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柔道家とオタク

 休息二日目。




 雨だった。


「大した降りじゃないけどな」

「それでもまだ仮設住宅が多いからね、みんな不自由しているよ」

「雨水の管理ってのはどうしてるんだろうな」

「考えた事もなかったな、不思議なほど川を見なかったし」


 海はあったが、川はなかった。


 ミルミル村には川があったが、その先の町にはそれらしい場所はほとんどなかった。せいぜいトードー国で小川を見ただけだった。


「川もないのに文明が発展するのかなって思うけどさ」

「地球は大河の側から文明が発展し、繁栄を築き上げたのであります」

「この世界は地球とは違うかもしれないじゃない、それで十分だと思うけど」


 クチカケ村のような寒冷地はあるが、後はあまり変化のない気候。


 って言うか雨が少ない。もうひと月以上、雨に降られていない。ミルミル村にいた時が最後で、傘のさし方さえも忘れてしまいそうになる。


「本当なら大した事のない雨だけど、この状況じゃな」

「それより上田君はいつまでこの街にいる気でありますか」


 で、そんな雨の中俺は木材を運んでいる訳だ。持山のチート異能で運びまくった木材をそれぞれの場所に運び、町を立て直すお手伝いをしている。

「セブンスもセブンスよ、本当に真面目って言うかなんて言うか」

 で、セブンスは相変わらずメイドのように働いている。もうBランク冒険者だってのに俺に負けず劣らずただの肩書きであるかのように何も変わらずに。


「私が彼女を促した方が」

「あんたじゃ無理よ」

「おい!」

 それで助け船を出さんとした赤井に対する大川のつっけんどんな言葉に思わず大声を上げてしまうと大川が目を丸くして固まってしまい、俺も反動が来たように動けなくなってしまった。



「あ、いや、その……ちょっと……上田、えっと……」

「あのさ大川、俺だって勝手な事をしてるのは同じだけどさ、ありきたりだけどこんな状況においてわざわざ仲間うちで火種を巻き起こすなよってさ」

「そう、確かにね、確かにその通りよね。でもあたしはね」


 好き嫌いってのはどうしても存在する。どんなに大きな戦果を挙げようとも赤井はオタクという名の大川にとってもっとも嫌いな人種であり、その言葉を素直に聞き入れられないのは明白である。


「まあその、要するにね、赤井ってどうしても理屈っぽいのが気に入らなくて。そりゃ理屈ってのは必要だけどね。赤井がモテるのはわかってるけどそれも何か理屈っぽくて、正直リアルな恋愛ってのからは一番遠そうな気がして」

「三人も彼女いるし聞いてみれば?藤井はここにいるし」

「昨晩会ったであります。藤井さん曰く、セブンス殿はもうその後に頭が行っているのではないかとの事であります」



 その後。


 最終決戦の後、どうするか。その答えはもう決まっている。



「確かにな、悪いけどお前だったら舌先三寸で丸め込みそうだな、しかも愛込みで」




 ————————————この戦いの後セブンスは、付いて来ると言い出すかもしれない。

 戸籍も何にもないまま、俺たちの世界へ。


 おそらくは魔法も使えないし、使えたとしても別の意味でまともに使えない世界へ。


「愛込み、確かにそうかもね。でも一番端的なことを言えば私は赤井が嫌いだから、セブンスに触れて欲しくなかっただけ」

「話を聞いてるのか!」

「セブンスの気持ちは理屈じゃないのよ。赤井はそれを数字に計算しようとして当てはめちゃう気がするから、そういう感覚がどうしてもってだけ」

「わざわざ溝を作りに行くなって言ってるんだが!」


 それでも俺が腹を立てて大川に迫ると、大川の手が俺をかすった。

 ——————ああ、ぼっチート異能か。



「ああ大川、悪いな俺も、一方的に感情をぶつけちまって。ぼっチート異能ってのは本当にずるいよな、相手にいくら歯嚙みさせても威張ってられるんだから」

「確かにね。そういう感情と付き合うのって難しいよ。三田川も河野もお子ちゃまなんだよね、人の事言えないけど。ねえ上田、私って醜い?」


 で、いきなり涙目になって上目遣いでこっちを見上げて来る。


 急に女の子が降臨し、訴えかけるようになっちまっている。


「あのさ、いくら俺にぼっチート異能があるからって」

「そうじゃないの、私はどうしても自分の感情を呑み込み切れないの。だからどうしても無駄に放出しちゃう。それで無駄に傷つけちゃう」

「いつ何時だよ」

「たった今赤井、いや赤井君を」

「お前は醜くねえよ。理由はまあ、そういう事だよ」


 赤井はさっきから何も言わないでじっと見ている。


 そんな赤井を恐れるかのように俺に寄り付こうとする大川の姿と来たら、なんか守りたくなっちまうじゃねえか。


「大川……」

「これだけ信じられない事に出くわしてるはずなのに、私ってどうしてこうなのかな」

「いや、それがお前らしくていいと思うけどな。一人ぐらい地に足のついたのがいないと」

「ありがと…………」




 信じられねえ事、か……。


 どう粋がった所で俺らがただの高校一年生に過ぎねえって事をこれまで幾度も思い知らされて来た。

 何も俺だけじゃなく、赤井も市村も、この大川も。


 それでむき出しになった弱さを目の当たりにして、俺は改めてみんなを守らなきゃいけねえと誓った。

赤井自体がハーレム建築済みなので……。

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