放ち、シンミ王国軍を食い止めようとする。


 だがその十数倍の強さの吹雪の前に、マッチ一本レベルの火など何の意味もなく消えて行く。


「目一杯、やっちゃっていいよ。味方に当てないようにね」

「わかりましたぁ!」


 陽気な声で猛吹雪を巻き起こすオユキに力を与えているのは、言うまでもなくムーシ王子だった。

 ムーシ王子の能力によりこれまでの幾倍もの強力な冷気を放てている雪女の力により、魔王軍は攻撃に向かわせた端からその力をそぎ落とされると言うある意味最悪にバカバカしい事態になっている。


 ああこれも俺は知らなかった事だが田口のチート異能が消えなかったのは、実は河野が与えたものだからじゃないからだそうだ。

 どうやら田口は横浜で高校生をやっている時にもなるべく目立たないようにこのチート異能を使って誰かに力を与え、自分は意図的に二軍以下に甘んじていたらしい。そう考えるとサッカー部で一軍だと気取っていた辺士名がますます滑稽に思えてくる。


「そして先陣を頼むよ」

「承りました!」


 もちろんそれに続くかのように一人の少女も得物を握りしめ、前線へと向かう。




 トロベ。




 シギョナツの村で出会ってから大陸を半周した騎士。


「アカイ殿、イチムラ殿……見事な戦いぶりだ!今度は、私の番だ!」


 仲間たちへの感謝の意を力強く口にしながら、トロベは突進を開始した。

 槍の先っぽが力強く輝き、目的を果たさんと猛っている。



「いざ!」



 そしてトロベの突入と共に、魔王の門の戦いは決した。

 確かにシンミ王国軍も強かったが、連戦で疲弊していたのは拭えなかった。

 その分だけ押しきれず、魔王軍も召喚されたはたから米野崎の炎魔法、前田の風魔法、オユキの氷魔法で死んでいたから援軍が機能せず膠着状態になっていた。


 そこに加わったトロベの存在は、パワーバランスを一挙に傾けた。


「あっという間に魔王軍が崩れてく!」

「オオカワヒロミ殿には悪いけど、キミの出番はもうないかもね」

「それならそれでいいですけど、にしてもどうしてこんなに……」


 トロベの槍が唸り、負傷していた魔物たちを次々に切り裂く。その度に青い血が飛び、トロベもシンミ王国軍も魔物軍も染めて行く。大川も口を開けてじっとその戦いぶりを見ている。


「あの二人はどうしても遠慮があるんだよね」

「お兄様ぁ、私もぉ!」

「まあまだ終わったなんて誰も言ってないからね。そこんとこ落ち着かなきゃダメだよ」


 ピコ団長とタユナ副団長も既に前線に加わっていたが、決定打にはなっていなかった。


 二人にとってはどうしても総司令官様の安全が第一であり、ましてや女神様の登場による萎縮もあるんだろう。

 トロベにそれがない訳はないはずなのに、それにしても見事なまでの戦いぶりだ。



「この戦いが終わったら一緒に」

「総司令官様!」

「おやおや何かまずい事でも言ったかい」

「いえその、何でもないです……」


 で、それがもし俺と添い遂げるとかいう理由って言うんなら、やめてもらいたいようなやめてもらいたくないような気分になって来る。米野崎があわてて総司令官様の言葉を止めようとした理由はわからないが、しかしそんな感情が戦いを動かすのを思うと今までずいぶん損をして来た気分にもなる。


「まあいいけどね、そろそろとどめを刺しに行くべきじゃないかな」

「でもまだ抵抗がないとは」

「慎重だよね、でもあの三人も助けたいだろうからさ、あまり追い詰めると死ぬまで抵抗しちゃう危険があるからね」

「……」


 そして総司令官様は大川まで黙らせ兵を進めて行く。

 まったく、メガミサマももう風前の灯火かもしれねえな……。


「くっ、くっ……!」


 それを象徴するかのように、ジャクセーの呼吸が荒いを通り越して弱々しくなる。

 左手から懸命に魔法を出すが、オユキの氷のビームに押し負けている。



「回復させないのか?」

「…………」



 主様は何にも言わない、いや言えない。女神様が魔物を回復させるまではともかく、あそこまで「魔王様」に忠義を誓っている存在を助ける事は出来ねえよなあ。



「お前は何だ?」

「私は女神です!」

「そうか。だが俺はそう思っていない。だったら何をすれば俺の期待にこたえられるかわかるだろ?さあ」

「全員停戦しなさい!」


 ……事ここに及んでそれかよ。


 一応魔物寄りと言えば魔物寄りだが、あまりにも投げ槍で説得力がない。

 おそろしく他人事で、おそろしく無責任な言い草だ。




 もちろんそんなもんを誰も聞く事はなく――――――――――







「あ……」




 オユキのビームが、ついにジャクセーを凍らせ出した。城門の上にいたジャクセーがバランスを崩し、そのまま前のめりに落下しようとしている。

 助ける奴はもういない。




「私は、最期まで、主様の、た、め……!だか、ら!」



 ジャクセーは落下しながらも最後の力を振り絞り、凍りつかんとする体に左手を当てた。


「テリュミ、ムーシ」


 だがシンミ王国の王家の二人を率いる、総司令官と言う名の兄は残酷だった。




「空間が……!」


 空間魔法により出来上がった空間の中に、ジャクセーが閉じ込められて行く。


 凍りついた体を締め付けるように空間は凝縮し、世界のつながりを断ち切らんとする。


「うぐ、うぐぐぐ……!」

「その手は通さないってね」


 ジャクセーの左手が、まるで懐中電灯のように光る。


 そして爆散するはずだったエネルギーが空間の中に凝縮され、その間にも体が氷で包まれて行く。




「ぐぐ、がぁぁ……!」




 その空間から小さな爆風が巻き起こり、魔王の門の側にいた兵士たちを転倒させた。




 そして紫色に染まった氷———————手の形をした氷が魔王城の門に転がる。







 あまりにも小さな打撃。あまりにも小さな痕跡。あまりにも小さな墓標。







「河野。あれがお前が生み出した、お前に仕えて来た、忠臣の扱いか?」


 魔王の下で幹部として潜み、三田川恵梨香への政権移譲を進めさせた上で、禁断の秘術を教えて彼女を失脚させ、最高の部隊を整えた存在。


「…………」




 まったく、どこまで俺を絶望させれば気が済むんだろうか。

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