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「最後の慈悲」

「一応チャンスは与えたんだけどね」

「まさか俺と違う中学、三田川恵梨香と同じ中学にいた時に俺に謝れとでも言ったのか?」


 河野はなおも演説を続けている。


 って言うかチャンスだって。


 何がチャンスなんだか。


「くどいわね、言ったわよはっきりと。三年生の時に。でもあーはいはいでおしまいで、もう心底から失望したわ」

「失望して、どうしたんだよ」

「だから、因果応報、自業自得よ」




 口の軽さが、何よりも恐ろしい。

 さっきも言ったおしおきって言葉の軽さと相まってさらに背筋を寒くする。エクセルによって作られた屍山血河の方が見られる光景だとさえ思えてしまう。


「何目を逸らそうとしているの」

「逸らしたくもなるよ」

「人の話はきちんと聞かなきゃめっでしょ」

「お互いの姿を見ながら物を言えよ」


 そのあげくにめっだと。

 高校生にもなってなんでそんな事が平然と言えるのか言われなければならないのか、しかも人殺しの道具を持ち合っているのに。あまりにも不自然、カット&ペーストされたようなコラージュみたいだ。




「コーノハヤミ!お前はどっちの味方だ!」

「エクセルを殺せ!」

「姫様、いや女王様の仇を討て!」


 俺らが動きを止めていると、今まで呆然としていた北ロッド国民が動き出した。

 在位数分間の女王様の仇であるエクセルを殺すべく、死体の山を踏み越えて武器を握りしめて。


 っておい!俺はその死体の山に挟まれてみんなと……!



「上田君!こっちへ!」



 赤井が補助魔法をかけようとするが、あまりにも距離がありすぎる。しかも暴徒と化した北ロッド国民という壁があり届きそうにない。

 狙いが俺ではなくエクセルだとすると非常にまずい!

(いったん城の中に入り……!)

 とりあえず城の中に逃げ込んでと思ってギウソア王が死んだ城の中に逃げ込もうとすると、急に足が浮き上がった。

 



 頭を何者かにつかまれているような感触と共に、城の方を向きながら後ろへと飛んで行く。




 足元には、暴れ回る北ロッド国民とエクセル。


「空を飛んでるのか!」

「しーでしょ、しー!!」


 葬式か結婚式の時のように静寂を強いられた俺は、いつの間にかシンミ王国軍の最後方にまで送られていた。




「ほらそこで、ちゃんとお話を聞いて!それがいい子のお約束でしょ!」

「それはひょっとしてギャグで言っているのでありますか!?」


 赤井の言う通りだ。俺はもう、いい子でいるには悪いことをしすぎた。この手により何百人も殺し、ケタ二つ違う人間の運命を狂わし、さらに同級生二名を牢屋に放り込んだ。

 いや、それ以前に俺に負けたせいで陸上部をやめてしまったよその学校の上級生もいた。本来なら俺のようにスポーツ推薦で大学進学して箱根駅伝を目指す予定だったのに、俺と走った際にめちゃくちゃな走りをして自信喪失し、それで……という流れだ。


「俺はもう良い子ではいられない。お前だってわかっているだろう」

「騎士とは軍人であり、軍人とは人の命を奪うのが職務だ。それが悪と言うのであれば別に言われても構わぬ」

「ロキシーだっていい子だったよ、でもそのせいであんな真似をしちゃったの」

「ああもう、私が話そうとしている時はしーだよ、しー!!」


 河野は、俺の言葉も、赤井の言葉も、トロベやオユキの言葉も聞こうとしない。


 昔から俺が何か言い返そうとすると同じ調子で口をつぐませ、言いたい事だけ言って終わると反論を許さないままいなくなる。


 今回もまた同じように俺を後方に置いたと思ったらいつの間にか城の上に戻り大きく距離を空けている。違うのはより遠くなったはずの俺に向かって言葉を続ける事だけ。


「この世界でもお前は三田川恵梨香を説得したのか?」

「そうよ、ノーヒン市で売られていたポッキーを持って。それで裕一に謝るように言ったけど、相変わらずのバカっぷりで。もう完璧に見捨てたの」

「完璧にって事は、以前は少しは情があったって事か」

「一応ね。お山の大将気取ってここまでやるとは思わなかったけど、まさか最後の最後まで気付かないとは思わなかったわよ。自分が特別な存在だと思うのは勝手だけどね、普通なら違和感に気づくよね、普通なら」



 そして、大げさにため息を吐きながら三田川の事をおとしめるのはもっと違っていた。



「お前、最初から三田川の能力の落とし穴を……!」

「そう。だから素直に謝っていればその対策を施してあげたのに。なんでそうしないのかしら。後悔先に立たず、下衆の後思案よ」

「なんでそれを早く言わなかったんだよ!俺たちにも!」

「そんな事をすれば油断して負ける可能性が生まれるから。それじゃ三田川と裕一の両方を失う事になるわ、片方しか守れないならどう考えたって裕一を守るに決まってるじゃない」



「ミタガワエリカ」のMPが回復しないと言う落とし穴を掘っていたのは、いったい誰なのだろうか。俺たちはその落とし穴に誘導する形で彼女を止めたが、もしそこに河野がいればもう少し楽な形で止められたかもしれない。なのになぜそれをしなかったのか。


「まさかお前」

「複雑な理由なんかないけど、裕一を悲しませた奴を助ける義理なんか1アトもないけど。ああ1アトってのは10のマイナス18乗ね」



 河野の口角が上がり、両手の親指と人差し指も立っている。



 食い物の恨みは恐ろしいとか言うが、自分ではなく俺のためにそこまで怒れるのか。


 十年もの間違う時間軸の中に閉じ込め、あげくこの世界でさえもあまりにも残酷な運命を突き付けられてなお笑えているのか。








 恐ろしい、ただただ恐ろしい。

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