緑の龍の背に乗って
作者「中島みゆきの曲を聴きながらサブタイトルを付けるとこうなる」
本物の俺は、呼吸すらできなくなっていた。
(オープンカーなんてとても乗れそうにねえな……まあシートベルトがあるから別にいいけど……)
これまで以上に強い風がダイレクトに顔に当たる。台風とか春一番とか、そんな生易しいもんじゃねえ。
まあ実際時速何キロで何メートルの風が吹いてるのかわかりゃしないけど、それでも走っていても感じられない風が俺の体を襲っているのに変わりはない。思わずフーカンの背中にしがみつきたくなっちまう。
セブンスはそうしているかもしれねえと思ったが、後ろを振り返る事も出来ない。
「ガーゴイルたちの手によりコーノ軍は打撃を受けています!」
「そうか!」
こっちのドラゴンナイトの報告にもうんともすんとも言い返せない。ただ一人フーカンだけはまともに会話できているが、こうなると改めて俺がただの人間だって思い知らされる。
「このまま一気に突っ込みます!魔王の門を越え、魔王城へと!その上空さえ超えればもう魔王城は目の前です!」
魔王の門。文字通り魔王城の目の前の砦であり、コーノ軍の地上部隊拠点となっているだろう地。
(本当にやる気がないんだな、ポーズなんだろうけど……)
執政官様の女神の砦の争奪戦があるかもと踏んでいた目論見が外れた事はすでに知っていたが、まさか俺たちが戦った女神の砦と魔王の門の間の街道でさえもまともに兵がいないって報告を受けた時は驚いた。
魔王の門に戦力を固めているのか、それとも単に俺に自分がいかに平和を望んでいるか見せつけたいのか知らないけど、軍事的にも最高権威を持った存在のするようなやり方じゃねえ事はわかる。
「なめられてるんですねっ!」
「敵だと思われてないんだな!」
セブンスが叫んだ通りだ。
期日で言えば、まだもう一日あった。だからまだ考えているのかもしれないと思っていたのだろうか。五日間の期限とか言った所で一日目に行こうが五日目に行こうが四日目に行こうがこっちの勝手だ。俺にコーノの都合に合わせる理由はない。
「そう言えば叔父上もそうでした!」
「え?」
「あの人もボクを相手だと思わなかった!あくまでも育てねばならない存在だって思ってた!」
主従とか叔父甥とか、そんな理由があるならばまだわからないでもない。
しかし俺も河野速美も、ただの高校一年生に過ぎない。どんな力を持っていようが、どうあがいても俺らは高校一年生でしかない。同レベルの存在にそんなに上から目線でいられねばならないのか。
「それは違うと思います!」
「セブンス……!
「ユーイチさんは物語の中の王子様なんですっ!苦難に陥ったかわいそうなお姫様を迎えてくれる!私の、コーノさんの!」
「はぁ………………!?」
囚われのお姫様に救われまくるような王子様って何なんだよ。
実際キミカ王国やシンミ王国の書庫でこの世界のおとぎ話や児童文学も何冊か流し読みしたが、そんな話は一つもない。
(でも赤井は言ってたよな、プロポーズだって……)
自分と一生添い遂げるか、世界を滅ぼすか。
はたから見れば最後通牒以外の何でもないが、彼女からしてみればプロポーズそのものだったんだろう。
「なぜだぁ!!」
そして、その一世一代のプロポーズを断られて逆ギレしている可能性の高いコーノハヤミの手先が後ろから飛んで来た。
「ウエダ殿!あなたは!なぜ!どうして!」
「俺の望みはこの世界の平穏だ!そのためにコーノハヤミの力は邪魔なんだ!」
「ですから!コーノ様は!あなたが二度と戦わないと約束すれば!」
「出す出さねえの問題じゃねえんだよ!力自体が危険なんだ!その力を全て叩き壊さなければ世界のすべてが壊れる!」
脅迫以外の何でもねえプロポーズを受け入れて安全弁をやれ?
お姫様と一生純愛に生きる慈悲の化身みたいな王子様をやれ?
それならぼっちの方が数千倍以上ましだ。
「お前らもわかってるだろう!今の魔王もどきの危険性が!俺らを殺した後にはお前らが殺される!やがて草一本生えない不毛の大地が出来上がる!俺を刺すような草は危険だからな!」
「コーノ様はそこまでの事は望んでおりませぬ!ただあなた様に他人を傷つけて欲しくないだけと!」
「……でもお前たちは違うみたいだな」
確かにコーノには悪意はないのかもしれない。だがこのドラゴンナイトやガーゴイルは違うらしい。
「さあユーイチ殿!刀剣を捨てコーノ様の下へ!」
まだ、そんなことを言っている。
その結果。
血まみれのフーカンと、セブンスと、ガーゴイルと、ドラゴンナイトがまたたくさん生まれた。
そして、再びお姫様抱っこにされた俺が、消えた。
(ヘイト・マジックと分身魔法を足すとこうなるのかよ……)
その間に俺たちは、魔王の門上空の通過に成功した。




