魔王城への街道
「ここが女神の砦ですか?」
「ああ」
ほどなくしてたどり着いた、石造りの武骨な砦。
女神の砦なんて肩書がなければただの崩れかけの砦だ。
「ロッド国と魔王軍が奪ったり奪われたりしながら修繕と破壊を繰り返していたと言われております」
この砦を作ったのは魔王軍であり、ロッド国軍なのだろう。実用性重視の気風を持ってそうな両国ならこんなふうになるのもわかる気がする。
「ここから北西へ四時間ほど行軍した先に魔王城があり、その前に魔王の門と呼ばれる砦がある。その先が魔王領こと旧マサヌマ王国だ」
「旧マサヌマ王国の住民は魔王に」
「もう百年は経っております、反抗の芽は完全に摘まれていると考えるのが自然でしょう。ましてや長年戦争を続けて来たのです。ロッド国が魔王領の人間を殺した可能性は十分あります。
ああそれから実は北ロッド国はここからブエド村への大きな道を切り開こうとしていたとも言われております。ブエド村から南ロッド国との結び付きを高めようとしたとも」
確かに北ロッド国が南ロッド国との結び付きを深めようとしたのは当然の流れであり、シンミ王国領となった地域を越えなくて済むようにそうしたのはわかる。だがその先にあったのが何かと思うと、俺は素直に応援しきれない。
「河野も三田川もそういう事に力を使えばいいのに」
「そういう事のためには使えないのでしょう、私だってユーイチさんのために使いたいんですから」
どんな大きな力も、結局方向なしでは意味がない。そして方向を決めるのは本人であり、その方向を間違うと三田川のようになる。
「問題は敵がどう動くかと言う事です」
「とりあえず俺たちだけ出ます。皆さんは控えていただき、そして危機に陥った際にと言う事で」
「俺たちとは」
「俺と、セブンスで」
いずれにしても、敵の出方がわからない以上先鋒は俺がするしかない。河野はもうぼっチート異能の弱点はわかっているだろうが、それでもヘイト・マジックと合わさればかなりの効果があるのは変わらない。
「ユーイチさん……」
「大丈夫だ、いつもの通りにやってくれればいい」
「はい…………」
セブンスはうつむきながらも、かび臭い女神の砦を出た。
北西に向かう道に、かつての戦役の跡を物語るような折れた武器もあり、おそらくは死体も転がっているだろう。
「途中からは山道になる。もともと林道で視界はよくないから、上下左右に気を付けなくてはいけない」
「そうですね……」
「どうした?って言うかヘイト・マジックは」
「まだ、戦いが始まってからでいいかなって」
セブンスは土の匂いを嗅ぐかのように下を向き続け、じっと俺に付いて来ている。
セブンスは、どれだけ変わっただろうか。
ずっと俺と言う存在と一緒にいた少女。戦えない時はウェイトレスや掃除をして身銭を稼ぎ、戦えるようになってからはその身を張り続けてくれた勤勉で勇敢な少女。
(しかし正直、どうしてさっきから元気がないんだろう。正直おかしいな……)
そのセブンスが、ここまでのそのそと動くのは初めてだ。俺が五歩進む間に四歩しか進めず、俺があわてて足を止めた事が二度もあった。
「疲れてるのか?」
「いや、そんな事は!」
「でも正直長引かせたくない。長引かせれば長引かせただけ、さらに世界が乱れる」
「そうですよね……」
「だから、一日でも早く解決に近づきたい。そのために、俺たちはこうして進んでいる」
伝説の勇者でもあるまいが、俺がなんとかしなきゃいけねえって義務感だけは芽生えたつもりだった。
世界を平和にするため、この世界でできる最後の行いとして……!
「キャーッ!」
「来たのか!」
そんな感慨に浸る暇などあるかいと言わんばかりの火の玉の一撃に、俺は身をすくめるより他なかった。
「セブンス!ヘイト・マジックを!」
「はいっ……!」
セブンスは歯を食いしばりながら声を絞り出すが、肝心の魔法が来ない。
集中攻撃のターゲットがセブンスになっているようだ。
「ごめんなさい!私が……!」
「くそ、油断したか……!」
その後のドラゴンナイトやガーゴイルの攻撃も、俺ではなくセブンスに迫っている。
まったく、セブンスを狙って俺に当たると言うまぐれ当たり狙いか!見事な作戦だよ!
「このぉ!」
俺はまぐれ当たりが来るのを承知で剣を振り、ガーゴイルの首を刎ねる。
その隙にヘイト・マジックが飛び込み、俺の体に命中した。
「さあここからだ!」
改めて反撃だとばかりに、たかって来た連中に向かって剣を振る。
セブンスは分身魔法を唱え、その魔物の塊を襲わせる
「キャーッ!」
そのいつもの戦いは、二発目の悲鳴によって遮られた。
「今度は何だ!」
かろうじてセブンスが避けた攻撃。
それは火の玉ではない。
「チッ……!」
二本の剣による突進攻撃。
その主の起こすとんでもない風に呼応するように木が揺れ、葉を落とし、そして枝さえも落ちる。
「まさか!」
そう、こんな攻撃ができるのは一人しかいない!
「河野!」




