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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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ああ、情けねえ。

「シンミ王国軍はこの城にほどなく突入して来る。魔王を倒しにな」

「私は女神!この世界を守りし女神!」

「頭があれなのに下が動揺するとは思えないけどな」


 大将が一人張り切っていて部下が付いて来ないってお話は山とあるが、あの大将様を見る限りそんな心配は無用だろう。



「もはや女神の演技はやめろ、魔王コーノハヤミ」

「私は平和を!この世界に平和をもたらす女神!」

「お前は戦いをしたいのかしたくないのか!」

「したくないけど、しなきゃいけないの、です!この世界から戦争をなくすために!」


 言葉が乱れている。


 女神としての体裁を保つ事すら難しくなり、ただのコーノハヤミになっている。


「戦いをなくすために、人類は動いている!」



 俺の剣が河野に迫る。もちろん当たる事はないが、それでも俺の意を示すには十分だ。


 いつの間にか人類代表みたいになっていた俺に続くかのようにやって来るだろうシンミ王国軍。そのためにも引く事などできない。



「血迷ったのですか!」

「俺は正常だ!」

「平和を守る女神を滅ぼせば平和は遠のきます!」

「お前は魔王だと言ってるだろうが!」


 圧倒的な速度で逃げ回る女神を追いかける俺。


 場所は相変わらず、天井のバカ高い幼稚園の中。


 子どもたちが仲良くおゆうぎしているはずの場所で、俺らは命を懸け合っている。


「あなたが戦いをやめれば!戦いは終わるのです!」

「それはお前にも言える!」

「では一緒に歩みましょう!」

「お前の天下にはお前に隷従する奴しかいない!お前がもたらすのは恵みじゃなく支配だ!強権による支配だ!」


 自分の匙加減により強力な力を出したり引っ込めたりできる。

 それこそ簡単にとんでもない存在を作り出せるシロモノであり、チート異能中のチート異能だ。

 そんな存在を放置などしたら、また同じことが起きる。


「あの執政官様を見てわからないのか!お前のやり方では千年経っても誰もなびかない!」

「ではこれまでのこの国の歴史を何とするのです!」

「それはお前が寝てたからだ!起きてたらこの世界はとっくに滅んでいた!」


 空を舞い、剣を振る。

 女神もどきは反撃する事もなく逃げ回っている。


 平和主義者気取りか、ああうっとおしい!




「魔王の門はほどなく破られます!」

「よし来た!人間の大軍を目の前にお前は手が出せるのか!」

「出せます!世界を戦乱に導く者を!」

「ユーイチさんを傷つける、いや自分の思った方向と別の方向に動かしてしまう人間の間違いでしょう!」



 セブンスの糾弾に、女神もどきは剣を落とす。もちろんショックを受けて手が滑った訳ではなく、反撃と言うか八つ当たりだろう。

「お前はどこまで幼稚なんだよ!」

「ウエダユーイチ!あなたはなぜこの世界を手に入れられる力があるのに!」

「手に入れても意味がないからだよ!お前の傀儡政権なんか!」


 河野速美がいる限り、この世界は彼女の手のひらの上でしかない。

 これまでこの世界で出会って来た人間も魔物も自然もすべてが彼女の思うがままであり、その気になれば簡単に壊されてしまう。


「お前がどんな存在なのか、この数分で世界は理解した!もうお前を支える奴はいねえ!」




 倫子たちに与えた力を剝ぎ取り、ただの女子高生に戻した河野。


 あまりにも急な変化を目の当たりにした多くの人間たちが覚えたのは、尊敬でも関心でもなく、畏怖ですらない恐怖だ。自分が与えたはずの力を不都合だと思えば平気で剥ぎ取り命を危険にさらす―——―そんな上げて落とすをやるなど、なまなかな悪魔の真似じゃない。



 それに偶像崇拝を禁止したせいか、人間たちの間に「女神」の脳内イメージがない。

 常に文章ばかり、それも聖書という名の堅苦しい肩書の書物の堅苦しいお言葉が最上の存在となってしまっている以上、近寄りがたさを与えてしまっていた。


「女神が女神たる事を示すには、そのお姿だけじゃ無理なんだよ。って言うかお前が無理にしたんだよ」


 ローブに、サンダル、ローブに似た白い肌に、青く長い髪にティアラ。

 そんな俺らの世界的なメガミサマの姿をポンと出して女神様降臨と思われるなど、何の下地もない世界では土台無理なご相談だ。



「なぜ偶像崇拝を禁止にした」

「我が教えに虚像は不要!信仰を押し固める書があればそれでよし!」

「本当はユーイチさんに見られたくなかった、悟られたくなかったんですよね」

「何を!」

「いずれはこの世界にユーイチさんを招き入れ、そしてユーイチさんを自分の側に置き続け、共に世界を治めるために。だとしたら話も通ります」


 自分そっくりのメガミサマの絵画や銅像があちこちにできているだろう世界。

 そうなればどこかで俺が河野の存在を疑い、自然と助けを求めに来てくれないのではないか。

 あくまでも俺自らコーノハヤミと言う名の存在を好きにさせるように仕向けるべく、あえて痕跡を残さぬ事に腐心したと言うのか。



「私にも言ってたよ、像や絵などなくとも、いずれあなたは私の下に来るだろうって。結果はご存知の通りだけどね」



 生き証人とでも言うべき総司令官様さえこの言い草だ。


 ったく、これが女神様だなんて何のつもりだよ……。



「ったく、全信徒に謝れ……まがい物だろうがなんだろうが本物に代わってな」


 俺の冷たい言葉に何の反応をする事もなく、河野速美は震えていた。



 きれいで汚い涙を流して、震えていた。

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