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もうすぐの四文字

「ユーイチー!」



 俺が復活した大川と赤井とともに街の復興に努めた日の夜の食後、オユキが執政官邸の廊下で俺に向かって話しに来た。


「ユーイチ、明日朝この街出るんでしょ」

「そうだな、南ロッド国に行きそれからセブンスと一緒に」


 オユキは今日も水を作っていた。

 彼女が言うには水ってのは水魔法や氷魔法によって供給される処も結構あり、サンタンセンのような「大河」があるのは珍しいと言う。

「シンミ王国の水って山から来てるらしいけどな」

「見てみたいのはやまやまだけどねー」


 相変わらずの調子のオユキだが、言うまでもなくそれが好ましい。


 面白いとは思わないにせよ、安心できる。そんなポジションになっていた。


「それで勝てるの?」

「勝てると思わなきゃ行かないよ」

「まあそうだよね、ユーイチは人間だもん、あたしと違って」

「お前も相当に人間らしいけどな」


 オユキと俺たちの違いは、氷魔法を無限に使える事ぐらいしかない。セブンスから比べるともっとその差は小さくなる。

「ありがとユーイチ、そういういちいちカッコいい事が言えるのって素敵だよ」

「あんまりくどいのはよくないって自分でも思うけどな」

「それだからモテるんだけどね、ユーイチって。あたしたちはみんなユーイチが大好きだよ」


 ずいぶんとまあもてはやしてくれるもんだ。

 あたしたちって誰って聞くのはこの世でトップクラスに野暮な愚問である事はわかっているし、素直に話してくれる目の前の100歳越えの少女を素直に美少女だと認めてしまっている自分にも微妙にツッコミたくもなる。


「俺はぼっちで恋愛経験もない。だから正直女性にどう接していいかなんてびた一文わからない」

「それが却っていいんじゃない?だってあんまり出来すぎてるとさ、なんかあたし要らないんじゃないかって思えてさ。でも自分の言う事をホイホイ聞いちゃうような子がいいんなら話は別だろうけどさ、そういうのってカッコよくないよ」



 その上でこんな風に鋭い一言も言う。

 

 確かに河野も三田川も、自分の思うがままに他人を動かす事を好みそう、って言うかそれ一点に全振りしている感じだ。そしてそれがうまく行かずにあんな風にかんしゃくを起こしてしまっている。


 ……実にお子ちゃまじみたお話だ。実際それで失敗した三田川は執政官様をして殺すより残酷だと思わないかと言われるほどにすっかり幼児退行してしまい、元の世界に戻った時にどうなるかわかりゃしない。



「それでこれ飲む?」


 俺が三田川の末路と河野の行く末を案じていると、オユキがカップを差し出して来た。

 完熟茶かと思ったが湯気が立っていない。まあいいかと思いながら口を付けると、やけに冷たい。

「アイスティーって言うんだよね、ユーイチのふるさとじゃ珍しくないんでしょ」

「まあな、ありがと」

「嬉しい、ほめてくれて!」

 味はと言うと、普通の完熟茶でしかない。もし普段飲んでいた午後の紅茶のような代物を飲んでいた上でこれを飲んでいたら、ふーんの三文字で終わらせていた気がする。


 だが今の俺には、作ってくれた気持ちとある種のサプライズがありがたかった。



「いやー、作った甲斐があった!」

「それは嬉しいな」

「本当にありがとうね……」




 そんなオユキの言葉が、いきなり途切れた。


 斜め上を向き、眉毛がまっすぐになっている。



「何だい」

「わかるよ、ユーイチってもうすぐ帰るんでしょ?」

「何を言ってるんだよ」

「アハハ、中段から言っても冗談だよ、アッハッハッハ」


 自分のギャグに自分で笑っている。これ自体は珍しくもないが、トロベもいない二人だけの状況で他に笑う奴はいない。




「それで私、ちょっとね、ここ数日必死に、書いてたのがあるの」

「えっ」

「まあ、受け取ってくれなくてもしょうがないけどね」


 この状況でいきなり顔を赤くして、そんな事を言われてそれ以上の反応のなかった俺は冷たいのかもしれない。

 ラブレターなのか。

 だとしても俺はそんなもんなんぞ受け取ったことがないからわからないし、正直渡されてもって言う気分でもある。


「わかってるよ、ユーイチの頭の中。ユーイチがどうするかって。逆に言うけどそうしなかったら私だって怒るからね」

「そうか」

「でもさ、あなたと一緒に旅ができて楽しかったよ、これ、大事にしてね」







 その言葉と共に渡された、一冊のノート。


 渡す物を渡して背中から冷気を漂わせながら去って行くオユキの真っ白な背中が、ギリギリ残っている夕日に照らされて輝く。


 俺は本当に多くの存在の運命を変えて来たもんだと、改めて思いながらノートを開いた。







「猫が寝込んだ」

「犬は居ぬ」

「この銅の剣どうつるぎ?」







 ……予想はしていた。

 だが一ページだけで十個もネタが並び、それが何ページも続くのを見ると情熱を感じられる。



(書き慣れねえノートとボールペンで……)



 必死にダジャレを書きまくっている姿を思うと、紛れもなく本物だって事はわかる。




(お前の気持ちは受け取ったよ)




 俺はオユキのノートをノーヒン市で買ったリュックサックにしまい込み、もう別の部屋に行ってしまったオユキに向かって手を振った。

オユキのダジャレってシリアスになるたびに使いにくくなっちゃったなあ。

という訳で今回まとめてと言う次第です。

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