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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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大川のチート異能

 外は抜けるような晴天らしいが、まったくすがすがしくない朝だ。俺は朝飯を食べる暇もセブンスのベッドを整える暇もなく、着替えて外へと出る。




「あのな大川、なぜまたわざわざ外なんかで寝たんだ」

「未だに遠藤の事が信じられないのでありますか?」

「私はね、どうしても納得できないのよ。遠藤がそんな恐ろしい人間になったって事を」



 大川は相変わらず不機嫌だ。昨日あそこまでの事になってさすがに落ち着いたと思いきや、むしろぶり返しちまったらしい。目つきがやたらに怪しく、そしていやに好戦的に見える。


「遠藤は一昨日、俺らとペルエ市のギルドで会った時もいきなり斬りかかって来た、モモミって言う女の子と俺らが話しているだけでな。単に俺が不審がられていただけならば別にいいが……」

「あれは本気だった可能性があるであります、いや物言いからするとまさしく本気であり、それこそ私たちを殺す気だった可能性があるであります」

「だからそれが信じられないのよね……」


 舌打ちをしようとして赤井にうなずく市村の姿が目に入ったのか、大川は顔を大きく膨らませて目を細長くした。




 少女に手を出すとは何事だ、とか言うつもりで斬りかかって来るなど実に一方的だ。目の前で人間が真っ二つになる光景を見て動揺しないなど、それこそ最悪の意味で機械的だ。

 ましてやそれで生木を裂くような事になろうもんなら、斬った側だって一生涯もんのトラウマを背負う事になる。

 それを顧みないのは暴走っつーか自己満足だ、それも相当に程度の低い部類の。




「今の遠藤は、そのリスクが顧みられない人間になってる。その力を悪い奴に利用されたらあいつ自身取り返しのつかない事になる」

「私で止められるかしら……」

「俺が遠藤を止めてやるから」

「そう……」

「まあとりあえず朝ごはんを食べるのであります。そうすれば元気が出るはずであります」

「ええそうですよ、それがいいですよ!」

「……うんまあね、みんなに心配かけちゃって私ってダメな女ね、私が遠藤君を正してあげなきゃ」

「だからそれは俺がやるって言ってるだろ!二連敗しておいて何のつもりだ!とっとと食えよ!」



 俺はつま先に体重をかけてできる限り背伸びし、何とか大川を上から怒鳴りつけ、そして手を握って強引に引きずり込んだ。本当ならば投げ飛ばされていたかもしれないはずだった俺だが宙を舞うことはなく、無言でついて来た。


「私は何を」

「黙って食えばそれでいい」

「椅子を引いたり、テーブルを拭いたり」

「ここは宿屋だぜ、プロがやってるんだぜ。聞いてない奴もいるけど」


 セブンスはもう飯を食うペースからしても相変わらずだが、今の大川に必要なのはとにかく甘やかされる事のはずだ。

 大川が俺たちと会うまでの間にどれほど苦労して来たのかは知らないし、少なくともミーサンカジノから出禁を食わされるほどの真似をやらかしたのはまた事実だ。でもこれからミーサンカジノと敵対する気でいる俺らからしてみれば、そんなのはむしろ名誉だった。



「だからお前は、すべてが終わった後でゆっくりと遠藤を説けばいい。いかにあいつの力がすさまじくても、俺が抑え込んでやるから」

「そう……」

「何を思ってわざわざ野宿してたのか知らねえけどさ、ほんの少しでいいから俺らに手伝わせろ、なあ」

「実は私、ここで……」

「何だ、何か口に合わない物でもあるのか?」


「草ばっかり食べてたから…………」


 草ってのは野菜か果物じゃねえかと茶化すには、大川の顔は深刻だった。あまりに深刻な物だからいつの間にか混ざっていたエクセルも口を大きく開け、大川の顔をじっと見つめていた。




「私がいきなり僧侶となり、市村君がいきなりパラディンとなったように、大川さんは…………と言う事でありますか?」

「オタク僧侶に言われるのは腹立たしいけどね!と言うかもしこれがあんたの望むような特別な才能だとしたら嬉しい?」

「どんな場所でも生き残れそうで、確かに素晴らしいと思うであります」

「……ああそう。ってちょっと何そんな顔になってるの、笑いたければ素直に笑えばいいじゃない!」

「そんなの別に特別な事じゃない。赤井だって市村だってさ、そんな訓練何にもしてなかっただろ?それなのにいきなり戦えるようになったわけだ」




 なるほど、野草を食べられるとしたら飢えるはずがない。



 それこそ一人きりでも生きていけるスキルだ、「チート異能」だ。


 でもまあそんな事を言ったら赤井だって市村だっていきなり腕利きの冒険者レベルの戦闘技術を得た訳だ。十分チート異能じゃねえか。


「ハヤト、マサキ、それは本当なのか」

「まったく上田君の言う通りであります!」

「ユーイチ、それがお前の言っていたズルって奴か?」

「それは違う、ズルって言えるのは俺のだけだ。俺のは説明してもわかりにくくてな」

「でもやはりそういう才能、と言うか神様からの授かり物を得る事は素晴らしい事だと思います、ズルとか言う言葉はあまり良くないと思います」



 エクセルが素朴に問う中、セブンスは俺のことを褒めてくれる。でもまったく努力もしないで得た力ってのは、実にもろい。そして、大川はそういうのを一番嫌う。と言うか、そんな甘ったるい発想自体を嫌う。


「たまたまだよ、たまたま。そうやってたまたまもらったもんなんだから、何も恥ずかしく思う事はないじゃないか。使わなければいいだけだ」

「でももうかなり」

「しょうがないだろ、後ろばっかり見るような女だったのかよ、柔道部の新星は!」


 俺がまったく適当に並べた言葉のおかげで、大川は急に食べるスピードが速くなった。


 とりあえず元気になったようで何よりだし、俺らも食事をしなきゃなとばかりに手を付ける。







 ほぼ同じ量だったはずなのにもうなくなっていたセブンスに感心しながら最後の一口を飲み込み、日本にいた時と同じように手を合わせて頭を下げた俺が椅子から立ち上がると、いきなり宿が揺れた。







「大変だー!!」

「何事だ!」

「山賊が攻めて来たぞー!!」

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