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シンミ王国城

 出会った時より、少しだけ大きくなったドラゴンの背に乗っかった俺とセブンス。



「すごいですね、ドラゴンに乗れるなんて!」

「本当だよ、まったく!」



 もっとも、フーカンのポテンシャルのおかげで搭乗時間は三分足らずであり、あまり楽しむ時間はなかった。



「アカイさんは怖がってましたけど」

「俺だって怖いよ」

「ああそうですか、ちょっと飛ばしすぎましたかね、ごめんなさい」


 ……本当に怖いのはドラゴンより、そのドラゴンを使い走り同然に使う執政官様だと言う言葉を飲みこみながら、俺たちはシンミ王城の門へと降り立った。


「ここに来るのは二度目だよ」

「えっ」

「以前、物資を届けた事があってね。赤井や市村と一緒に。その時はここまでだったけど」


 王城らしい、立派な城門。

 あの時は城門で物資を受け渡すだけだったけど、今度はこの中に入る事になる。


「お待ちしておりました」


 そんな思い出に浸る暇もなく、城門が開かれる。


 開門してくれた兵士さんも深々と頭を下げ、ひげを生やして燕尾服を着た人までいる。

 ずいぶんとうやうやしく、文字通りのVIP待遇。


「あの、闖入者みたいな存在なのに」

「執政官様から請け負っておりますゆえご心配なく」


 あの執政官様ってナニモンだよ実際……ミワキ市のお偉いさんかと思いきや、国家規模じゃねえかよ。王様やら第一王子様やらいるってのに、凄すぎやしねえか。


「あの人は」

「ジムナール執政官様は不思議な人です。生まれた時から何か違うと言うか、王子様とか言う肩書がなくとも王子様と呼ばれそうなほどの」


 生まれながらの王子様ってのはいるもんだなってのは、テレビを見ていればわかる。

 幼い時からこの場所にたどり着くのが必然であるかのようにそこに収まっていて、それで誰にも文句を言わせない。もちろん努力に努力を重ねてそこにたどり着いているのだろうが、それでもその匂いを感じさせないのはやっぱりある種の才能だと思う。


「それにしてもすごいお城ですね」




 キミカ王国、トードー国、そして北ロッド国。

 少なくとも三回城を見て来た。




 ここにある城はキミカ王国のそれに近いが、どの城よりも強く、荘厳で、そしてなぜか白さが温かい。


 キミカ王国のそれは良くも悪くもちんまりとしていて、入りやすくはあったが庶民的に思えた。

 トードー国のは見慣れた和風のお城で荘厳だったが、どこか重苦しかった。

 北ロッド国はスケールとか言うより、ただひたすらに実用一点張り。


 お城を見るだけで国がわかるとか言うほど見慣れたつもりもないが、いずれにせよ何か違うと言う事だけはわかってしまう。



「では参りましょう」

「そうだな」


 俺はセブンスと手を取り合いながら、城へ向かって歩を進めた。

 

 セブンスの手がずいぶんと大きくなった気がする。ミルミル村に来た時には文字通りの細腕だったはずにたくましくなり、その上できれいさを失っていない。


「きれいな腕だな」

「ユーイチさんもずいぶんきれいですよね、やっぱり向こうに秘訣ってあるんですか」

「とくにないな。そう言えば俺の手も相当にごつくなったな。なぜかわからないけど」

「とりあえずその手はカッコイイです」


 で、俺の手もかなり節くれだった。足ほどではないがそれなりに鍛えていたはずではあったが、想像もしえないような形であったことは間違いない。

 クチカケ村でミミさんに小手を作ってもらい、それを付けるようになってからかなりの時間が経つ。それと剣という名の鉄の棒を持つ生活にも慣れたせいで少しごつくなっているのはわかっていたが、だとしても正直この変わりようには俺も少しだけ驚いていた。

 とりあえずセブンスはほめてくれたけど、なぜか微妙に冷たい視線が飛んで来るのは気にしないでおこう。




「それにしても豪華なお城ですね」


 赤じゅうたんに、壁に並ぶ武器、それからきれいなお花の入った花瓶にそれが乗っている机。それから照明のためのたいまつ。


「まあこの城は八年前、あの戦乱の後に建てられた仮城が土台となった城で、そのためにもこうせねばならなかったのです」

 そして豪華なのにも理由があるって訳か。

 昨日ようやく終わったとは言えロッド国との戦争は、実質的には十年間も続いていた。

 八年前の戦争の終わりも魔王軍の乱入に伴う和睦、と言うより休戦であって真の平和じゃなく、ミワキ市を含む旧ロッド国中央部の割譲ってのもロッド国にしてみればどうせ治められないだろうと半ば高をくくった結果だったらしい。実際小さな混乱はあっちこっちで起きていたようだったが、ロッド国の強引な徴兵のせいもあり人心は案外と簡単にシンミ王国になついた。

 その焦りもあって北ロッド国は軍事国家化し、シンミ王国への侵攻をたくらんでいたらしい。ピコ団長さんのように次なる戦の近さを思う人がいても全く不思議じゃないし、実際国境では今回のような事はいつ起こってもおかしくないと言われていたそうだ。


「この国は聖地を抱えております。その聖地をロッド国の先王は求めたとも言われております」

「聖地?かつて女神様が降り立ったと言う」

「ええ」


 聖地って言うぐらいだから相当な意味があるんだろう。それこそこの国、いやこの世界の運命を変えるような。


「それで行き先は」

「ツカオサ様の下です」

「ツカオサ様って執政官様の兄上様の」

「いえ、お父君様です」


 で、行き先は王様の下と来た。厚遇と呼ぶにも相当な扱いだ。

 行こうとすればペルエ市から一日で行けたけど、そこから反時計回りに一周して二か月あまり。今頃横浜は真冬だろうか。だがこの世界に四季はなく、三ヶ月もいるのに常春だ。強いて言えば最近少し熱くなってきた気もするが、仮に二月中ずーっとミルミル村にいたとしたらクチカケ村にたどりついたのは三月下旬、それなのにあんなにも雪山な場所なのは、そこから徒歩一時間足らずのエスタの町がいつも通りの空だったのはなぜか。


 それはさておき、いきなり行っていればこんな事にはならなかった。それだけは確実なお話だった。




「こちらです」




 俺がそんな事を考えながら歩いていると、一段ときれいなじゅうたんとたくさんの兵士の皆さん、そして、白いひげを生やした男の人がいた。




「ツカオサ様でございます」




 王様に、俺たちはひざまずいた。

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