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ありふれた神殿の先で

「わしがツカオサである。貴公がウエダユーイチとセブンスか」

「はいお、いや僕がウエダユーイチです」

「セブンスです」


 決していばりくさった所はなく、温和で懐の広そうな王様。


 ……実は珍しくなかった。


「ウエダ殿の事はジムナールやムーシ、アカイ殿らから既に聞いている。我が子らによくしてくれたようだな」

「ただのぼっちですから、少なくとも害毒ではなかったとは思いますけど」

「まあいい、言っておくがムーシの口を通してわかっているのだからな」


 ツカオサ王様は、顎髭を撫でながら笑った。十二月二十四日の使者を思わせるような立派なひげがきれいで、視線がそっちに行ってしまう。

「これこれ」

「ああ申し訳ありませんつい……」

「構わぬ。それで我が息子のことだが」

「ああ、田口、いやムーシ王子は決して自己主張は強くなかったですけど真面目で」

「ジムナールの事を聞きたいのであろう?あの子は不思議な子だ。まるで生まれた時からここにあるべきだと言う不思議な感覚を持ち、そして多くの存在に慕われて来た。決して威張ることはせず、飄々と淡々と振る舞う。わしさえもわからん。ムーシにも生まれながら不思議な力があったが、ジムナールはそれ以上だ」


 ジムナール執政官様って人は、親から見ても不思議なお方らしい。ついでに田口の力ってのが俺らのようなぽっと出のチート異能でなかった事にも驚いたが、それ以上の力ってなるとそれこそ相当な代物だ。


「あの、それは……」

「わかっておる。時に、第三の魔王が現れたと」

「ええ、それが……」

「コーノハヤミ……あれがウエダ殿やアカイ殿らの旧友だと」

「ええ旧友です」


 旧友。そう、旧友。

 確かに幼なじみのお姉ちゃんかもしれねえ。でも今の河野はただの魔王だ。


「彼女の力、底が知れぬ。わしもジムナールから聞き及んでおったが、彼女の力は初代の魔王をはるかに上回ると考えざるをえない」

「二代目とは比べ物にもならないと」

「ならんだろうな。わしはジムナールの見識を信じておるが、二代目のミタガワエリカとやらは三代目の魔王の傀儡だったのだろう」


 確かにその通りだ。

 三田川は自分では好き放題やってたつもりだったけどその実はほぼ河野の操り人形だったんだろう、その気になればいつでも叩き落とせる程度の。


「そしてその三代目の魔王は、かなり広く深く根を張っていたと思われる」

「あのギルドも」

「そう。初代のそれと同じように用意周到だった。ミタガワエリカに呪われたCランクを与えた十五年戦士もおそらくは」

「ちょっと待ってください!するとソウギって人は!」

「ああ、おそらくはコーノハヤミの手駒だったのだろう。そんな存在を信じてしまう程度には我が国も甘かったと言う事だ」



 そして、次の言葉はもっと恐ろしかった。


 あのソウギって人がギルドに勤めて十五年?まだ十五歳のはずの河野が?


「しかし初代の魔王の」

「初代の魔王は旧マサヌマ王国を支配していたに過ぎん」

 俺の愚問は当然のごとく簡単に説き伏せられるが、それゆえにますます彼女の恐ろしさを引き立てる。

 河野はゼロ歳の頃からそんな事をしていたのか。ハイハイもできないような年から、そんな計画を立てていたのか。あるいは、この世界に来てからエクセルのように何かを施したのか。いずれにしても三田川が気の毒だ。


「それでだ……」







 王様はゆっくりと立ち上がり、俺たちを引き連れて歩き出した。


「どちらへ」

「黙ってついて来い」




 さっきまでとは違う、この世界の「王様」から聞かされた重たい言葉。

 その言葉と共に俺を含むこの城のみんなから言葉が消え、残ったのは足音だけ。

「……意外だな。ここまで皆寛容だったのか」

「はい……」

「弱っていたからだろう。だがそれは今の我々も同じだ。弱っている時に強者ぶって何の得がある?強者とは異邦人を前にして弱みをさらけ出す者、弱者とは異邦人を前にして強みをさらけ出す者と聖書にもある」


 キミカ王国も、トードー国も、問題を抱えていた。自分たちだけではどうにもならない問題があったからこそ俺たちに望みを託したのだろうか。


「我が国とて悩みはある。単純に魔王の跳梁を許したくないからだ。そのために君たちの力を借りるのは心苦しいとしか言えないが、二人とも純粋に戦ってくれるのだろう」

「ええ、俺はみんなを救い出して元の世界、ムーシ王子にとっては亡命先だった世界へと帰ろうと思っています」

「私は、その、ユーイチさんのために……」

「それでよい!」


 王様は力強く太鼓判を押しながら、歩くのをやめない。


 階段を降りてどんどんと下がって行き、やがて地下へとたどり着く。

「…………」

 そしてシンミ王国のそれっぽい紋様が付いた門を十秒ほど見つめ、開くのを確認するや再び歩き出した。

 網膜認証みたいな仕掛けなんか知らないが、おそらくは王家の人間にだけ許された秘密。


 そして。


「これからの話は、聖域でしよう……」

「聖域?」

「そう、かつて女神様が降臨した地……いかなる魔の力も寄せ付けぬ地……」


 魔法陣のような紋様に向かって、王様は力を込めた。


 一瞬気が遠くなり、そして気が付くとそこは、文字通りの神殿だった。




「これって……」

「ああ、神殿だ」




 パルテノン神殿のような白い柱が並び立っている。



 確かに神々しいが、異世界的な感覚はない。



「この神殿を作ったのは」

「女神様だ。このようにせよと」


 女神が俺らの知っているような神殿を作るのだろうか。

 偶然の一致なのか。

 偶像崇拝を禁止しているためかその手の像や絵はないが、それでもどこか二番煎じ風味のする神殿。


「この先の空間で話そう」


 そして奥の部屋。

 やはり、どこかで見たようないかにもな神殿の部屋。床も壁も水瓶も白い、よく言えばシンプル、悪く言えば味気ない部屋。




「ここは……」

「聖域の中の聖域と言われる地、英雄を作った部屋と言われている」

「英雄を作った部屋!?」


 王様はいきなり、部屋の中で比較的存在感を持っていた水瓶を持ち上げ、その水を床に撒いた。

「ちょっと!」

 俺らの声が聞こえないかのように、王様は水を流す。白かった床が灰色になり、池が出来上がるのも構うことなく。


「悪いが、こうしてこの水を撒く事によりこの部屋の防備は完全となる。魔王でさえも阻む事は無論盗み聞きさえかなわなくなると」

「先に言って下さいよ」

「それほどまでに重大な話なのでな、人の悪い話だが。少し試させてもらった。どうかご容赦願いたい」

「そりゃそうですよね」


 案外茶目っ気もあるらしい。そういうとこは執政官様に遺伝したのかもしれないと思うと少しホッとする。




「それほどまでに重要な事なのだ、これまでのそれとは違うからな」

「どう違うんですか」

「ウエダ殿にAランク冒険者、セブンス殿にBランク冒険者の称号を授ける事だ」

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