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俺はお前を許さない

「エクセル!」




 魔物の力を得て、快速魔法を使い、俺に襲い掛かるエクセル。


 だが、これほどまで虚しい攻撃もそうそうない。




 何せ、ぼっチート異能がある限り、攻撃は当たらない。




 当たるとすれば適当に放たれた攻撃か、誰か別人を狙った攻撃か、それとも殺意のない攻撃かだ。


 俺が稽古の際に市村やトロベに勝てないのは、三番目の攻撃を受け止めきれないからだ。




 エクセルの激しい剣振りが俺を襲うが、剣に当たっても俺に当たる事はない。


 もうヘイト・マジックが効いているのかいないのかわからないが、いずれにせよこの攻撃の根源に俺への害意・殺意がある以上、何べん戦っても結果は見えている。




「すごいでしょ、エクセルは裕一よりずっと上手に戦えているの。わかったら、みんなにごめんなさいして二度と危ないことはしないようにって言いましょうね」

「起きながら寝言を言うなよ」

「もうまったく、どこの誰なのそんな悪い言葉を教えちゃったの。そんなのはもうないないしましょうね~はい指切りげんまんして」




 河野は高さ5メートル程度の城壁と言う、えらく高い所から物を言っている。


 うたのおねえさんじゃあるまいし、そんな言いぐさでどこの十五歳の心をなぐさめられるっつーのか。


「ここで手を止めれば俺が死ぬ」

「殺さないって、裕一を殺すなんてありえないから~。私は優しい優しい裕一に戻って欲しいだけなのに~、ねえ寂しい時とかなかった?」

「なかったけど」

「もう強がっちゃって、そういうのも可愛いよ」


 ウインクなんかするんじゃねえ!

 真っ赤な血だまりの側で男二人が斬り合いをしているのに!

 男だとか女だとかじゃなく、ただただ単純にむかつく。


「エクセル!河野をぶん殴って来い!」

「ちょっと!」

「俺の負けでいいから!とっとと行け!」


 言わんとする事がわからないほどには、ひねくれていないしバカでもないつもりだった。だがただでさえミタガワエリカと言う正論を暴論にしてしまった存在との激闘を経て来た事もあり、そんなまるっきりピント外れの正論に耳を傾ける気になれなかった。


 むしろ、ぶっ飛ばす対象になっていた。


「でも!俺はお前に!」

「気づかねえのかよ!俺はただの分身だ!」







 何よりかにより、今エクセルと打ち合っていたのは死体処理のためにセブンスが分身魔法で作った分身の一体に過ぎない。

 残る分身は死体から流した血を片づけるためにデッキブラシや桶を持ち出し、清掃作業に励んでいる真っ最中だ。もちろん死体が入った荷車を引いているのもいる。




「そんな相手との戦いで一生を終わらせることはねえ!」

「だが、俺はもう!」


 武器を振るうエクセルの顔が時々、魔物じみて来る。遺伝子改変とか、あるいは魔力でも突っ込まれてバランスを失ったのか。いずれにしても愉快な気分にはなれない。


「エクセル!悪いが河野には罪がある!お前に対して以外にも、数え切れないほどの罪が!って言うか聞こえていないのか、この勝負は俺の負けだ!一太刀も入れられない俺とお前、どっちが上でどっちが下かわかるだろうが!」

「参ったと、言う、まで、はぁ!」

 またエクセルが吐血した。それでいて攻撃が止まる事はなく、試合放棄宣言している存在を必死に斬り殺そうとする。

「参った!」

「ふざ、けるぅ、なぁ……グフゥ、アア、アア……!」

「もういい、休め!」


 ふざけてるのはどこの誰だよと言わんばかりに俺は目線を反らすが、その目線の先にいた女は平然と笑っている。


 罪悪感の欠片もなく、この死闘と言うにも一方的すぎる戦いを楽しそうに眺めている。



「もういいかげんにしてよ、これ以上迷惑をかけちゃダメでしょ」

「迷惑をかけてるのはお前だよ!」

「ほらほら、もうこれ以上危ないことはしないって約束して!」

「できるか!」

「駄々をこねちゃダメでしょ!」




 二次元と三次元じゃなく、三次元と異次元。




 あるいはドラマの視聴者か、ゲームのプレイヤー。




 そんな存在が惨劇の下で黒髪を平然と流しながら、保育士のように笑っている。







 だが、その保育士に預けられた子どもの人生は、あまりにも悲惨だった。







「アア、アアアアアア、アアアアアアアアア………………四十八手の、攻撃ぃ、受けて、ミロォォォォ…………!!」




 ミルミル村に届きそうなほどの叫び声を上げながら、前後左右上下斜めおよびそれらの中間からの、四十八手の攻撃を放った、らしい。


 わずか一秒足らずの間に放たれた凄まじいまでの刃が、俺の肉体を捉える事は、結局なかった。






 人間技では、チート異能を破れなかったのだ。







「オレの、負け、カァァァ……」







 エクセルは、自らの血の海に沈んだ。


 口だけじゃなく、体中から血を吹き出した、紫色の血の海に。




「あーあ、だからさ、どうして殺そうとしちゃったのかなー、ほんと、ガッカリだよ」




 俺がエクセルの肉体を必死に抱き起こす中、この場にいた生命体の一つは姿を消した。


「エクセル……!」

「ウエダ、ユー…イチ…」

「お前、どうして……」


 創造主に見捨てられ、血の海から這い上がりながら、必死に肉体を起こし舌を振るうエクセル。


「あの、コーノハヤミは、ナナナカジノ、で……」

「ナナナカジノ?」

「お前が、あんな、戦果を……俺は自信を失い……」


 ナナナカジノ。まだヘイト・マジックすらなかった時、エクセルと共闘した時。


 あの戦いで戦果を挙げてしまった俺に置いて行かれたと思ったエクセルに、河野は目を付けたと言うのだ。


「それでお前は」

「ああ、でも決して、見せない、ように……お前が……いつか、救いを……」


 そして河野はエクセルに、俺の見張り役を任せたらしい。

 いつの日か、俺が音を上げてくれる日を。


「だから近頃のお前は、河野の意思に従い……」

「ああ、お前とやり合い、たかった……」

「言っておくが、この俺は分身だぞ……」

「構、わ、ない……やはり、お前には、かなわ……ないって、わか……………ったか、ら…………………」







 満足そうな顔をして、エクセルは生涯を終えた。







「なんで、そんな顔が、できるんだよ!ふざけるなよ!ふざけるなよ…………」




 戦士の死に様だとしても、あまりにも惨めだ。


 力欲しさとは言え河野に利用され魔物のようになり、最終的に分身なんかとの戦いで命を使い果たして、本丸の俺にはたどり着けないまま…………。




 分身越しでも、涙が止まらなかった。




 これまでの十五年間の生涯のどの時よりも、泣いた。







 紫色の血を薄めるかのように、泣いた。

第16章最終話です。明日は三人娘外伝、明後日は本編の外伝、本編再開は6月3日。

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