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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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ニセモノかホンモノか

「なんだよお前、何イキってるんだよ」

「お前に戦いは似合わねえよ、おとなしくしてろ……」




 遠藤幸太郎と剣崎寿一のそっくりさんたちは、大きな得物を俺らに突き付けてくる。



 さっきの会議室の三分の二程度の長方形のお部屋で、長い得物を振りかざすありさまと来たら迷惑以外の何でもない。


「お前らこんな所で何やってるんだよ」

「相変わらずしけた顔してるな、そのくせそんないい女なんか連れて」

「いい女って言葉だけは受け取っとくよ」


 ずいぶんと品のない顔をした剣崎のそっくりさんが長細い得物を俺に突き付け、俺を阻もうとしている。


「……そうか。お前らあのフェムトの網に引っ掛かったな」

「網に引っ掛かったとか、人聞きの悪い事を抜かすな。俺らはあくまでも自分の意志で動いてるんだよ」

「二か月間も傀儡をやってた奴がよく言うよ」

 遠藤幸太郎は間違いなく、あのミーサンの傀儡だった。貧民救済だの弱者救済だの言って孤児を集めナナナカジノを奪って街道を支配し、搾取しようとしていた親玉の甘言を真に受けて、今の今まで何やってるんだか。


「俺は河野速美を止めなきゃならねえんだ。そこをどけ」

「お前は頭がおかしいのか?河野速美を止めるだなんてただの人間にできるのかよ」

「それは河野速美がただの人間じゃねえ、それこそ魔王ってのにふさわしいって認めてる事でもあるし、それにそんなのに仕えていいのか」

「構うもんか。世界中の戦争と貧困を根絶し永遠なる平和の世界を作るのは河野だ。お前はいいよな、その栄誉を間近で味わえるんだから」

「そうだ、あいつこそこの世界を平和にできるんだよ」


 ……で、こうもあっさり馬脚を露すもんかね。

 ミーサンの言葉を呑み込んで染み渡らせてしまった遠藤はまだともかく、剣崎にこんな物言いができるとはとても思えない。


「…………で、本物のお前らはどこだよ」

「冷たい事言うなよ、見慣れた顔のくせに」

「市村も赤井も、どうしてわざわざ争いたがるんだろうな……本当に残念だよ」

「行くぞ」


 あまりにも似ていないニセモノを使ってまで戦意を落としたいのかと思うと、逆に湧き上がって来る。今すぐこの門番とも言えない門番を叩き斬り、なんでんな事したのかって詰問してやりたくて仕方がなくなる。

 俺が剣を振ると同級生もどきたちはそっちがそうならと言わんばかりに自分たちの武器を叩き付けてくる。


「おらよ!」


 バカ長い剣崎の剣と、遠藤のハンマー。ににんが四本の武器が狭い部屋に輝き、俺の刃を折ろうとする。


「どうした、俺のハンマーとぶつかっていいのか」

「知った事かよ」

「そうか!」


 遠藤は自信満々に鋼鉄のハンマーを俺の剣に向けて叩き下ろす。両刃の剣に攻撃を受け止める部分はなく、単純にすさまじい力がかかって来る。

 それに乗っかるように剣崎の剣が遠藤の一撃に続き、名剣を痛めつける。

「武器さえ壊せば勝ちだって言われてるからな!」

「そうそう、そうして参ったと言わせれば!」

「バカも休み休み言え!」

 

 相変わらず河野速美の伝言役レベルの事しか口にしない遠藤と剣崎の攻撃に、剣が大打撃を受ける。それでも必死に攻撃を受け止め隙を探していたが、いきなりわき腹に何かが刺さった。

「よくやった辺士名!」

 何もない空間から放たれたその一撃、辺士名義雄のナイフ攻撃が俺の脇腹に刺さり血を流させる。

 その攻撃に乗ずるかのように、遠藤の渾身の攻撃が俺の剣の根本を捉えた。

 名剣が無残にも叩き折られ、俺の手から滑り落ちて行く。


「やった……辺士名えらいぞ!!」

「武器なしじゃ戦えねえよな、さあ河野が待ってるぜ!」



 そして、勝ったと思った次の瞬間。三本の剣がまずは遠藤幸太郎、続いて剣崎寿一の肉体を捉え、そして返り血によって立ち位置が露見した辺士名義雄に向かって振り下ろされた。







「まがい物にふさわしい相手っているよな」


 三人して俺の分身の剣を必死こいて叩き折って何がしたいんだか。

 俺の分身たちによって攻撃を受け、悲鳴すら出さずにあっという間に倒れこんだ三人。


 まったく、真っ青な血を流して……







「赤い!?」



 魔物の青い血じゃない、赤い血だ!



 いや、赤か青かと言われれば青いが、どこかエクセルから出て来たような赤が混じった血。

 純粋な青とは違う色。


 魔物とは違う何かなのか。



「まさかエクセルさんのように!」

「……責任転嫁ってずるいと思うか?」

「思いません!」




 もしエクセルのように河野に利用されたんならばその怒りを河野にぶつけてやるまで。

 もちろんまがい物ならばそれでよし。



「とにかく、河野だけは許せないって事だけは間違いねえ……」




 俺は感情をため込みながら、門に手をかけた。何らかの仕掛けや鍵があったらどうしようとか思ったが、案外あっさりと開いた。


 古めかしくところどころ崩れた石段。丁重に一段ずつ登りながら、また先の扉を目指す。




 もうすぐだ。


 すべてがもうすぐ終わる。


 高揚感に負けまいと必死とゆっくりと足を動かし、セブンスと分身たちを引き連れる。


 この世界の命運、いや俺の人生のすべてをかけるべく。




「なんだこれは……」




 そこに飛び込んで来た、俺の意気をくじくかのような間の抜けた扉、いやドア。

 えらく久しぶりになってしまったシリンダー錠式のドアノブ。


「これは」

「俺たちの世界では一般的なドアだよ。ノーヒン市で見ただろ」

「ああはい……」


 こんな日常じみたドアの先に何があると言うのか。


 必死に頭を冷やしてゆっくりと右に回し、足を踏み入れたその先にあったのは。







「なんだよこれは……」







 明らかに「魔王城」よりも大きい空間。

 木目調の床に点々模様の壁。



 桃太郎とか金太郎とか言う昔懐かしい絵本。



 お花の飾り。


「みんななかよく」

「けんかはダメ!」

「せんせいのいうことをきちんときいて」

 とか言う色紙に書かれたフレーズ。




 そして壁にかかっているエプロンに、「うえだゆういちくん」って紙の貼ってあるロッカー。




「これって……」

「ああ、幼稚園だよ。俺たちの世界の幼児教育の施設だ」


 十年ぶり、ではなく正確には五年ぶりか。


 小学校時代にボランティア活動とかで一度だけ立ち寄ったことのある幼稚園そっくりの空間。




 敷地の広さと天井の高さを除けばそれそっくりの空間。








 こんな空間を作って、何をする気なんだろうか。


 その疑問に答える暇など与えないと言わんばかりに、この空間の主が姿を現した。




「裕一……」




 コーノハヤミだ。


 この世界で初めて出会った時と同じ、青いローブを身にまとった。

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