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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第二章 冒険者デビューしてみた
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オタク僧侶と女性柔道家

「ああどうなの、悲願の世界に来た今の感想は」

「ずいぶんな物言いだな、出会って第一声がそれとは」

「正直昔から思ってたわよ、しかもその格好からするとずいぶんと幸運みたいだけど、本当にお幸せそうで」




 実に塩対応だ。俺が袖を引いても、構う事なく舌を回す。


 大川のようなアスリート様から見てみれば赤井のようなオタク、でないとしてもガリ勉野郎は正直不愉快でしかないのかもしれない。


「おい大川、いて二十人の仲間の内一人なんだぞ」

「まあわかってるけどね、赤井を見てるといろいろこの先が心配になって来て仕方がないの。女の子との接し方がわからなくて、勉強ばっかりして家事とかできなさそうで、弁護士志望だとか言うけど司法試験だなんてあんな狭い門を潜り抜けるのに失敗したらと思うと」

「大好きなんですか?」

「何言ってるのよ!私はこういう人間を見ているとイライラするだけ!」

「でも好きじゃなきゃこんなにあれこれ言えないと思います」



 ツンデレなんて言葉を知らないし、ついでに宿屋からここまでの徒歩一時間足らずの間しか大川と接していないセブンスからはそう見えるらしいが、大川にそんな気持ちがないのは市村も俺もよくわかっていた。


 大川はあまりにも強すぎるせいか、勝手に「付き合いたければ私を倒してみろ」と思われているのかどうか知らないがそういう話がないし、そういう事を気にする性質でもなさそうだった。強いて言えば運動部同士遠藤や田口とは一応仲が良かったが、そのレベルだって所だ。



「あまり人をむやみやたらに恐れない方がいいぞ」

「私に恐怖心など!私はただその、単純に赤井や三田川のような」

「あっちを見てもこっちを見てもその手の奴は多い。俺に言わせればそんな膨れ上がった市場から目を背け続けてどう生きられるのか、お前のがむしろ不安だよ」




 また、大川が倒れた。


 一体何をしたいのかすぐわかる、俺を投げ飛ばしたかったのだろう。


 チート異能がなければ俺が背中をじゅうたんに付けていたはずであり、改めて自分のチート異能に感謝すると共に、大川の心の中のオタクへの嫌悪の根深さを思い知った。

 有名大学の駅伝ランナーがそういう類の代物のファンであり、それを作る会社に入社したと聞かされた時に俺が笑ったことなど大川は知らないのだろう。




「大川さ……お前非常にみっともないぞ」

「上田がさ、そんな力を」

「敵を侮ると痛い目に遭うは万国共通なのであります」


「で、そのミーサンカジノってのは?」


 投げ飛ばす専門家とは思えないほどの醜態を見せながらも、大川の目は全く死んでいない。

 まあずいぶんと意欲的で、かつ哀れっぽく見える。あの大きな大川が。


 セブンスに手を取られながらバーカウンターに座る大川は、深くため息を吐きながら俺の方ばかりを向く。大人っぽいを通り越して、急に老けたみたいだ。そのくせお酒が似合う様子もない。



「お酒じゃない飲み物ありますか」

「ないよと言いたいけどな、ここでは未成年もいるからな。はい牛乳」

「……ますます遠藤君染みているであります」


 牛乳を一気飲みしてそのコップを握りしめる姿と来たらまさに酔っ払いだ。

 いつのまにか加わってた市村なんか夢への勉強だと言わんばかりにその格好を真似してやがる、案外趣味悪いんだな……と言うか結構ウケってるっぽいし。




「それでとりあえずミーサンカジノだけどな、あそこはこんな客は来ない。男臭い場所だ」

「だいたいがそういうもんじゃないの」

「女性の店員すらいないようなのであります。オーナーであるミーサンと言う女性ひとりが男を囲っているような状態で、照明もまるでネオンサインのようであります」

「そこまではわかるわよ、見れば。それで」

「ご覧くださいであります、このカジノのお客様を」




 男も女も、家族連れ(さすがに子どもは成人してるが)もいる。文字通り老若男女が遊べるリゾートだ。さすがに飲み食いなどはペルエ市と比べると高いが、その気になれば一日で行って帰って来られる距離だからそういう客も多い。


 俺らにとってカジノってのがいかに後ろ暗くて怪しくて危険なもんだとしても、この世界の人間にはそうじゃねえって事の何よりの証拠だろう。



「それで、悪のぼったくりカジノであるミーサンカジノとやらを潰すつもり?」

「ペルエ市とシンミ王国のはざまの山道は山賊の住処でありましてな、退治しても退治してもなかなか全滅できないと言われているのであります」

「意味が分からないんだけど」

「山賊にしては装備が良いそうなのであります。時にはその山賊同士の内輪もめがあるようでありますが、どうやらその勝者がミーサンカジノで散財しているようであります」

「賞金首って発想はないの?」

「写真をどうやって撮れと言うのであります?」

「特徴を絵に描けばいいじゃない」



 大川はいちいちしつこい。

 こんなに目の前の相手に執着するような人間じゃなかったはずだ。そんな事もわからないのとでも言いたげな上から目線をしながら、デブであってもチビじゃない赤井を見下ろしている。


「上田を見ろ大川、上田はこんな時でも泰然としている。なぜさっき上田を投げ飛ばそうとした?それこそ俺たち警護役の出る案件だぞ」

「それはね、ただ遠藤君のような立派な存在がそんなことになってるだなんて信じたくなかっただけでね!」

「宿屋でも勝手に転んでたのは、やはりそういう事だったんですか?」


 セブンスからその行いが二度目であった事を聞かされた市村は自分の頭を叩き、赤井の背を撫でた。

 赤井と市村はもうひと月近く命のやり取りを共にして来た身だ、いつの間にか芽生えた友情があってもおかしくはない。男女差とか恋とか以前に、俺のような優等生でない人間だってわかる理屈だ。


「この世界に来て俺も赤井も上田もひと月以上過ごした、変わるには十分な期間のはずだ。遠藤だって変わったんだよ」

「まったく遠藤遠藤、遠藤君の何を知ってるっての?」

「それはお前だって大差ないだろ」

「ああそう!それで今遠藤君はどこ!」

「知らないであります」



 大川はもういいとばかりに牛乳代の銅貨三十枚をテーブルに叩き付け、だったら自分で探してやると言わんばかりにそっぽを向いた。



「そもそもの問題として、山賊がこうも跳梁できるのは何者が後押しをしていると考えるのがやはり自然と言う物でありまして」

「ああはいはい、私は失礼します!ったくいい加減三次元に興味を持ちなさいよ!」



 赤井がせっかくまだ話したい事があると言うのに、大川は学校にいたのと同じ調子で喰ってかかるばかりだった。


(ここでチート異能がある事を言いふらすべきかもしれねえ、インチキとか言われようが別に痛くもかゆくもない。少なくとも大川の恥は拭えるだろうしな)


 今の遠藤が危険な存在だと言う事をどう伝えたらいいのか、その方法を俺は知らない。市村ですらまるで勝負にならないほどに凝り固まった大川をほぐす事の出来る存在はいないのか。

(お前はこの世界で一体どんな奴に会って来たんだよ……!)

 そういう不満を解決してくれるような人間がいたはずのに!




 俺は大川にその事を問いかけようと思って席を立ち門をくぐろうとすると、大川の大きな背中の真ん前に一人の男が立っていた。



「お前、ユーイチじゃないか。こんな所で何やってるんだ?」



 エクセルだ。


 エクセルは俺の姿を見て目を大きく見開き、そして口を緩めた。

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