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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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転生しても女神様の事を思い出さなかった件について

「あの時も言ったよね、ぜひ私と共にこの世界を治めて欲しいと。でも私が断るとあなたはずいぶんとあっさり認めてくれた。なぜだい?」

「……何を言っているのですか」

「幾度も幾度も生涯を、あなたの侵攻がしみこんだ土地で重ねれば恩を感じいずれはとお思いでしたか?

 残念ながら、私はあなたの事を真剣に考えた事は八回目の今まで一度もない。大司教サマであった時でさえも、飢える貧民の事ばかり見ていた」



 それが宗教家として正しいのかどうかは知らないが、人間としては正しいのだろう。


 弱者救済、貧民救済。


 遠藤が植え付けられたような薄っぺらなお題目とは違う、本物の志。

 それがこれまで七回の人生すべての中ので芯となっていたとすれば、それこそこの総司令官様が女神様に正しい意味で魅入られた証拠じゃないか。


「このマサヌマ王国の司教様が女神様なんか見てなかった事はもう明白だよ。一に聖書の字面、二に他人の粗探し、三四がなくて五にゴマすり。そんな国家でもいいのかい」

「まさか!」

「ああそうだね。女神様って重石がなくなっちゃった国家を動かすのは結局のところ人間なんだよ、どんなに宗教国家を気取っててもね」



 人間だって同じだろう。いかに圧力をかけてその方向に持ち込もうとしても、どんなに自分が思うがままに成型しても、その重石がなくなった途端にあらぬ方向に動かないだなんて誰が断言できるのか。そしてもちろん重石から抜け出して自分の意志のままにあらぬ方向に動く存在も山といる。



「金貨十枚の恩を与えれば金貨百枚の報いあり、金貨十枚の恩を貸せば銀貨十枚の報いあり。忘れたとは言わないよね」

「それは、無論……」

「私はあなたに金貨十枚の恩をもらったとは思ってない、貸されたとしか思ってない。だからこっちも銀貨十枚分しか返さなかった。



 それをまた、やろうとしているんですか?」




 最後にようやく敬語になった。



 だが敬意って言うより、よそよそしさが目立っている。


「すごいです、女神を相手に……」

「俺が言うのも何だが、俺と同じように女神だと思ってないんだろう。ただの昔の恋人扱いなんだろう」


 ぼっちだってドラマや漫画で、世間様でいう所の恋愛の一つや二つは学ぶ。


 河野はどうやら、総司令官様を自分のものにするために力を与えたらしい。でも八回も生まれ変わっても結局望みの結論にはたどり着くことなく、のほほんと王子様をやっているだけのようだ。


「はあ…………」


 で、メガミサマは馬鹿でかいため息を吐くだけ。要するに反論できねえって事かよ。


「ジムナールと言いましたね、どこでそんな話を記したのです」

「往生際が悪いね。確かに八代も前の話を覚えてる方が無茶かもしれないけど、あのペルエ市の東の山。

 あそこの魔物が弱いのは女神様の加護のおかげじゃないか。

 あの山で私は三日三晩剣を振り続け、三万二千七十九匹の魔物を殺し、七万五十六匹の魔物を負傷させた。

 とくにゴブリンは一万三千百六匹を殺し、コボルド三万二千五百十二匹を負傷させたね」

「あまりにも具体的な数でありますな」

「それだけは忘れようがないよ。ゴブリンとコボルドが雑魚になってるのはその時の怨念でしょ、覚えてるんだから」

「非道な……」


 コスプレイヤーに成り下がったはずの赤井と市村の言葉が、総司令官様のそれ並みに、かつメガミサマのそれよりずっと重く響く。

 僧衣も鎧もいつの間にか体の一部になり、二人をしっかりと染めている。むしろ第三者と化した事により、その分だけ目が澄んだ可能性すらある。




「それに、だ。何よりの証拠が目の前にあるのに、いい加減認めないと信仰を失うよ」

「証拠とは何を!」

「目の前の形勢だよ」







 いや、そんな論よりもっと大きな証拠が目の前にあった。







「あまりにも進退が鮮やかすぎるであります……」

「まあね」


 力が切れたと見るや赤井や平林をさっと守り、そして自分の軍勢やオユキ・トロベを出した。そのおかげでみんな無事に逃げ切り、きちんと後方に控えられていた。

 倫子は兵士さんに寄りかかっているが前田と細川は仁王立ちして戦況を見つめ、米野崎はいつの間にか赤井の側にいた。無事で何よりだ。




 ―——―いや、その前に前田や米野崎に全力で魔法をかけさせていた。




 それこそ、あらかじめ能力がなくなる事を見越した戦い方じゃなかったんだろうか。


「どんな力も思うがままだったよね、あなたは。さすがに一人ひとつみたいだけど、それでもその力を自在に操り、あなたは魔王を封じた」


 どんなにすさまじい術でも、手の内を知られていれば……って訳か。







「総司令官様、こんなただのコーノハヤミと何をしゃべっているのです?」


 だが、俺としてはこう言わない訳に行かない。




「おやこれはこれはウエダユーイチ殿」

「これは女神様などではなく、ただの魔王です。いや、ただのコーノハヤミと言う魔導士です、それに向かってこんな重要極まるお話をしてしまうとは」

「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ、そりゃ失敬。でもさ、ザコは任せて本丸を頼むよ」




 真偽などこの際どうでもいい、どうでも良くないのは、勝敗だけだ。

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