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血が流れるって事

 回復魔法で、あっという間にシンミ王国軍の兵士の傷を塞いで行く。



「…………」



 積み上げて来たもんをぶち壊しにされたジャクセーは何のリアクションもしない。


 文句を言ってしかるべきはずなのにじっとこちらに手を向けたまま、目さえも見せることなくこっちをにらんでいる。



「ほらね、ね、ね?わかるでしょ、この場に傷付いた人なんて」

「バカ」




 これ以上罵倒する気にもなれない。




 マッチポンプどころか、転がっている火打石にダムの水を全部放水するような悪質さ。




 そんな底なしの悪意に対する反論など、この一言で十分だ。




「そんな言葉言っちゃダメでしょ、バカなんて汚い言葉」

「言わせてるのはお前だ」


 部下に傷付けさせておいて自分で回復させるなんて、この世でトップクラスに質の悪い悪行だ。


「ノーヒン市で見たよ。誘拐、監禁して子どもたちの心を折り、そこに炊き出しという形で食を与えたマフィアたちを。数人の子どもが見事にからめとられた、その子たちは未だにトードー国に帰ろうとしていないし、自分を誘拐したはずの親玉を慕っている。その調子では親兄弟親類縁者が来てもなつかねえかもしれねえ。まあ見事に親族関係をぶち壊してくれたもんだよ」




 そして、俺は同じ真似をした連中を知っている。


 クタハって言う黒猫娘はトードー国でそれなりに幸せだったはずなのに誘拐され、いつの間にかあのマフィアのボスに取り込まれ、弘美や倫子が必死に説いても聞こうとしなかった。

 今頃コンビニ店員をしているのだろうか。


「俺がお前をぶん殴る理由がますます増えただけだ。凶悪なマフィアの大ボスと自分がやっている事の区別もつかないのならお前の呼び方はバカで十分だこのバカ」

「私は正しいの」

「うるせえよこのバカ」


 俺は言いたい事だけ言って剣を振る。

「ユーイチさん、お助けします!」

 セブンスがそんな俺に続くかのように俺の分身を送り込み、コーノハヤミとジャクセーを狙わせる。



「む…………」


 この予想外の反撃に少し戸惑ったかジャクセーが攻撃を焦り、目標を俺にしてしまった。

 俺に向かって多数の魔法が飛んで来る。もちろん当たる事はない。



 実はこの時西側から攻撃をかけていた俺の後ろには兵士はおらず、後ろにそれた所で痛くもかゆくもない。フーカンについた魔物たちによる同士討ちは往来の東側だから、そっちに向かう事もない。オユキと倫子はそっち側で敵を刈りまくり、敵の戦力を削っている。




(チッ、まったく効果覿面だな!)


 だがせっかく天然のヘイト・マジックが効いているのに、正面にいたシンミ王国軍の皆さんが動かない。

 目が泳ぎ、向かって行ったとしても俺らで手が足りている魔物軍にしか行かない。



 敵であるジャクセーによって死にかけの状態に追い込まれ、同じく敵であるはずのコーノハヤミによってそこから回復される。

 そんなまさしく生殺与奪をほしいままにされたも同然の行いに、みんな固まってしまったのか動けない。



「セブンス、真正面に向けて」

「はい、でもMPもあまり残ってません!」


 セブンスはさらに五人の分身を出すが、どうやらこれ以上は難しいらしい。


 ならどうするか!




「このおおおおお!」




 俺自らやるしかない!




 全力で名剣と言われていた剣を振り、ジャクセーの命を奪いにかかる。

 ジャクセーは時に飛び、時に魔法で受け、時にその身で受けながら攻撃を放つ。

 だが対象が俺になっているせいか当たらず、じわじわと効いている気がして来る。

 あくまでも効いている気がするでしかないが、それでも状況的には悪くない。


「裕一!」


 雑音を気にする事もなく俺は剣を振る。気分が高揚し、剣の重さもなくなって来る。

 これが自分なのかと思えるぐらい強くなった気がする。

 あるいは田口の力かもしれないと思えて来る。


「うっ……」


 ——————よし、また打撃を与えられた!


 コーノが回復させるかもしれないがそれでもいい。向こうがこっちの心を折ろうって言うなら、こっちも折ってやるまでだ!


(まだ決定打がないのは俺の弱点だが、それでもこのまま行けば!)




 自信が身体から湧いて来た。

 俺が何とかすると言う覚悟を決めたからか!




 いや、それだけじゃない!




「覚悟ぉ!!」







 いきなり飛び出した、戦場を白く染めるオーラ!




 オーラの主のイケメンボイス!




 そしてそのオーラの一撃!




「ぬぐぐぐぐぐ……!」



 市村の一撃はクリーンヒットとまでは行かなかったが、俺に向かって魔法を放っていた右手を叩き斬る事は出来た。


 体が白く焼け、回復魔法でも無理そうなほどになっている。

 青い血が流れている。斬られたはずの右手は見えない。


 パラディンのオーラによって骨ごと焼かれたと言うか蒸発したのかもしれないが、改めて壮絶だ。



「よし!俺が一気にとどめを刺す!」


 ずっと動きのなかった市村が溜めに溜めていた一撃が決まった、おそらくは田口の力も乗っかっていたのだろう!

 この機に乗じ一気にとどめを刺す!




「うりゃあああ!」



「ぐはあああああ!」


 ……え?まだ剣を振り下ろしていないのに、なんだこの声は!




 やけに近い……







「市村君!!」

「赤井、どうしっ……!」




 市村の鎧が壊れ、胸から大量出血している!!







 そして下手人は、ジャクセーの隣から消えていた!

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