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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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尻に敷かれる男と尻に敷く女

 米野崎が多くの魔物を炎で焼いていた一方で、また別の一角ではまた別の男女による論争が繰り広げられていた。




「今よ!今こそよ!」

「ああ、うん……」


 女性の方が男性を押し、必死に力を引き出せようとしている。

 二人を守るのは十数名のコークと、数名の剣士。



 青色の前合わせの服を身にまとい、長い片刃の刃物を持ったちょんまげ姿の剣士。




 平たく言えば、サムライである。


「もう、何をためらってるの、今こそ行かなきゃ!」

「わかった、わかったよ……」

 男の手から、また数人のサムライが生まれる。サムライたちは刀を振り、コーノ軍へと斬りかかる。



「どうした……!」

「これがイチネンゴクミの実力か…………!」


 だが戦果は上がらない。十人相当までに増えたサムライたちが斬ったのはバッドコボルド一匹であり、ほとんど防御のためにしかなっていない。

 敵からは侮られ味方からは嘆息されてもなお、男の体に芯が入って来ない。


 それでも敵が倒れているのは、まったくその隣にいる女子のおかげでしかなかった。



「前田さん……変わったな……」

「あなたがシャキシャキしないからでしょ!」


 前田と呼ばれた女性の手から放たれた風の刃がサムライたちにてこずっていた魔物たちを次々と切り刻み、彼女の戦果を高めている。

 それと共にその前田の相棒であるサムライたちのリーダーの身振り手振りは大きくなり、サムライたちの攻撃力はちっともそれに比例しない展開だけが続く。


「ああもう!ここまで何しに来たと思ってるの!ちょっとごめん米野崎さん!」


 開戦からわずか二、三分でしびれを切らした前田が先ほどまでのかまいたちとは違う風を起こし、米野崎が熾した火を自分たちへ向けて飛ばした。その炎によって当然ながらまた多くの魔物がやけどを負い、そして前田の戦果になって行く。


「細川さん!あなたの役目は何なの!」

「ああ、いや……」

「まったく、どうしてそう極端から極端に行っちゃうの!今ここで必要なのはなりふり構わず力を出す事!」

「ああ、その…………」


 細川がここまでためらう原因が自分にもないわけではない事を、前田松枝はわかっていた。


 ついこの前、細川忠利が犯した過ちを。



(少し薬が強すぎたのは認めるけど、改めてもろい男の子ね。あの国が今後どうなるのか、全てを見守ることはできないけど、また一波乱起こるかもしれないわね。その事をなるべく気にしないようにお殿様たちは取り計らってくれたけど……)


 たらればほどむなしい物もないが、もし細川忠利が少しでも独断専行による正義に溺れていなければ、トードー国の後継者問題など起きようがなかった。

 今トードー国のお殿様ことコーコはこれまでの禁欲が嘘かのように女子たちを抱き、新たなる跡目を求めている。男女差別のない王家ではあるが、どうしても「コーコの子ども」は必要不可欠だった。



 だが、あれから十日。いや、たったの十日。


 公的にも前田の部下とされた細川忠利は、これまで必死に築き上げてきた自信を全部失ったかのようにただ上司の言う事を聞くだけだった。


(たったの十日間でこれまでの十五年間、いや少なくとも二ヶ月で築いて来たそれを壊されればこうもなるかぁ……)


 キラキラネームじみた名前を背負った人間の心にかかった負荷のせいで、彼の心は元から折れかかっていたのかもしれない。何事も全力で取り組む事が熊本藩五十四万石の二代目当主の同姓同名になった責任であると言わんばかりに、学問も部活も何もかも全力投球を続け、この世界でも全力投球をやめず、それで国を滅ぼしかけてしまって梁が折れた人間をどう叩き起こすか、コーコを含め自分たちなりに話し合いもした。




「テイキチ様がやれって言ってるの!」




 ————————————そこで考え出した切り札。




「わかった……!」


 カツを入れられた少年は力を込めてサムライたちを増やし、彼らに力を与えた。



 サムライたちの刀が不意を突き、逆に相手の攻撃が当たらなくなる。

 幻影から魔力を抜く事により判定をなくし、その判定を攻撃すべき存在へと叩き込んで敵を討つ。


 かつて見せたやり方が復活・再来し、戦場を優位にする。



「マエダ殿、お見事です」


 デジマがそうしたように細川ではなく前田松枝が賞賛を集めたのは、別に不思議でも何でもない。


 まったく緩慢だったホソカワタダトシに力を与えたマエダマツエは、ホソカワタダトシをうまく動かした指導者、と言うか調教師であった。



 助けるつもりでぶち壊した存在に対し、細川は今でも負い目を抱え込んでいた。

 実際一昨日にトードー国からこの戦場に向けて旅立つ際に毛むくじゃらの魔物になったテイキチに向けて彼は五分間も土下座し、涙をあふれさせて逆に引かれてしまった。


 その時忠利を立ち直らせたのは、テイキチの「立ち上がれ」と言う「命令」だった。



(私は忠利を尻に敷き続けるのかしら、この人には私がいなきゃダメだって思ってはなれられなくなるのかもしれないのかしら。でもそれを判断するのはまだ先でもいい、今はとにかく勝たなきゃ)


 思えば、前田松枝だって「前田まつ」と言う前田利家の妻そっくりの名前であり、忠利と同じ事になってもおかしくない。その名前のせいで中学時代彼女を「犬の嫁」とかバカにした同級生が今何をしているのか、そんな事はどうでも良かった。

 高校に入った時、自分となんとなく名前が似ていた彼の事を気にし、そのままなんとなく友達めいた関係になり、そしてそのままここに来てしまった。



 今後どうなるかはいい、とりあえずは、とりあえずは目の前の。




 その結果がどこにたどりつくか、そんな事を自分の中で整理しながら、前田松枝は戦いの風を魔王の門に向けて放ち続けた。

やっぱ「細川忠利」ってのもある種のキラキラネームだよなあ……。

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