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ポッキーの意味

第16章終盤、ここからどんどん重くなって行きます。

「裕一、覚えてる?小学一年生の頃の事」

「何をだよ」







 唐突に第三の魔王とか言うありえない名乗りを上げた俺の同級生、河野速美。




 彼女は魔力のおかげなのか数十メートル離れている俺にも見えるような笑顔のまま、右目を軽くつぶった。




「すごく、悔しかったでしょ?あの時の悔しさ、私が晴らせるようにしてあげたから」

「悪いけど何を言ってるんだよ」

「エクセル」

 

 河野は当然のようにエクセルに命じ、俺の手に何かを握らせた。

「ポッキー!?」

 赤い箱に描かれた棒状のチョコレート菓子。ノーヒン市で見た事があるが、買う事はしなかったスナック菓子。ちなみに値段は銅貨十枚と、きわめて一般的だった。


「そう、ポッキー。私はね、ずっと許せなかったの」

「許せない?」

「そう、最後の一個を持っていた奴が、裕一君がずっと食べたかったのを。覚えてるでしょ、ポッキーを十箱あげたのを」



 紛れもない、河野速美の声。


 そして、思い出。


 あの時は毎日ひと箱消化して両親にも頼って一週間他におやつが食えなくて正直参ったとしか思えなかったが。河野の中ではきれいな思い出になっているらしい。

 って言うか俺との過去のプライベートな思い出をべらべら語りまくる第三の魔王様に、俺もセブンスたちもシンミ王国軍も、いや北ロッド国民さえドン引きだ。


「いや、その時のすごーく残念そうな顔、私は忘れてないから。だから私、ちょっと怒っちゃってね」

「怒った所で何になるんだよ」

「私は謝って欲しかったの。悪いことをしたらごめんなさいは常識でしょ」

「それが……?」

「だから、私はおしおきをしたの。そんな風に裕一君においたをした悪い子にね」


 ——————おしおき。品切れと言うどうしようもねえお話でおしおきなんて、あまりにも行き過ぎてるじゃねえかよ。

「アホかお前は」

 だから、他に何の言いようもない。まさか水をぶっかけたとでも言うんだろうか、それこそしょうもなさの極みであり、やられた方に同情ばかりが集まる。



「でもさ、本当ガッカリだよね、十年経ってもまだ気づかないのかって。クラスでも言ってやったんだけどね。裕一に謝れって」

「えっ!?」



 って思ったらなんだよ、まさかクラスメイトにいたのか!その哀れすぎる下手人とやらが!



「まさか私が!」

「もう、赤井って優等生なのにどうして頭が回らないのかなあ。さっきも言ったでしょ、十年経っても気付かないのかって」

「十年越しのおしおきなんて、どんな次元だよ」

「すぐさま謝らないからいけないんじゃない、それこそ借金と同じだよ。ねえわかるでしょ、ある時払いなんて虫のいいお話はそうはないの」


 1+1=2である事を説明するかのような口調で話しているが、その上で赤井が勇敢にも名乗り出たのに反応は異様に冷たい。

 そしてたかがポッキーひとつで十年単位だなんて、どんだけ執念深いんだか。


「その間何とか反省の色をつかむ事は出来なかったのか?」

「無理よ、そいつは十年引きこもってたから」

「冗談もいい加減にしろ、小学一年生が十年も引きこもれるか!」

「家の中じゃないわ、私の魔法に」



 で、魔法。俺らにとってはずいぶんと都合のいいチート異能だが、この世界に取っちゃさほど珍しくもない言葉。

 俺にとっては前者だったが、河野にとっては後者なんだろう事がすぐわかった。



「まさかお前、魔法を俺たちの世界で」

「使ったわよ、裕一を悲しませた、あの女に」

「あの女って、まさか!」


 あの女と言う単語が出た瞬間、俺の頭に電流が走った。




 ——————俺のクラスメイトの女子。








 大川弘美、平林倫子、神林みなみ、木村迎子、日下月子、藤井佳子、前田松枝、米野崎勝美。







 あと、河野速美。











 そして!











「まさか三田川は!」

「そう。あの強欲女よ」








 三田川こと、ミタガワエリカ。


 最初の魔王を殺して二代目魔王として君臨し、わずか数日の間に魔王領内部、ミワキ市において破壊の限りを尽くした魔王。それ以前から、サンタンセンやブエド村、いやそれ以上にあちらこちらで相当に横暴に振る舞って来た暴君。




 いや、一年五組を実質的に支配していた、360度全てにケンカを売っていた悪魔。




 話によれば十年単位でそんな事を繰り返し、ある意味ケンカの強い天才少女としてよくも悪くも名の知れ渡っていた存在。




「必死になって勉強していろいろ頑張ったとか言うけど、どうしてその間にあなたに悪いことをしたって気付かないのかなって、本当もうガッカリだよ」

「何がだよ……」

「実は中学の時、あの女と同じクラスになってさ、裕一の名前をはっきり出して言ってあげたんだよ、裕一に謝れって」

「けんもほろろだったと」

「その通りよ、まったく何が天才だか、あんなつまらないギャグもないわね」


 両手のひらを上に向け、深くため息を吐いている姿と来たら、完璧に上から目線のそれだ。


「三田川恵梨香は一日二十時間勉強したとか言っていたが」

「そうよ。一人っきりでいろいろ思い返していればいずれは反省するかも通っていたけど、全然ダメね。怠ける事さえせずにずいぶんと有意義に使ってくれちゃって、本当にいけ図々しいったらないわね」

「何なんだよそれは!」

「一応チャンスは与えたんだけどね」

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