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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第十八章 ウエダユーイチ、世界を救う!
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最後の朝食

作者「いよいよ最終章です!」

上田「ウソ吐け、これはあくまでも第十八章だろ!」

作者「いや、実質最終章だから…………!」

 ミワキ市に、みんなが集まっている。




 赤井と、市村と、大川と、倫子と、持山と、藤井と、田口だけじゃない。



 八村慎太郎も、細川忠利も、前田松枝も、米野崎克己も。



 あと、神林みなみ・木村迎子・日下月子も来ていたらしい。


「遠藤と剣崎は」

「依然として行方知れずだそうです」


 あとは辺士名義雄だが、あいつは三田川恵梨香と同じく牢獄の中だ。




「ったく、俺たちたまたま集まった一年五組のお仲間が、世界の命運をかけて戦うとはな、しかも敵味方に分かれて」

「こんな事になるなんて思ってました?」

「な訳ないだろ」


 セブンスの言葉に軽く答えつつ、俺は潮風を吸いながら伸びをする。

 いつもよりどこか厚着をしたセブンスは少しだけぎこちなさそうにしながらも肩を回し、俺に続くように深呼吸する。


「さっき、騎士の人が言ってましたね。エンドーさんもケンザキさんも行方不明だって」

「ああ……」

「私はきっと、コーノさんに利用されていると思っています」

「そうか……」

「でもそれならそれでいいと思っています、いやむしろその方がいいと思います」

「なんだそれは!」

「それならとりあえずは無事って事ですから」


 その上で俺よりずっと余裕がある。

 もう河野の事は正直諦めているが、それでも遠藤や剣崎、辺士名の事は何とかしてやりたいってのもまぎれもない本心だった。辺士名についてはこの戦いで上げた功績を盾に助命嘆願のルートで行くつもりだったが、所在不明の二人については最悪置き去りまであると思っていた。


「あの人はユーイチさんの気を引こうと必死になっています。ユーイチさんが何をしたら喜ぶか、だいぶずれているけどやる気にはなっています。おそらくお二人を助けたいのをはわかっているはずです。優しいユーイチさんのお願い事として」

「アハハハ……」




 河野速美がやっているのは、俺への媚売りとも言えなくはない。

 必死に俺に気に入られようとして、俺を惑わす全ての存在を取り除こうとする。


 俺が地面の石につまずいてすっ転べば、その石を粉砕するかもしれない。いや、その可能性を与える石を全て砕いて砂にしてしまうだろう。


「とても優しく慈悲深く、みんなの事を思ってくれるユーイチさん。そのユーイチさんの特別な頼み事だから聞いてあげる。そうして彼女はユーイチさんの支配力を強めて行くんです」

「俺に天下を取らせる気か」

「そこまでやりたいんでしょう、でもユーイチさんがどうしても言う事を聞かないと判断した場合、ユーイチさんは殺されるかもしれません」

「……だな」



 ———そして、理想の「上田裕一」を得られない事が分かった時点で、あいつは俺本人さえも殺してしまう。


 って言うか消してしまう。


 いろいろ悪い物を詰め込まれて変わってしまった俺に絶望し、俺の代わりを求めてさまよう。その間に「俺を汚した」奴を探しては私刑を与え、その私刑がさらに悲しみを生む。



「……改めて、やるっきゃないってわかるな」

「そうですね、私た、いやこの世界のためにも」


 本当なら背筋が寒くなってしかるべき話なのに、なぜか気合が入る。


「人生で二度とない決戦だな」

「どこまでもいっしょに行きます!」


 俺はセブンスと手を取り合いながら、俺たちの部屋を出た。



「これより朝食です」


 最後の晩餐ならぬ最後の朝食かもしれない料理は、あの執政官様の指示からか昨日の晩御飯の倍近くあった。

 見た目より大食いなセブンスに負けまいという訳でもないが、なぜだか俺もやけに胃が活発に動く。

 一応王宮で、王様とお姫様と一緒に食べてるって言うのに。


「まったくずいぶんとお二人ともたくさん食べるんですね」

「お姫様こそ、この戦いが終わった暁にはあの執政官様に」

「そうなんです、ですから私も私なりに無事をお祈りいたさねばなりませぬ……」


 俺ら庶民とは違うゆったりとした食器の扱いで食事を口に運ぶミユ姫様。リョウタ王様の喰いっぷりとは全然似ていない優雅さだ。


 国の住民みんなに慕われているらしいこの陽気で優しいお姫様の将来も、俺の手にかかっている。

「執政官様は大丈夫です」

 でもセブンスがサラッと言ったように、あの執政官様が死ぬとは思えない。

 たとえ一人きりになってもなんとなく戦い続け、この世界を滅ぼさんとする敵を破っていそうな気がする。そして平和になったと見るや、俺らのように姿を消すかもしれない。


「そうですか、その言葉を聞いて安心しました」

「ありがたい事です」



 確かに、戦争ってのは嫌なもんだ。


 王族のような力を持った存在が勝手にやりたい放題で始めて、力のない奴が駆り出されて害を被る。為政者はそれを忘れてはならねえ。その覚悟もなしに始めるのはバカでしかねえ。

 だがそんなバカを誰もやらないって保証はどこにもねえし、そのために結局軍事力ってのは必要になっちまう。その力に振り回され、覚悟もないまま戦争をやらかしちまうから人類ってのは世話ねえんだけどな。


「お気に召されましたか」

「はい……大変美味しく頂きました」


 二人して両手を合わせて深く頭を下げ、口をナプキンみたいな布で拭って自分なりに丁寧に折り畳んだ。


「それは、あなたの世界の」

「まあ、未熟者なんで不完全ですけど」



 自分なりの、跡を濁さないやり方。




 元の世界の人間としての自分なりの決意を、俺はこの世界の二人のお偉方に示した。

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