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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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総司令官ジムナール

「この第三者視点いつまで続くの」

「これを含めて8話」

「さあ、この魔王の門を突破する!全軍!人類存亡の危機をかけて!」

「進め!」



 魔王の門と呼ばれる魔王城を守る最後の砦へ向けて、シンミ王国軍は攻撃を開始した。




「私も前線に出たいんだけどね」

「それはお控えください!」

「言ってみただけだよ」


 今さっき激しく宣戦布告したはずの人間が、あっという間に爽やかな笑顔になっている。これから始まる大量殺戮を前にしてそんな顔ができるのは、才能以外の何でもないのは確かに間違いない。

 この人物の両端にてジムナール総司令官を守るピコ団長とタユナ副団長も、このある種の天才の存在を前にして顔を引き締める事しかできなかった。


「とは言えこの世界を左右する戦いにて」

「なぜ後方に控えていろと」

「いずれ敵将は出て来る。その時のためだよ。だから妹も弟もいるじゃないか」



 シンミ王国軍の最後方に構える九人。


 最高司令官であるジムナール執政官、その弟のムーシ、妹のテリュミ、そして騎士団長と副団長。ムーシの親代わりであったワフーとザベリ。




 そして、オユキとトロベ。




「そんなに仏頂面をしなくてもいいじゃないか。取り分けお二人さんも」

「あたしはしますけど!」

「こんな時に控えていろとはどういう料簡なのですか!」

料簡りょうけんが聞きたいなら料金りょうきんをちょうだい」


 当然の如く不満を唱えたトロベをあっさり停止させるジムナールの手腕に、オユキもまた感心するしかなくなった。


「戦いってのは一人の英雄によっていきなり決まるもんじゃない。普通の兵たちの働きによって決まるもんだ。ウエダユーイチと言う英雄はここにはいないからね。

 切り札は先に切った方が不利なんだよ」

「ええ、そうです、ね……!」


 笑いの発作を抑えながら背筋を伸ばさんとする騎士様に構うことなく演説を続け、場の流れを持って行く。



「単純な戦力で言えばな、厄介な情報が入ってるんだよ」

「何が、ですか?」

「あの後騎士団に命じて有能な冒険者を騎士団に加入させたんだよ。具体的にはあの武闘大会の参加者をね。

でもその参加者の内数名が行方不明になっていてね」


 オユキと言う雪女が背筋を寒くしたのもお構いなしな総司令官の口から、次々と名前が飛び出す。



 デジマ、モトペジ、マセケ。


 そして、ゴシショー、ヤーロ。



「デジマたちには今前線で戦ってもらっている。でもゴシショーとヤーロだけどね、殺せば金貨十枚、捕まえれば十五枚だから」

「なぜまた……」

「複雑な話は何もないよ。おそらくはフェムトだね」

「ああフェムトですか……」


 フェムトと言う名前は、シンミ王国や旧ロッド国の子どもたちにとって魔王よりも恐ろしい切り札だった。言う事聞かない悪い子を連れ去るのがフェムトであり、フェムトに見つかったら魔王の手先として死ぬまでこき使われると言われ、何千何万単位の子どもがおとなしくなった。

「そのせいでえらく手をわずらわせてしまい申し訳ござらぬ……」

「そういうとこだよ、この戦いが終わったら父上と兄上にお願いして休暇を与えるからさ、趣味が鍛錬とか言うのは真面目通り越してかっこつけだよ」

 

 もっとも実際に行方不明になった子供の数は山賊や盗賊などの数百分の一であり、実際にはそういう「悪魔に魅入られた」人間をかき集めていたに過ぎない。それでも現世に絶望すればフェムトによって魔王軍に取り込まれるという呪いは世界中——————取り分けロッド国とシンミ王国——————に広まり、それがピコ団長やタユナ副団長の心を縛っていた。



「絶対的な自信を持ち、軸を持つ事は何も悪くない。でもあまり依存しすぎるとそれが折れた時人間そのものが壊れちゃう。あのミタガワエリカだってああなっちゃったんだ、だからいざって時のために逃げ道は必要だよ」

「逃げ道……」

「最初から全力もいいけどさ、そんな強引な戦い方では受け止められた時逃げる余力さえなくなる。戦いは勝つのが大事だけど、負けるのは小事だ。死んで勝つぐらいなら負け犬の方がよっぽどいいね」

「しかしこの戦いでは」

「あわてるなって言ってるだけなのに、そんなに戦いたいの?」


 総司令官は人の悪い笑顔を歴戦の勇士たちに差し向ける。


 はい戦いたいですと言う本音を封じ込められた一同の目の前で、武闘大会の参加者たちが敵味方に分かれて刃を交えている。


 そして魔物たちもフーカン軍とコーノ軍に分かれ、次代魔王の座を巡って戦っている。

 スケルトンが多いためか血は出なかったが、それでも亡骸は生まれ、その必要のない死が積み重ねられて行く。




「七匹のコークが一刀両断にされました!」


 そんな戦場の空気を支配せんとしたのは、一人の騎士だった。


 漆黒の鎧に身を包んだ騎士は両手にハンマーを持ち、技も何もなく振り回している。

 その拙劣な技を力で覆い隠すかのようにフーカン軍に殴り込み、屍山血河を作り出していた。



「来たか……」

「あの黒騎士は」

「いよいよだ……こっちも本格的に動くかな」


 時は来たれり。



 その七文字を頭の中で吐き出しながら、ジムナール総司令官はシンミ王国秘蔵の宝剣を振った。




「さあ、頼むよ。異世界の英雄たち!」

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