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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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過去の栄光

「おのれ……!」


 エンドーコータローは目をいからせながら、炎魔導士・ヨネノザキカツミをにらみ付ける。


 炎が魔王の門に向き、次々とコーノ軍を焼く。

 遠巻きに攻撃され続けるばかりで得物を合わせる余裕もないまま打撃ばかりが膨らみ、傷と共にいら立ちが高まる。


「おい赤井!キモヲタの赤井!俺の剣を受けろ!」

「オタクだけどキモくないから、あなたと違って……」

「んだと!」


 箱根駅伝と言う国民的スポーツイベントの参加者にオタクが多いと言う事を、上田裕一は既に知っていた。

 だが遠藤は知らなかった。

 もしその知識があれば、遠藤幸太郎はもう少しまともな対応ができたかもしれない。



「さぞ狂喜乱舞してるんだろうな、こんな理想の世界にご案内されてよ!」



 自分たちは上流階級、スポーツに青春をかけている自分たちはカッコイイのだと言う思い込みが、遠藤幸太郎を支えていた。

 カッコイイのだから女子にもモテるし、友人だって数多い。アニメやゲームにばかりうつつを抜かす、ぼっち連中とは違う。


 中学時代、いや小学校時代から決まっていたスクールカーストのはずだった。



「市村はイケメンだからともかく、赤井のような奴がモテるだなんておかしいだろ!」

「全てはたまたま、私と神林さんと藤井さんのような生徒が同じクラスにいただけ。運命ってのがあるんなら、赤井君に微笑んだだけ」


 だが現状について、結局はそうとしか言いようがない。

 男女十人ずつのクラスで三人もオタク女子がいるなどある種の奇跡であり、幸運とも不運とも言えない運命でしかない。

 あくまでも赤井勇人はガリベンデブオタであり、遠藤幸太郎はイケメンスポーツマンなのである。



「オタクは隅っこでぼっちになってりゃいいんだよ!」



 だがそのイケメンスポーツマンが炎の壁の向こうにいるオタクカップルに対し足を踏み鳴らしながらわめく姿は、この世界での過去の所業を差っ引いても正直見苦しかった。その姿を横浜で彼をもてはやしている女子たちに見られなかったことがどれほどまで幸福であるか、遠藤は気付く事はない。


「…………」


 そしてそんな元リア充の零落ぶりに言葉を失ったオタク女子米野崎がさらに火勢を強め、遠藤幸太郎そのものを焼こうとしたのは慈悲なのか怒りなのか、それともただ単に呆れたからなのかは本人でもわからない。

 ただこの指名手配犯から目を背けた少女の行いを見逃さなかった存在がいた事だけは、間違いのない事実だった。







「うっ……!」


 炎を出していた杖が両手からこぼれそうになり、さらに強く引き抜かれようとしている。

 何もない空間から伸びた手に、米野崎は動揺して火力を一気に強めた。


 その結果さらに多くの魔物を焼く事に成功したが、その結果が出る前に彼女は地面と体を平行にしていた。



「なんだ!?」

「辺士名君!ここに来ていたのでありますか!」


 その混乱を最小限にしたのがガリベンオタクこと赤井勇人である事が、米野崎の杖を奪い取らんとして失敗し腹立ち紛れで女子高生を蹴り飛ばした下手人の神経を逆なでした。


「ヘントナヨシオとは!あのキミカ王国の山賊団の!」

「狙いはヨネノザキ殿とアカイ殿か!守れ!」


 当然ながらウエダユーイチたちからヘントナヨシオの予備知識を得ていたシンミ王国軍によってターゲットと見なされた赤井勇人・米野崎克美のオタクたちは守られ、ヘントナヨシオは攻撃の隙を失った。



「…………!」

 それでもなおチート異能を生かし何とか隙を突こうとするが、チート異能だよりの高校生とは違う歴戦の兵士たちに取り、視覚が役に立たなくても鼻息と言う触覚とその数倍の殺気を隠す気のない辺士名義雄ごときの攻撃が読めないはずもない。

 さらに兵士たちの剣と辺士名のナイフがぶつかって見えない所から金属音が鳴り響き、ますます辺士名の居場所を雄弁に語る。


「あなたは何故ここにいるのでありますか」

「…………」

「言葉を慎んでも殺気と呼吸からわかるのであります」

「フン……!」


 あまりにもあっけなく自分の居場所を見破られた辺士名が炎の壁を飛び越えながら姿を現し、汚い鼻息を飛び越えたばかりの壁に吹きかける。

 赤井や米野崎と違う茶色のマントを羽織った姿は、やはりサッカー部のレギュラーだったそれではない。


「二人はいつからコーノハヤミの手駒になってしまったのでありますか?」

「河野はお前らのようなキモヲタとは違う、立派な陸上部のエースじゃないか」

「私やアニメや漫画やラノベに進んで縛られているように、あなた方はコーノハヤミに進んで縛られているのでありますな。

 それに陸上部が良いのであれば、なぜ上田君はぼっちなのであります?」



 そして赤井勇人以下、誰にも説明できなかった事実が二人の心を砕く。


 上田裕一と言う、顔も成績も平均以上で運動部のエース候補がなぜ不人気なのか、誰一人説明ができない。

「うるせえ、あいつはお前とつるんでるからそんなレベルだろ!」

「それだと上田君は女友達、いや彼女候補三人を持つ人赤井君と同じ事になるけど」

「黙ってろこの浮かれ女!」

 理屈の穴を簡単に突かれてひっくり返った二人が悪あがきを続ければ続けるだけ、株価は下落する。自分の価値をふた月で東証一部上場からジャンク債にまで低下させておきながらその事を認めまいとするその姿は、ヒトカズ大陸人から見てもあまりにも醜悪だった。



「やむを得ますまい」

「ウエダ殿には謝っておきましょう」



 できれば捕らえて欲しいという総司令官とウエダユーイチからの命令を熟知していたはずのシンミ王国軍をして、ここまでの結論に至ってしまった。


「今生の別れになってしまうかもしれないでありますな……」

「やれるもんならやってみろ!」


 とうとう赤井勇人にさえも得物である杖を構えさせる程度には失望された二人は、あくまでも目の前のスクールカースト下位者を見下ろす事をやめようとしなかった。



「わかった……」


 お山の大将をはげ山にすべく米野崎が魔法を構えると同時に、また金属音が鳴り響く。


 遠藤か、辺士名か。




 いや。




「ずいぶんとイケメンどもに守られてるようだなあ!」




 銀色の仮面の下からでもわかるような汚れてしまった声。


 二本のあまりにも長い剣。




 その全てが、シンミ王国軍の士気をくじいた。




「剣崎君……」

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